52 聖女の猛攻
「レキ、俺があいつを引き付ける。隙を見て、さっきのやつを撃ってくれ」
「ゼルさん……」
「さっきの攻防でマリエルを上回った魔法だ。あれなら――いや、たぶんあれしか通じないだろう」
「……ですね」
俺の言葉にうなずくレキ。
「ですが、あれは四種の魔法を発動してから、さらに融合する過程が必要です。最終的な発動まで時間がかかりますので――」
「ああ、その間の時間は俺が稼ぐ!」
言うなり、【突進】する俺。
遠距離から【バーストアロー】を撃つという選択肢もあるけど、あれは一度使うと手元に剣がなくなってしまう。
接近戦でならもう一つのコンボ技【スカーレットブレイク】もあるけど、こっちは発動の難易度が高い。
まずは通常戦闘でマリエルを牽制する――オーソドックスな戦法に打って出ることにした。
「【悪滅の猛撃】」
と、マリエルが攻撃スキルを発動する。
同時に、
ががががががががががががっ!
すさまじいスピードで拳と蹴りのコンビネーションを放ってくる。
速すぎて【集中】と【見切り】を既に発動していた俺でさえ、反応が完全に遅れてしまう。
「ぐおっ……!?」
なんとか避け、あるいは剣で弾き、防御する。
が、どんどんと押し込まれていく。
「とんでもないパワーだ……っ」
完全に人間離れしている。
この形態のマリエルは、近接戦闘能力においても俺を上回るほどのパワーを持っているのか――!?
「はあああああああああああああああああああっ! 邪悪! 滅殺!」
叫びながら、拳を、蹴りを、次々に繰り出してくる聖女マリエル。
下手に剣で受ければ、剣の方が折れるだろう。
「ちいっ……!」
俺はなんとか剣で弾くようにして、マリエルの拳と蹴りをいなす。
それでも相手の圧力がすさまじすぎて、どんどん後退していった。
後退、させられた。
時間を稼ぐどころか、一方的に押し込まれてしまっている。
「まずい……!」
背中に汗がにじんだ。
「二人まとめて叩き潰して差し上げます――!」
マリエルがなおも突進する。
俺の背後にはレキがいる。
前衛の俺が壁になれなかったら、後衛はなすすべなく殴られるだけだ。
「させるか――!」
俺は負けじと前に出た。
【集中】し、【突進】し、【上段斬り】の勢いから、剣を弾丸のように放つ。
「えっ……!?」
「ゼロ距離――【バーストアロー】!」
剣が砕けてもいい。
わずかでもこいつの動きを止め、痛撃を与えられたら。
「がっ!?」
俺の【バーストアロー】に至近距離から胸元を直撃され、マリエルはよろめいた。
ばきんっ。
同時に、剣が衝撃に耐えきれずに砕け散る。
「レキ!」
「ありがとうございます、ゼルさん……おかげで魔法が完成しました」
背後からレキが告げた。
「四元素融合――【カオスアロー】!」
放たれるレキの最強魔法。
「し、しまっ――」
混沌の矢が、聖女を貫いた。
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