76 中級闘技場、クリア!
どさり……!
悪鬼王の巨体が倒れ伏した。
倒れた悪鬼王は無数の光の粒子となって舞い散っていく。
それらの光の粒子は二カ所に集まり、それぞれが羅刹と夜叉の姿を作り出した。
「お見事です」
「あたしたちの負けですね」
二人は恭しく頭を下げた。
「正直、勝てるとは思わなかった」
俺は羅刹と夜叉に素直な気持ちを語った。
「悪鬼王の強さは圧倒的だったよ。少なくとも、今までの俺じゃ絶対に勝てなかった」
「ステータスの桁が違いますからね。僕たちも負けるはずがないという気持ちで戦っていましたよ」
「本来なら下級魔族が勝てるはずはないんです……あ、これは侮蔑ではなくて客観的な分析ですので、お気を悪くなさらないでくださいね」
二人が微笑む。
爽やかな笑顔だった。
「魔族としての自分に目覚めて、そうしたら体が今までよりも軽くなったし、力も強くなった気がするんだ」
俺の言葉に二人がうなずく。
「本来の自分自身に戻ったということですよ、ゼルさん」
「今までは『人間としての魂』が魔族の肉体を拒絶していたんです。そのせいで力を引き出しきれていなかったのです」
二人が説明する。
「そのリミッターが外れた、ってことか」
自分がもう人間ではなく魔族だという事実を受け入れることで、俺は先に進めたんだ。
そして、これからは――さらに先に進んでいこう。
俺の戦いはまだ終わらない。
もっと強くなって、破滅の運命を変えるんだ。
もっと強くなって、仲間を二度と死なせないように戦うんだ。
ヴンッ!
うなるような音を立て、前方に光り輝く扉が出現した。
「あれは――」
「元の世界への【出口】が出現しましたね。そろそろお別れの時間です」
と、羅刹。
「次にここに来たときは、上級や超上級にぜひ挑戦してくださいね」
と、夜叉。
「二人ともありがとう。本当に世話になった」
俺は二人に頭を下げた。
「あなたがこの【ゲーム】を勝ち抜けることを願っていますよ、ゼルさん」
「モブキャラである下級魔族に【転生】しながらも、あなたはここまで驚異的な成長を遂げています。いずれ他の【プレイヤー】と出会っても」
羅刹と夜叉は口々に言い、最後は声をそろえて告げた。
「「あなたならきっと――」」
……どういう、意味だ?
疑問に思ったものの、そのときには俺の意識は薄れゆく最中だった。
前回も体感した異空間から元の世界に戻るときの現象――。
【プレイヤー】とは?
【ゲーム】とは?
いずれ、俺がそれを知る日が来るんだろうか――。
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