99 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う4(カザオト視点)
「東の城壁が破られそうだ! カザオト、こっちはいいから、お前は東側へ救援に行け!」
「承知!」
指揮官に言われ、カザオトは走り出した。
東の城壁といえば、確かそこの守護部隊にはグランも配置されていたはずだ。
「無事でいろよ、グラン――」
祈るようにつぶやきながら、カザオトはさらに加速する。
ほどなくして東側の城壁にたどり着いた。
「あれは――!」
全長30メートルはありそうな巨大なモンスターが全部で五体、炎や雷を吐いて城壁に攻撃している。
「魔獣か……」
それもおそらくは上位か、最上位の強力な個体だ。
それが五体も――。
と、
どごぉぉぉっ……!
魔獣の一撃で数人の魔族が吹き飛ばされてきた。
「あ……が……ぁ……」
その中にグランの姿がある。
苦鳴を上げ、弱々しい歩調でこちらに向かってくる。
「グラン!」
「ここは……もうだめだ……俺は、姫を守りに……行く……」
血まみれのグランが言った。
「グラン……?」
「ここを、頼めるか……」
と、カザオトを見つめる。
「お前しかいない……あの化け物を食い止められるのは……」
「――分かった」
カザオトはうなずいた。
「姫を頼むでござる」
「任せろ……」
言って、グランは駆けだした。
その口元にかすかな笑みが浮かんでいるのを、カザオトは見た。
(なんだ……?)
安心した、という感じではない。
まるでほくそ笑むような……どこか嫌な感じの笑みだ。
が、気にしている暇はなかった。
目の前には巨大な魔獣が五体。
「【疾風雷神】伝承者、カザオト・レイガ――参る!」
吠えて、駆け出すカザオト。
彼が修めた古流剣術【疾風雷神】は、風のごとき速度で駆け抜け、雷のごとき鋭さで敵を斬り伏せる速度重視の剣術だ。
「はああああああああああっ!」
魔獣の攻撃はかすりもせず、疾風のように走り抜けたカザオトが、まず魔獣を一体斬り伏せる。
――いや。
「浅い……!?」
さすがに体のサイズが違い過ぎるため、一撃を加えたくらいでは大したダメージにならないようだ。
スピードはこちらが圧倒しているが、こちらの攻撃の威力を相手の耐久性が圧倒的に上回っている――。
しかも五体が次々と炎と雷撃を放ち、その合間に爪や牙などの肉弾攻撃もしかけてくる。
「ちいっ……」
カザオトは後退した。
一人では、とても立ち向かえない。
見回せば、すでに守護部隊は壊滅し、城壁もボロボロだ。
「――撤退か」
苦い思いで判断した。
破れた城壁からは、すでに敵兵が乗り込んできている。
いったん退き、姫やグランと合流した方がいいかもしれない。
「姫、グラン……どうか無事でいてくれ――」
カザオトはその場を離脱し、走り出した。
――そして、すべての崩壊の時が訪れる。





