108 ミラとラヴィニア1(ミラ視点)
「いつでもいいわよ、ミラさん」
ラヴィニアが静かに言った。
「君のスタイルは高速移動からの二刀流による先制攻撃。そのまま一気呵成に攻めたて、相手に反撃の隙を与えず制圧する――」
「……それを分かっていながら、受けて立つっていうんですか?」
「訓練だもの、まず君の全力を受け止めてあげる」
「それ――もしかして、俺を舐めてます?」
「舐めてないわ」
「俺の全力くらい余裕で受け止められる、って言われてるように感じるんですが」
「そう受け取ってもらってもいいわ」
ラヴィニアが微笑む。
まるで氷の女神――いや氷の魔神のごとき笑み。
「それが舐めてるっていうんだ!」
ミラは叫びながら突進した。
おそらくラヴィニアはミラを過小評価しているわけではない。
ただまっとうに戦力評価を行い、その結果、彼女の全力なら余裕で受け止められると分析しただけだ。
それは侮蔑される以上の屈辱だった。
「見せてやる! 俺の全力を!」
「ぐっ……馬鹿な……!」
ミラは地面に這いつくばっていた。
ラヴィニアの動きが、まるで見えなかった。
ミラが繰り出した二刀はいずれも簡単にいなされ、カウンターを食らって、あっさりと倒されてしまった。
「……魔術師タイプじゃなかったのかよ、隊長――」
「ええ、私が得意としているのは、あくまでも魔法攻撃と【石化】スキルのコンビネーションよ」
告げたラヴィニアの手には輝く剣がある。
【ルーンブレード】。
魔力の剣を生み出す汎用スキルだ。
「だけど剣を操っても、私は君より強いわ」
「ぐっ……」
「君は私に『舐めるな』と言ったけれど――君も元騎士団長を舐めてないかしら?」
常になくラヴィニアの言葉は厳しい。
「ちくしょう……」
「……言葉がきつくて、ごめんね」
ふいにラヴィニアの声音に優しい響きが混じった。
「でも、君は今よりも強くなることを望んでいるはず。だから、あえて厳しい言葉を使わせてもらったわ」
「それでいいさ」
ミラは顔を上げる。
「俺は強くなる。いずれ、あんたよりも。ゼルよりも。だから――もっと厳しい修行をつけてください、隊長!」
闘志と感謝を胸に叫んだ。





