106 カザオトとの修行
「【疾風の太刀】!」
カザオトが振り下ろした刀から風の刃が放たれる。
魔法とは違う。
剣に闘気を込めて放った、あくまでも物理的な攻撃である。
どうやら刀で空気を切り裂き、そうやって生成された『空気の断層』が刃のようになるそうだが――。
よほど鋭い斬撃じゃなければ、こんなものは発生しない。
カザオトだけが習得している古流剣術【疾風雷神】は闘気を使用した独自の剣術だ。
その剣術の奥義の一つが、これらの『飛び道具として使える斬撃』らしい。
闘気なんて操れない俺には、再現不可能な技だ。
「【氷雪の太刀】!」
さらにブリザードまで発生させるカザオト。
剣士でありながら飛び道具のオンパレードだ。
一方、こっちの飛び道具といえば、ナイフを投げつける【バーストアロー】のみ。
こいつは威力こそ強烈だけど、軌道が直線的で読まれやすいという欠点があった。
使えても牽制程度だし、下手をすると【バーストアロー】を撃った直後の隙を突かれ、俺の方がカザオトの攻撃を食らってしまうかもしれない。
遠距離での撃ち合いは、駄目だ。
「何とかして接近するしかない――」
「【火炎の太刀】!」
が、カザオトは間髪入れず、次の遠距離攻撃を放ってきた。
なんとかそれを避けつつ、相手の隙を伺う。
が、隙がない――。
「拙者の感知スキル【明鏡止水】は相手の動きのすべてを察知する。不用意に近づこうとすれば、すかさず遠距離攻撃をお見舞いするでござる」
カザオトが言った。
「まったく……厄介な奴だよ、君は」
俺は苦笑した。
「その言葉はそっくり返すでござるよ」
カザオトもかすかに笑った。
「いくら撃っても、まるで当たらない【見切り】――これほど高水準の【見切り】を相対するのは、あなたで二人目だ」
「へえ? 一人目は?」
「……拙者の親友だった男でござる」
カザオトがわずかに顔を伏せた。
「残念ながら、とある戦乱で命を落としたが……」
「――そうか」
「拙者は結局、その男には勝てなかった……ゆえにゼル殿を見ていると、胸の内から湧いてくるのでござる」
カザオトが刀を振りかぶる。
「勝ちたい――強烈な欲求が!」
そして振り下ろすと、今度は風、炎、雪、雷――と四種の遠距離攻撃が同時に放たれた。
四種の攻撃が、四方から迫る。
避けられるか、これを――。
「……あれ、やってみるか」
俺はふと閃いた。
昨日の選抜戦の終盤、ほとんど見様見真似で試してみたカザオトの歩法――。
「いくぞ!」
だんっ!
だんだんだんだんだんだんっ……!
「これは……っ!?」
カザオトが驚いたように目を見開く。
稲妻のようなジグザグのステップから、敵に向かって高速で接近する――。
「君の歩法を真似させてもらったぜ、カザオト!」
俺は四種の攻撃を避けながら、一気にカザオトまで肉薄した。





