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第1話『異世界転移、そして追放』


「おい高木(たかぎ)! 早く合体してみせろ!」


 俺、高木 透夜(たかぎ とうや)は今、クラス委員長から見知らぬ女生徒との合体を迫られていた。


 いや、正確には同じクラスの女子なので、まったく知らないというわけじゃないが、少なくともクラス一の陰キャである俺は、彼女と話したことは一度もない。


「あ、あの、高木くん……」


 クラスメイトたちによって俺の前に押し出された銀髪ロングの少女は前髪も長く、左目はほとんど隠れていた。それでも美少女だとわかるくらい、その顔立ちは整っている。


 状況が状況でなければ、おそらく見惚れてしまっていたと思う。

 けれど今、夏の海を思わせるような彼女の青い瞳には、薄っすらと涙がたまっている。


 そのうるんだ瞳に映る俺は、ひたすらに困惑顔だった。

 ……いったい、どうしてこんなことになってしまったのか。俺は少し前の記憶を思い起こしてみる。


 ◇


 前日も夜遅くまでゲームをしていた俺は、予鈴ギリギリに教室へ滑り込む。


 できるだけ目立たないように席につき、鞄から筆記用具を取り出そうとしたところで……視界が白く染まった。

 そして気がつけば、クラスメイト数人とともに、この謎の空間に立っていた。


 足元にはゲームで見るような巨大な魔法陣が描かれていて、いかにも魔導士らしい服装の連中が俺たちを取り囲んでいる。


「若者たちよ、異界からよくぞ参られた!」


 呆気にとられていた時、少し離れた場所からよく通る声が飛んでくる。

 そこには玉座があり、ヒゲ面のオッサンが威厳たっぷりに座っていた。


「我はオルティス帝国・皇帝リードリヒである。諸君らを歓迎しよう」


 皇帝と名乗ったオッサンは立ち上がり、両手を広げる。

 ここに来て、俺はようやく理解した。これはラノベでよくある、異世界転移というやつだと。


 俺もその手の本はよく読むし、単語の意味も理解している。まさか、自分の身に起こるとは思わなかったけど。

 まぁ、今のクラスは居心地悪かったし、異世界に来て環境が変わるのなら喜ぶべきかも……うん?


 そこまで考えて、はと気づく。


 待てよ。異世界転移したということは……!

