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2 生きるため、恋のため


 その後、俺の脳裏にはずっとラヴィニア隊長の笑顔が張り付いていた。


 もしかして、本当に一目惚れだろうか。


 こんなの、初めての感覚だ。


 相手は上司で、しかも魔族なのに。


「いや、それを言ったら俺も今は魔族だけど……」


 とはいえ、今日出会ったばかりの相手だしな。


 もうちょっと冷静になって、自分の感情を整理しなければ。


 …………。

 ……。

 ……。


 ラヴィニア隊長、すごい美人だったな。


 それにめちゃくちゃ優しそうな雰囲気だし。


 さらに仕事のできる女って感じの空気もあって。


 うん、やっぱり魅力的だ。




 そんなふうに浮かれていたのが、よくなかったんだろうか。


 数日後、俺はモンスター討伐の演習で傷を負ってしまった。


 完全に不注意によるミスだった――。




「大丈夫、ゼルくん!?」


 救護所の一室で安静にしていると、ラヴィニア隊長がやって来た。


 青ざめた顔だ。


「演習で怪我をしたって聞いたわ」

「すみません。完全な俺の凡ミスで……」


 俺は恐縮しきりだった。


 前世で、仕事でミスをするたびに上司に激しく叱責されていた過去がぶり返し、自然と身をこわばらせてしまう。


 ラヴィニア隊長はそういうタイプじゃないと思うんだけど、俺の体には前世での恐怖感が染みついているのだ。


「大事がなくてよかったわ……」


 ラヴィニア隊長はホッとしたような顔で言った。


 なんだか泣きそうな顔をしている。


「隊長……?」

「えへへ、ここに来るまで心配だったのよ」

「どうして、俺なんかに……」

「どうしてって、大事な部下だし、大切な仲間じゃない。心配するのは当たり前よ」

「隊長……」


 俺は彼女の心遣いに感動した。


 そんなふうに他人に心配されたことは生まれて初めてだったからだ。


「ゆっくり休んでね。体を第一に。万全の状態になるまで復帰しちゃ駄目よ」


 と、ラヴィニア隊長が釘を刺した。


「君は限界以上に努力してしまうタイプに見えるからね」

「面目ないです……」

「努力家なのは素敵なことよ。でも自分を大事にしてね」


 言って、ラヴィニア隊長は去っていく。


「またお見舞いに来るわね」


 そう言われて、思わず舞い上がりそうになった。


 また来てくれるんだ、ラヴィニア隊長――。


 どうしよう、すごい嬉しい。


 この気持ち……まさしく恋だ。


 うおおおお、ときめいてきたぁぁぁっ!


 気持ちがどんどん盛り上がっていく。


 ――と、そこであることに気が付いた。


「……待てよ。ゲーム通りのシナリオになった場合、俺だけじゃなくて隊も全滅するんだよな」


 気づいたとたん、冷や水を浴びせられたかのように気持ちが醒めていく。


 さっきまでの胸の疼きも、ときめきも、高揚感も、一瞬で消えてしまった。


「ラヴィニア隊長も殺されるのか……?」


 嫌だ。


 心の中に強烈な拒否感がこみ上げる。


 生まれてこの方、感じたことがないほど強い――拒絶感。


 ラヴィニア隊長が死ぬ運命だなんて、絶対に嫌だ!


「なら――強くなるしかない」


 俺自身が生き残るためだけじゃない。


 彼女を生き残らせるために。


 俺は、もっと強くなりたい。


 もっと――強くならなきゃいけないんだ……!




 それから、俺は今まで以上に修行に打ち込んだ。


 けれど、しょせん俺は下級種族だ。


 懸命に訓練しても、成長の伸びしろは微々たるもの。


 悲しくなるくらい、ほんのちょっとずつしか成長しない。


 成長できない。


「やっぱり……大量の経験値を手に入れるしかないな……」


 そのためには強い敵を倒すか、大量の敵を倒すかの二択だ。


 手っ取り早いのは強い敵を倒すこと。


 だが、その場合はリスクが大きくなる。


 俺はゲーム内で言えば名無しのモブキャラだ。


 このままいけば、三年後の人間界侵攻の際に俺は死ぬ。


 けれど、その前に何らかの理由で死ぬことだってあり得る。


 俺の『死にざま』はゲーム内で詳細に描写されているわけじゃないからな。


 生きていても三年後の『部隊全滅』による死は確定だけど、それまでの生が保証されているわけじゃないんだ。


 無茶なことをすれば、死ぬことだってあり得る。


「それでも……強敵を倒して、俺の力を底上げしたい……」


 その願望は日増しに強まっていき、そして一か月後――。




「中級魔獣【ボランザ】討伐任務が行われる、と上層部から通達があったわ」


 ラヴィニア隊長が俺たち部隊員を集め、説明していた。


「中級っていつもの下級よりどれくらい強いんですか?」

「だいたい5倍から10倍と考えていいわ。桁違いの強さね」


 部隊員の一人が質問すると、ラヴィニア隊長は答えた。


「だから、自信のある者以外は参加しないでほしい。参加したい人は、まず私に相談して。私の方で判断させてもらうわ」

「それって……ラヴィニア隊長から見て『実力不足』だと判断されたら、参加させてくれないってことですか?」


 別の部隊員が言った。


「私に参加を止める権利はないけど……そうね、『参加しないでほしい』と全力で引き留めるわ」


 部下想いのラヴィニア隊長らしい返事だった。


 ……説明が終わった後、俺はさっそくラヴィニア隊長に相談しに行った。


「俺、参加してみたいんです」

「ゼルくん、悪いんだけど……あなたの実力では危険すぎるわ」


 案の定、反対された。


「でも、俺」


 引き下がらずに俺は言った。


「自信があるんです」


 確かに実力で足りない部分があるかもしれない。


 けれど、俺はこの世界の元になったゲームを知っている。


 今回の中級魔獣『ボランザ』は攻略法がある。


 だから、それを実行さえすれば、格下である俺でも勝てる。


 そして勝つことができれば、一気に大量の経験値が手に入るんだ。


 俺やラヴィニア隊長を守るための力が――。




 ――悩んだ末、俺はラヴィニア隊長の反対を押し切って参加することになった。


 隊長には最後まで反対されたんだけど、俺は頑として譲らなかった。


「ゼルくん、少しでも危ないと思ったら、すぐに退くのよ。分かった?」


 ラヴィニア隊長は何度も俺に念を押した。


 どうやら部隊の何人かが参加するらしく、かなり心配しているようだ。


「心配かけてすみません。必ず戻ってきますから。俺、もっと強くなって――」


 ラヴィニア隊長に約束し、俺は任務へと旅立つ――。

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