3 バカの本音!
「ぬぉぉぉぉ!!!! フレアぁぁぁぁぁ!!!」
バカの雄叫びは虚しくもただ雄叫びに終わる。アベルが唱えたのは『詠唱』と呼ばれるモノだ。
「はぁ、結局今日もダメでしたね兄様」
「す、すまないリアナ! 今度こそ成功させる!!」
ー何がダメなのかしら、魔力の理解度が不十分? それとも呪文がまだ記憶できていない?
魔法失敗の理由を考察するリアナだったが、答えが一切見つからない。
「兄様! フレアの『呪文』はちゃんと理解できてますか?」
「ああ! えーと、、、すまないもう一度教えてくれ!!」
彼女のため息がアベルをさらに焦らせる。
魔法を習得するには魔法それぞれが持つ理解困難な文字『呪文』を覚えなければいけない。少しでも理解に欠けていると魔法は唱えられなくなってしまうのだ。呪文を頭の中で再確認した上で口から『詠唱』をする事でようやく魔法習得は完成する。
ー兄様は呪文の理解がかなり下手だ。
リアナに魔法を教わってから3日経ったがアベルはまだ一度も魔法を成功していない。
休憩中
「リアナ!! 話がある!!!!」
極端なその大声にリアナは傾けたくないが耳を傾ける。
「どうやら俺は魔法が下手なみたいだ。だから魔法は諦めることにする」
「え?」
唐突な宣言にリアナは固まった。そして動揺しながら何故か問う。なぜならアベルという男は今現在まで魔法を諦めたことがないからだ。
「俺はバカだ。リアナみたいに頭は良くない。それで魔法が使えないのかもしれない」
「….でも兄様は魔法が使いたいんでしょ!」
「俺は魔法が苦手だ」
「…!じゃあ何故魔法を習得したかったんですか!」
アベルは珍しく静かになる。彼が今思い出しているのは「前世の記憶」。自分をバカだと戒める苦い彼の両親との記憶だ。
彼は口にはしなかったが、リアナは薄々感じていた。アベルが気にしていたのは自分ではない。自分の両親だ。特に最近、母のカーラは過保護気味になってきている。彼の前世のトラウマが今の親への思い、そして魔法への執着に変わったのだ。
「だが長男として他の勉強は頑張るぞぉぉ!!! 勉強はなんとか追いつけているからなぁ!!」
アベルはいつものアベルに戻った。表向きには元通りの兄に安心する妹を演じたリアナ。しかしリアナの心の動揺は消えていない。
「よし!! それじゃあ俺は筋トレと勉強をしてくる!! 教えてくれてありがとうリアナ!! リアナも魔法をがんば」
「嫌です!!」
アベルのセリフを遮る。幼いリアナは嫌だったのだ。自分の大切な兄が何かを諦めることが、兄の悲しみがすごく嫌だったのだ。
「私が頑張ります! 頑張って兄様に魔法を教えます! 兄様が諦めるなんて私が許しません!!」
リアナはこの日、初めてアベルより大きな声を出した。少し涙声になったその大声、音量でわかる彼女の覚悟を見たアベルは唖然した口をニカッとさせて了承した。
「分かったぁ!!! 俺は全力で頑張る!!!」
「私も頑張ります! 兄様!!」