51 聖女マリエル
「はあ、はあ、はあ……」
俺は呆然となりながら、半ば無意識に倒れたアッシュの元に歩み寄る。
アッシュはカッと目を見開き、すさまじい形相のままピクリとも動かない。
あらためて見たけど、やっぱり死んでいる――。
彼の胸に突き刺さった剣を引き抜いた。
まだマリエルとの戦いが残っている。
そのために武器を回収したわけだが――そんなふうに冷静に考えている自分が不思議だった。
心の半分は激しく動揺している。
人を殺したことに対し、気持ちの整理がつかず、心の中が荒れ狂っているような感覚だ。
けれど、もう半分は――極めて冷静だった。
残るマリエルに対してどう対処するか、どう立ち回るか……それだけを考えている。
「アッシュ、ああ……」
マリエルの表情は悲嘆に暮れているようだ。
「セレナ、ドリン……ああああ……」
仲間をすべて失った悲哀が、周囲に響き渡る。
「私の大切な仲間が、みんな……あああああああああ……っ」
俺は油断なく剣を構える。
さっきまではアドレナリンが出ていたからか、魔族の肉体が人間より強靭だからか、傷の痛みをある程度抑えられていた。
けれど、アッシュを倒したことで一瞬気が緩んだのかもしれないが、その痛みがぶり返してきている。
集中だ。
マリエルの動きに備えるんだ。
俺はあらためて【集中】する。
相手の動きを【見切る】ことに専念する。
「許しませんよ、あなたたち……」
マリエルが体を震わせた。
「許さない――許さなぁぁぁぁい!」
その全身から白いオーラが湧き上がった。
「なんだ……!?」
「これは――魔力じゃない……!?」
レキが訝しげにつぶやいた。
「えっ」
「魔力とは異なる力……おそらく【聖なる力】です――」
と、レキ。
「神よ――【運命神メルドラム】よ……今こそ我に宿りて、邪悪を討つ力を授けたまえ……!」
マリエルが両手を掲げて祈りを捧げた。
こうっ!
周囲をまばゆい白光が照らし出す。
そのまぶしさに俺は目を細めた。
何も見えない。
「くっ……」
やがて光が収まると、その中心部に純白の異形が立っていた。
白い仮面に白い硬質の体。
美しい人形を思わせる怪人――マリエルはそんな姿へと変わっている。
「神の正義を執行するための聖女形態……この姿になった以上、あなたがたの『滅び』は確定しました……!」
マリエルが告げる。
重厚なエコーのかかった不気味な声で。
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