6 山賊、壊滅、未解決。
「ヘッヘッヘ、レグラコス家の馬車だな! アベル・レグラコスはどこにいる!」
急に止まる馬車、山賊の奇襲である。賊は馬車の前に現れ弓矢と松明の炎により馬を驚かせる。
「山賊です! それもかなり人数で」
「山賊か、では私が相手しよう」
ヴィルヘルムは両手に魔法陣を腕輪のように出現させて戦闘体制に入る。しかし、女神クリアナはそれに賛同をしなかった。
「ちょっと待って、せっかくここに女神がいるのよ。私に任せて頂戴。それにヴィルヘルムさんにもしもの怪我があったら大変だもの」
執事ネルドルは女神の意見にうんうんと頷く。
「た、確かに。女神様が居てくだされば百人力ですな!」
「え?私は戦わないわよ?地上では力に制限があるし」
「しかしそれでは誰が賊と戦うのですか。クリアナ様」
「まあ任せておきなさい」といった表情を浮かべた彼女は魔法の詠唱に入る。その長い長い詠唱により空に巨大な魔法陣が広がっていくのだ。
「な、なんだ!? 空に魔法陣が! とんでもない魔法使いがいるのか!?」
クリアナは手に絶大な量の魔力を込めて呪文を唱える。
『神域援護魔法・武』
「ぎゃぁぁぁ!!!」
その眩い光がネルドルに向かい浴びせられたのだ。
「「「!?」」」
魔法陣が消えて怯んでいた山賊達は目標を思い出し馬車に乗り込もうとする。
「ほわちゃァァァァ!!!」
馬車の扉から飛び出たのは誰の他でもない。執事歴46年、今年67になる執事ネルドルだった。
「あの魔法は一定時間どんな人にも『極限までの武』を付与できるの」
「す、すごい。ネルドルが機敏に動いて賊をボコボコにしている」
ネルドルによる天下無双は賊を壊滅させるまで続いた。山賊の悲鳴が止まないが殺しはしていないのでクリアナは満足して、ヴィルヘルムとカーラはドン引きしながら見ていた。
賊は壊滅した。
「ちなみに、ネルドルはいつぐらいに元に戻るのでしょうか?」
「後3日ぐらいはこのままです」
「えぇ」
「ほわちゃァァァァ!!!!!!!」
馬車の中から悲鳴が聞こえる。母カーラの声だ。
「どうした、カーラ……なっ!」
そこには母カーラしかいない。そう、アベルとリアナが居ないのだ。
「もしや、窓から息子達だけ連れ去ったというのか!!」
ーーー
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!! 放せぇぇぇぇ!!!!」
山賊の生き残りに縄で捉えられて抱えられているアベル達。アベルの大音量に賊はキレる。
「うるせぇ! 変なジジィのせいで何もかもメチャクチャだ! せめてお前らだけでも献上してやる!!」
「ぬぉぉ!! 放せぇぇ!!! 放せぇぇぇぇ!!!」
「うぁぁんん、お母ざん!!」
ーくそ!! このガキ共うるさすぎる。これじゃあ音で場所がバレちまうじゃないか!!
2人を持って森を駆け抜ける山賊、それを『ナニカ』が見ている。