 俺はポケットに入れっぱなしだったスマホを取り出し、その画面を確認する。当然のように圏外だった。


 くあ……マジかよ。あれだけやりこんだエタクエ、もうログインできねーじゃん……。


「諸君ら六名はこの世界を救うため、勇者候補として呼び出された。これは大変名誉なことである」


 俺が肩を落としている間にも、皇帝の説明は進む。


「勇者の証として、それぞれ専用のスキルが付与されているはずだ。まずは、それを見せてもらいたい」


 そんな時、『スキル』という単語が聞こえ、俺の胸は高鳴った。

 この手のラノベでは、転移者に強力なスキルが付与されるのが定番だ。きっと俺もチート級のスキルが使えるに違いない。


 ◇


 ……そして、今に至る。


 相変わらず、クラス委員長たちの『合体』コールは続いている。

 彼らの言う『合体』とは……つまり、俺と彼女――橘 彩音(たちばな あやね)さんに付与されたスキルのことだ。


 それは文字通り、同じスキルを持つ者同士で『合体』するものらしいが……その発動方法は不明。

 俺だって年頃の男子高校生だし、男女で『合体』なんて言われると、どうしてもその……別の意味を考えてしまう。


 というか、それ以外考えられない。


「わ、わたしっ、がっ……たぃ……なんて無理」


 目の前の橘さんも俺と同じ想像をしているようで、耳まで赤くしながら目を泳がせていた。

 元々聞き取りづらい声が、後半になるにつれてますます小さくなっていく。


 なんとなくだけど、彼女も俺と同じ陰キャな気がした。同族にはわかるんだ。


「あなたたち、とりあえず抱き合ってみたら?」

「いや無理だから」


 クラスで副委員長を務める新田(にった)さんが当然のように言い、俺と橘さんの声がおのずと重なった。


 そもそも、スキルの発動条件がわからないのが問題だ。俺の手のひらには円形状の紋章が浮かび上がっているものの、それに触れようが念じようが、何も起こらない。

 ちなみに新田さんのスキルは召喚魔法で、馬鹿でかいドラゴンを呼び出してみせていた。


 他にも、クラスで書記を務める佐々木(ささき)さんは回復魔法が、同じく会計を務める井上(いのうえ)さんは各種属性魔法が扱えるようだった。


 そのどれもが定番とも言えるスキルで、見た目も効果もわかりやすく、ド派手だった。

 それなのに、どうして俺と橘さんはこんな意味不明なスキルなんだろう。これじゃ元いた世界と立場は同じ……いや、それ以下だ。


 というか、あれだけいたクラスメイトのうち、どうして俺たちだけが異世界に飛ばされたんだろう。

 あの四人はクラス役員という共通点があるけど、俺と橘さんは一般生徒のはずだ。異世界に呼ばれる理由なんてない。


「はー、これだけ応援してやってんのに。やっぱ陰キャ同士じゃ無理か」


 これはもしかして、いわゆる巻き込まれ転移ってやつなのか……なんて考えた時、クラス委員長――神宮寺 天(ジングウジ テン)が吐き捨てるように言った。


 クラスカーストの頂点に位置する彼は、ことあるごとに俺に突っかかってくる。

 理由はわからないが、その嫌な性格は異世界に転移したくらいでは変わらないようだった。


 ちなみに彼のスキルは、様々な属性の剣を呼び出して自由自在に操るという、厨二病……いや、いかにも勇者らしいスキルで、皇帝からも絶賛されていた。


「皇帝陛下、一つよろしいでしょうか」


 続いて天は玉座へ向き直ると、大げさにひざまずきながら言葉を紡ぐ。


「彼らはせっかく与えられたスキルを使いこなせないようです。勇者候補として、これはいかがなものかと」


 ……え、ちょっと待って。天のやつ、何言ってるんだ?


「そのようだな。仮にこのまま魔王封印の旅に出たとしても、辛く厳しい旅路を乗り越えられるとは思えぬ」


 えええ、皇帝も肯定しないでほしい。いや、ダジャレじゃなくてさ。


「そうなると……処遇を考える必要がありそうだな」

「私もそう思います。皆もそうだよな!?」


 皇帝の言葉に天は深く頷いたあと、半ば煽るように残る三人へ問いかけた。


「ええ、私はいらないと思うわ」

「そ、そうねー。あたしたちのパーティーに、役立たずはいらないわよー」


 そんな彼の意見に、新田さんと井上さんがすぐさま同意した。

 天は恋人である新田さんを筆頭に、周囲を自分に好意を持つ女子で固めている。そんな彼女たちが、彼の意見に反対するはずがなかった。


「もう、このまま追放で良いんじゃないかしら」

「あ、あたしもそう思う! 追い出しちゃえ!」


 やがて彼女たちの口撃はエスカレートし、ついには俺たちを追放するという意見まで出てきた。


「あ、あの、いくらなんでも追放はないんじゃ……俺はともかく、橘さんは女の子だしさ」

 隣でおろおろするばかりの橘さんを見ながら、俺は普段出し慣れていない声を必死に絞り出す。


 彼女たちとはほとんど会話したことがないけど、誰か一人くらい味方してくれないものか。

 淡い期待を抱きつつ、クラス役員の中でも一番おとなしめで、どちらかと言うと陰キャ属性の佐々木さんに視線を送るも……無表情のまま、バイバイ、と手を振られた。


「これは、決議を取る必要もなさそうだな。タカギ トウヤとタチバナ アヤネ、両名を追放処分とする」


 そんな状況を見かねてか、リードリヒ皇帝はぴしゃりと言い放った。

 ……かくして、俺たちの追放が決定してしまった。


「速やかに二人の追放を実行するように。転移場所は……プレンティス王国の外れで良い」


 皇帝が気だるげに指示を出した直後、近くにいた魔導士が杖を振り上げる。すると俺の視界は白く染まっていく。


 次に体が浮き上がるような感覚が襲ってきた時、俺のほうを見ながらほくそ笑む天の姿が見えた。


 くそっ……俺たちが何したって言うんだよぉぉっ!


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