111 バロールとサーラ1(バロール視点)
バロール・クラウディスはかつて魔王軍最強の第一騎士団、1番隊に所属していた。
それは彼にとって栄光の記憶だ。
そして同時に――屈辱の記憶でもあった。
「あれが今度1番隊に入ってきたルーキーか?」
「他の隊で戦績がよかったから、うちに編入してきたって?」
「あの程度の力で……?」
1番隊に入ってしばらくすると、バロールは周囲からそう揶揄されるようになった。
魔王軍に入ってから、それまではずっと上り調子だっただけに、バロールは戸惑っていた。
(おかしい……俺の実力をもってすれば、この隊でもエースになれるはずなのに……)
だが、現実は違った。
やはり魔王軍最強という看板は伊達ではなかった。
1番隊の猛者たちは、全員がエース級だ。
その中で弱い部類の隊員でさえ、他の隊なら間違いなくエースだろう。
それどころか、強い部類の連中は騎士団長クラスとさえ渡り合えそうなほどの実力だ。
バロールは、明らかに場違いだった。
模擬戦のたびに敗北し、集団演習では他の者の動きにまったくついていけない。
基礎体力や魔力の訓練でも、他者とは能力に大きな隔たりがあるのを感じる。
初めて味わう強烈な挫折感――。
ぎいんっ!
その日の模擬戦で、バロールは開始早々に剣を叩き落とされた。
まさしく瞬殺。
「なんだ。弱いな、君は」
「くっ……」
「ボクたちの部隊にはふさわしくない」
バロールを冷たい目で見下ろしているのは一人の騎士だった。
黒い騎士鎧に紫の髪をショートヘアにした美しい少女だ。
剣士系魔族の最高峰である高位魔族【ルーンブレイダー】。
1番隊最強と名高い魔法剣士――サーラ・グレイルである。





