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88 人の、命を奪うということ

 俺は、人間界潜入任務の過程で二人の人間を殺した。


 冒険者の青年アッシュ。


 そして同じく冒険者であり聖女でもあるマリエル。


 今までに敵として現れた魔族や、あるいは魔獣の類を殺したことは何度もある。


 けれど、人間を殺したのは、そのときが初めてだった。


 俺は前世は人間だし、今もパーソナリティは人間のつもりだったから、やっぱり精神的な衝撃はあった。


 ただ、それ以上にレキを――仲間を守りたいという気持ちの方が大きくて、その二つの殺人は俺の中で肯定されていた。


 それでも、時間が経つにつれ、やっぱり『人を殺した』という事実が俺の中をじわじわと侵食してくる。


 さらに、この間の異空間闘技場での戦いを経て、俺は魔族としての自分をはっきりと自覚した。


 俺はもう、人間じゃない。


 肉体はもちろんだけど、精神においても魔族のそれに置き換わりつつある。


 いや、あるいは――。


 俺はとっくの昔に人間じゃなく、身も心も、魂さえも魔族だったのかもしれない。


「戦果といっても、あのときに仲間を失っているからな。俺にとっては苦い記憶だよ」


 俺は意識をカザオトとの会話に戻した。


「……仲間を失う辛さは、拙者も味わったことがあり申す」


 カザオトはそう言って頭を下げた。


「失言でしたな。申し訳ない」

「いや、君は何も間違ったことは言ってないさ。今のはあくまでも俺の心根の話だ」


 俺はカザオトに言った。


「俺の方こそ、よけいな気を使わせて悪かった」

「優しい方でござるな、ゼル殿は」


 カザオトが微笑む。


「そうかな?」

「今のわずかなやりとりだけで、あなたの心根が伝わり申す」

「君の心根もな、カザオト」


 俺は微笑を返した。


 いい奴なんだろうな、っていうのは、わずかな会話だけで十分に伝わる。


「ただし――選抜戦においてはライバルだ」

「選抜される人員は五人。その枠を巡っては敵にもなり、味方にもなり申す」


 と、カザオト。


「敵にも、味方にも……」


 彼の言葉を繰り返す俺。


「俺は、そういう戦いをほとんど経験していないんだ」

「拙者はむしろそういった戦場を得てとしています」


 カザオトが言った。


「じゃあ、君の立ち回りを学ばせてもらうよ」

「拙者も、伝え聞くゼル殿の鬼神のごとき戦うぶりをぜひ学ばせていただきたく」


 ――俺たちは互いの健闘を祈り、その場で別れた。


 さあ、選抜戦まであと一日だ。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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