7 バカの真実!
「うぁぁぁぁぁ!!!!」
山賊は腰を抜かして倒れる。アベル達の脱走を気にするどころではないのだこの男は。
「やべぇやべぇ、スライムだァァ!!!」
黒色のゼリーのような液体は巨大な雫ように固まっている。その液体の上を一つの目玉が移動して周囲を確認するのだ。
『スライム』 種族不明
ネーベン地方・カラストラ地方に生息する魔物である。小さなスライムが合体することによりドンドンとその力を強める。そのとろける巨体で全ての生物を吸収していき、栄養分とする。ヘドロのような悪臭でありスライムの周りは草木が枯れ、また植物が生えることは不可能。対処方法は魔法による蒸発、冷凍、存在抹消のみ。
よって普通、山賊にはスライムへの対処方法が存在しない。スライム1匹に寝床を襲われて全滅した山賊の集団は数知れず。よって男は腰をガクガクとさせているのだ。
しかし、男が今誘拐しているのは魔法使いの家系である。アベルはともかく、ここで唯一魔法が使える者がいるのだ。
「私魔法が使えます! 縄を解いてください!」
「ほっ本当か!?」
解かれた縄が地に落ちて、震える山賊の前に凛々しく立つリアナ、彼女は『詠唱』に入る。彼女の指には小さな魔法陣が浮かぶ。
「フリーズ!!!!」
リアナの指が向けていた方向に冷気が現れスライムを固めていく。液体状の魔物への弱点であるフリーズをリアナは想定して勉強していた。いわば彼女にとっては初めての実戦でもあり、何度も復習した魔法でもある。
その威力は子供ながら高く、スライムの身体の半分は凍りついた。しかし、スライムは自分の固まった部分を剥ぎ取り離脱。リアナはその隙を許さず逃げた方に
スライムの最も恐ろしい特徴、それは身体にある毒素でもなく弱点が少ない事でもない。スライムは合体する前はすばしっこく魔法をうまく当てられない。実はこれ、合体しても動きの鈍りは起こらないのである。
つまりスライムは高速的な移動が可能である。
リアナの魔法を次々と躱して距離を詰める黒い化け物。彼女との間はもうすぐそこだ。
「何してんだ当てろよぉ!!」
「難しいんです! 今まで止まった的にしか練習していないから!」
魔力は多くとも所詮子供、熟練度は下の下であるリアナにはこのスピードは難敵である。
アベルはバカなりにわかっていた。このままでは近づかれて皆スライムに吸収されてしまう。
自分に出来ることを探し、そしてバカなりに閃いた。
「リアナぁぁ!! 俺も魔力も使ってくれぇぇ!!魔力が高ければ魔法は大きくなるのだろう!! 教科書に書いてあったぁ!!」
リアナは縛られていたアベルに手を当てて『詠唱』を始める。
「マジックシェア!!!」
『マジックシェア』
対象1人と自分の魔力を合計して使用できる。要はリアナの魔力にアベルの魔力がプラスされたのだ。この魔法は使い道が限られており、対象の魔力消費が2倍になるというデメリットも存在する。
「からの!! フリーズ!!!」
リアナの指に浮かんでいた小さな魔法陣。その魔法陣は魔力の量をと本人の魔力技量を示す。
「!?」
スライムは凍りついた、いや魔法を撃った方角がほとんどが凍りついたのだ。