78 いずれ、勇者になる少年1(レム視点)
「ようこそ、賢者レム殿。我らが【世界救済会議】へ」
「今回からお世話になります。レム・レドールです」
彼女は一礼した。
レムは十六歳にして、既に世界最高と呼ばれている魔術師だ。
二つ名は【賢者】。
「剣聖アイリス、忍者マスター夜霧、竜騎士ガラオン、魔導女王フィアナ――そうそうたる顔ぶれね」
列席しているメンバーを見回し、レムは小さく息をつく。
この場にいるのは英雄と呼ばれる者たちと、世界を牛耳る大国の権力者たちばかりだ。
そんな彼らが集まって行うこの会議の議題は――【世界救済会議】の名の通り、まさに『世界を救う方法』である。
「聖女マリエルが死んだ」
最初に発言したのは、大国【バロンレイド】の王だった。
まだ若く青年と言っていい年齢だ。
精悍で整った容姿は覇気にあふれ、まさしく覇王といった様相だ。
「おお、なんと……」
他の王たちがざわめく。
「預言にある人間と魔王軍との最終戦争――【ラグナロク・ゼロ】まで、あと2年半ほど。彼女を失うのは痛い」
「まったくです。稀に見る聖女の資質を持った少女でした……」
「魔王軍との戦いにおいて、大きな戦力になってくれたはずでしたが……」
「急ぎ、他の聖女候補をリストアップしましょう」
「ですが、マリエルほどの資質を持った者はおらんでしょう」
「ならば、一人ではなく数名の聖女を育成し、集団の力で魔王軍に立ち向かうというのは――」
などと、既にマリエルの後釜についての議論を交わすお偉い方を見て、彼女は眉を寄せた。
死者を悼む素振りを見せる者は、せいぜい最初に発言したバロンレイド王くらいか。
後はなんの感慨も見せず、今後のことを協議し合っている。
それも純粋に世界を救いたいという気持ちは薄く、魔王軍との戦争やその後の世界で自国がいかに立ち回り、有利な状況を作り出すか――その腹の探り合いをしているようだった。
聖女の死など――彼らにとっては状況の一つであり、便利な道具を一つ失った程度の感慨なのだろう。
いや、聖女だけではない。
自分たち【英雄】も、結局は彼らの道具だ。
「ひどいものね」
レムの隣で剣聖アイリスが憤慨している。
「あたしたちの生死なんて誰も気にしてない……あ、バロンレイドの王様は別か。あの人は、あたしたちのことをちゃんと人間扱いしてくれるよね」
「我らは道具。それでよい。それ以上のこともそれ以外のことも求めぬ」
静かに告げたのはニンジャマスターの夜霧だ。
「そういうことだな。俺たちはただ戦うのみ。難しいことは分からねぇし、お偉方が俺たちをどう思おうが関係ねぇ」
と、竜騎士ガラオンがうなった。
「道具扱いをされるということは、彼らの都合でいつ切り捨てられるか分からない、ということでもあります」
レムが言った。
「私たちは――彼らにとってなくてはならない存在でいなければなりません。そして同時に、もっと彼らに対する発言権がなくては」
「発言権……ね」
アイリスが鼻を鳴らす。
「勇者です」
レムが言った。
「預言にある勇者が誕生すれば――その方が私たちの味方になってくれれば、必然的に私たちの地位は保証されるでしょう」
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