83 魔王軍対抗戦
俺が前世を思い出してから、すでに七カ月あまりが経っていた。
ゲーム本編が始まるまで、あと二年半もない。
俺と3番隊の仲間たちは人間界侵攻を命じられ、そこで主人公を相手に敗北し、全滅する。
それが俺を含めた隊の運命だ。
ゲーム通りなら、みんな死んでしまう。
俺も。
ラヴィニア隊長も。
ミラやバロールたちも。
「そんなこと……させるか」
俺はグッと拳を握り締めた。
もう、自分一人だけが生き残りたいというモチベーションとは異なっている。
俺は3番隊の仲間たち全員を破滅から救いたい。
そのために、俺はまだまだ強くならなきゃいけない。
――そんな中、俺はラヴィニア隊長から魔王軍の部隊同士で行われる『対抗戦』について知らされた。
「対抗戦……ですか?」
「今度の演習は部隊同士の対抗戦をやることになったの。各部隊が代表者五名を出して、模擬戦をやる」
と、隊長が言った。
「各部隊における個々人の戦闘能力チェック――という名目だけど、同時にそれぞれの部隊の面子やプライドを懸けた戦いでもある」
「俺、出てみたいです」
と、即座に立候補する俺。
この七カ月で俺は強くなった。
その強さの『現在地』を確かめてみたい。
「ちょっと待った! 対抗戦の前に、まず誰がメンバーになるかを選抜するべきだろ、隊長!」
ミラが叫んだ。
「まあ、部隊のエースである俺は当然として、他に四人だよなぁ?」
言ってから俺をチラリと見て、
「まあ、ゼルは入れてやってもいいけど」
「……どうも」
「ふふ、今回は隊長クラスも出場できるのよ。だから私も出させてもらうわ」
ラヴィニア隊長が言った。
「――って、隊長も!?」
俺とミラは同時に驚きの声を上げる。
「実戦のブランクが結構あるから、足を引っ張ってしまうかもしれないけど――」
「そ、そんなことないです! いえ、仮にそんなことがあったとしても俺がフォローします! 俺があなたを守ります!」
俺は思いっきり身を乗り出した。
「うわ、分かりやす……」
ミラがジト目で俺を見ている。
えっ、そんな分かりやすい態度だった、今……!?
「じゃあ、俺とゼル、それに隊長で三人か。あと二人だな」
「メンバーに関しては公平に立候補者を募って、選考するつもりよ」
ラヴィニア隊長が言った。
「対抗戦はいわゆるバトルロイヤルで行われるわ。だからメンバーの選抜も同じ形式で行おうと思うの」
「バトルロイヤル形式――」
普段とは違う戦いになる、ってことか。
「でも、それだと強いメンバーが蹴落とされて、結果的に弱いメンバーが勝ち残ってしまうことも有るんじゃないですか?」
俺は素直に思ったことをたずねた。
「そうね……単純に本番の対抗戦でいい成績を上げようと思ったら、隊で強い者を五人選ぶのが合理的でしょうね」
と、ラヴィニア隊長。
「だけど、勝つことだけが目的じゃない。一番の目的は隊全体が成長すること――」
「成長……?」
「選抜戦を勝ち上がるために競い合うこと。そして、結果的に選ばれたメンバーがベストじゃなくても、そのメンバーで対抗戦を戦い抜くこと……その経験は必ず今後に生きてくるし、それぞれの成長につながるわ」
ラヴィニア隊長が微笑む。
ああ、この人は――。
目先の勝ち負けや、自分の隊長としての栄誉なんかよりも、隊全体のことを考えられる人なんだよな。
俺はあらためてそう思った。
そして、そんな彼女の元で働けることを幸せに思う。
「分かりました。じゃあ、俺も勝ち抜けるように――勝ち抜いて、成長できるようにがんばります」
「ええ、お互いにがんばりましょう」
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