97 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う2(カザオト視点)
リサカ国。
カザオトの生まれ育った故国であり、この国は代々女王を戴く国である。
その第一王女――つまり次期女王となるべき少女が、カザオトとグランの主だった。
王立騎士団団長にして姫騎士、ルナリア・リサカ。
「ふふ、今日も精が出るわね、カザオト」
その日、騎士団の正規の訓練後に居残りで剣の修行をしていると、一人の少女が通りがかった。
豪奢な白いドレスをまとった、絶世の美少女――。
「ルナリア様!」
カザオトは慌てて剣を下ろし、その場に平伏した。
「楽にしなさいよ、カザオト。今は公の場でもないし、私はお前に友人として話しかけているのよ」
彼女……ルナリアが笑った。
(友人、か)
内心で少しだけ落胆する。
分かっていたこととはいえ、姫は自分を友として見ている。
もちろん、それは非常に光栄なことだし、嬉しいことでもある。
だが、カザオトの方は自分より七歳年上のこの王女に対して、淡い恋心を抱いていた。
彼女を守る騎士になることにすべてを懸けてきたのも、その恋心あってこそ。
ルナリア姫は――カザオトにとって青春そのものなのだ。
とはいえ、一介の騎士と一国の姫が釣り合うはずなどなく、まして結ばれることなど夢のまた夢だった。
「ありがたき幸せ」
だからこそ、カザオトにできるのは、姫の側に仕え、姫と言葉を交わせる幸せを噛みしめることだけ。
それ以上を望むことなどできなかった。
それから数日後の夜――。
もはや日課になりつつある居残りの修行を終えたカザオトは、騎士団の詰め所を出て城内を歩いていた。
「すっかり遅くなってしまったでござるな……」
もう夜中だ。
雲一つない星空に、ひときわ明るい満月が輝いていた。
月明かりに青白く照らされた城の庭園は幻想的な美しさを放っている。
しばらくの間、庭園の美しさに見とれていたカザオトは、その向こうに二つの人影が動いているのを発見した。
重なり合う男女のシルエット。
「あれは――!」
カザオトは呆然と立ち尽くす。
遠目だが、満月に照らされ、はっきりと見えた。
熱烈に唇を重ね合うルナリア姫と――グランの姿が。





