85 選考前の戦士たち
「うーん……誘ってもらって悪いんだけど、俺はやっぱり自分一人でやってみるよ」
俺は迷ったけれど、そう答えた。
バロールの目標は分かったし、戦友として協力したい気持ちもある。
けれど――、
「俺は自分一人の力でどこまでやれるかを試したいんだ。普段とは違う『バトルロイヤル』ってルールで。それもいい修行になるからさ」
俺は素直な心情を説明する。
「それでもし負けたら、俺はそこまでの実力だった、って思うことにする」
「そうか……まあ、お前はそう言いそうな気がしたさ」
バロールが苦笑した。
「ごめん」
俺は謝ってから手を差し出した。
「俺は俺のやり方で勝ち取ってみせる。お互いがんばろう」
「ああ。選抜の一枠は俺が貰うからな」
バロールが俺の手を握り返す。
そうだ、お互いにメンバーに選ばれたらいいな。
一緒に人間界の潜入任務をした戦友だし、な。
次の日。
選抜戦まであと二日だ。
「よう、ゼル」
隊の訓練中にミラが声をかけてきた。
「いよいよ、あと二日だな。選抜戦はバトルロイヤル形式だから、俺とお前が戦うこともあるわけだ」
「だろうな」
まあ、俺としては五人のメンバーに残ることが最優先だから、わざわざミラのような強敵に挑みに行くことはないかもしれない。
強い奴とはできるだけ戦わない、というのは立派な戦術である。
「おっ。もしかして、俺とは戦いたくない、ってビビってんのか?」
ミラが嬉しそうな顔をした。
「ビビってはいないけど、わざわざ君と戦う必要性は薄い、とは思ってるよ」
俺は素直に答えた。
「ただ――それも流れ次第だ。もし、君と戦う状況になれば、全力で行く」
「へっ、そうこなくっちゃな」
ミラが嬉しそうに笑った。
「俺もまあ、お前に積極的に挑むことはないかもしれねー。けど、戦うことになれば容赦しねーぜ? どっちがこの隊のエースか、はっきりさせないとな」
「はは、俺はエースじゃなくてもいいよ」
そういう呼ばれ方にこだわりはない。
ただ、ミラの方は違うみたいだ。
「じゃあ、お前は何になりたいんだ?」
「えっ」
「目標とかないのかよ?」
目標――か。
バロールは、かつて自分が所属した1番隊に復帰することを目指している。
ミラは、この隊のエースになることを目指している。
ラヴィニア隊長は過去を悔いていて、今よりも強くなることを望んでいる。
そしてレキは、自分の弱さを悲しみ、その弱さを乗り越えるために挑んでいた。
なら、俺は――。
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