110 ミラとラヴィニア3(ミラ視点)
ミラは夢中でラヴィニアに立ち向かう。
集中する。
さらに集中する。
さらに、さらに。
その繰り返しだった。
そして、そんな攻防が二時間ほど続いたころ、唐突にそれは起きた――。
「――い、今のは……!?」
ミラは呆然と立ち尽くした。
無我夢中での動きだった。
気が付けば、ラヴィニアに肉薄し、二刀を突きつけていた。
ほとんど記憶がない。
自分でもどうやって動いたのか分からない。
ただ、ラヴィニアの【石化】を避け、彼女との間合いを詰め、さらに彼女の魔力剣を避けて、こうして二刀を突きつけた――。
その一連の動きをぼんやりと思い出せる――気がした。
「お見事」
ラヴィニアが微笑んだ。
「たどり着いたみたいね、ミラさん」
「たどり着いた……?」
「といっても、まだ入り口に足を踏み入れただけ。それを自分のものにするには、まだ時間がかかりそうね」
「隊長、俺……今何をやったんですか?」
「集中力の極限――さらにその先の領域へとたどり着いたのよ、君は」
ラヴィニアは笑顔で彼女の頭にポンと手を置いた。
「【無我の境地】と呼ばれる領域に」
「無我の……」
確かに無我夢中ではあった。
が、その領域に一体どうやって踏み込んだのか。
まるで分からない。
「君がこれまで積み重ねて来た者が、今――結実した、ということでしょう」
ラヴィニアが言った。
「成長というのは階段状というから。私との模擬戦がきっかけで君は階段を上ることができた」
「俺が……」
ふうっと息をつく。
「強くなれた、のか」
いや、これはまだ一歩目だ。
ここからなのだ。
「対抗戦までに【無我の境地】を自在に扱えるようになりたい。隊長、もう一本お願いします!」
「ふふ、君が納得できるまで付き合うわ」
ラヴィニアの笑顔はどこまでも優しい――。





