96 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う1(カザオト視点)
SIDE カザオト
カザオト・レイガは今年で二十六歳。
長命種である魔族としては、かなり若い部類に入る。
十五年前――十一歳のとき、彼はすでに魔界の第一大陸で神童と呼ばれる剣の才能を誇っていた。
最強の古流剣術の一つ【疾風雷神】を史上最年少で習得した天才――。
だが、そんな彼にも勝てない相手がいた。
彼と同じく神童と呼ばれた、二つ年上の少年――高位魔族【ルーンブレイダー】のグランだ。
その日も少年カザオトは同じ道場に通うもう一人の天才、グランと稽古をしていた。
「【上段斬り】!」
剣術の基本スキルも、カザオトほどの使い手が発動すればそれは十分に『必殺技』となる。
うなりを上げて迫る木剣を、しかしグランは紙一重で避けてみせた。
「くっ、あいかわらずの【見切り】の冴え――うあっ」
カザオトの小手にグランの一撃が決まり、木剣を取り落としてしまった。
「むう……拙者の負けか」
「はは、今の一撃は鋭かったけどよ。攻撃が終わった後に、隙だらけの瞬間があるな、お前」
と、グラン。
「む……御指南痛み入る」
「堅苦しいなぁ、お前は」
カザオトが一礼すると、グランは苦笑する。
「我らでともに腕を磨き、姫を守り抜こうぞ」
「はは、堅苦しい上に暑苦しいと来た。でも、ま……お前みたいな奴、嫌いじゃないぜ」
グランの苦笑が嬉しそうな笑みに変わる。
「それに――姫を守りたい気持ちは、俺も同じだ」
そう、二人にとって魔界に自身の国――それらすべてを統治するのは魔王だが、その下に数多の王国がある――の姫はいずれ仕えたい主君であり、初恋にも似た憧れの存在でもあった。
彼女を護衛する選ばれた騎士になるため、二人は日々の稽古に励んでいるのだ。
少年らしい純粋な思いのまま、二人はその後も剣を交わしあった。
それから二年が経った。
「くっ、また負けた……」
「お前は攻撃が直線的すぎるんだって。もっとフェイントとか色々入れてみろ」
二人はその日も変わらず稽古を続けている。
ただ、変わったことが一つある。
先日、彼らはそろって姫の護衛騎士に任命されたのだ。
カザオト十三歳、グラン十五歳。
異例の若さでの抜擢だった。
「む……相手を惑わせる攻撃か。拙者は……苦手だ」
「お前らしいな、カザオト」
友はいつも優しく、彼の側で笑っていた。
友と一緒ならどこまでも強くなれる気がした。
友と一緒なら誰にも負ける気はしなかった。
そして――すべてが崩壊する日が来た。





