98 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う3(カザオト視点)
「グラン、私とお前は……」
ルナリアが切なげにため息をついた。
「私はいずれこの国の女王となる身だ。いつまでもこうして逢っているわけにはいかない」
「分かっております、姫。私たちは結ばれない運命――」
グランも悲しげだ。
「ですが、いえだからこそ……この瞬間が何よりも大切なのです。叶うならこの瞬間が永遠に続いてほしいと思います」
「それは私も同じだ」
言って、二人はまたキスを交わす。
一国の姫と一介の騎士……そう、二人が一緒になれるはずがない。
それでも二人は想い合っているのだろう。
カザオトは憧れの女性が他の男と口づけを交わしていたショックよりも、二人の境遇に対して同情と深い悲しみを覚えていた。
そしてグランに対しては嫉妬もあるものの、それ以上に羨望と共感を。
「ですが、姫……もしこの国が変われば」
「グラン!」
「仮定の話です。例えば、この国の体勢が変わり、私たちが結ばれる未来もあるかもしれません」
「そうなれば……でも、それは夢だ。私は王女で、お前は騎士。しょせんは……」
「私は、諦めません」
グランが力強く言った。
「そのためなら、悪魔に魂を売ってでも――」
カザオトはその場から、そっと離れた。
いつまでも盗み見しているわけにもいかない。
それに二人の『恋人同士の会話』を聞いているのが辛くなったのだ。
それから一か月後、カザオトたち三人の運命は激変することになる。
その日、リサカ王国は謎の一軍からの侵攻を受けた。
それが他国からの侵略軍だったのか、あるいはどこかの私設軍隊だったのか、それとも秘密結社や組織の類だったのか――今となっては何も分からない。
ともかく謎の勢力によって、国は蹂躙された。
王国の騎士団は総勢で立ち向かったが、瞬く間に蹴散らされた。
そんな中、カザオトは孤軍奮闘していた。
迫りくる下級魔族【デモンブレイダー】の兵団を前に、刀を振るい、次々と斬り捨てていく。
「な、なんだ、あいつは――」
「一人だけ化け物がいるぞ……!」
「強すぎる……!」
敵兵たちは戦慄しているようだ。
「死にたい者からかかってこい! この国は拙者が守る!」
カザオトは血濡れの刀を手に、吠えた。
そう、守るのだ。
大切な友と恋しい姫がいる、この国を――。





