101 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う6(カザオト視点)
「僕は覇王ヴォル・ライドーラ麾下ナシェル・ブラッドヴェイド。ま、もう会うことはないやろうけど――」
少年の右目が赤い光を宿す。
殺される――。
「逃げろ、カザオト!」
横から誰かが飛び込んできた。
同時に剣を振るうと、
がきんっ。
音がして、カザオトの目の前で赤い金属片のようなものがいくつも落ちてくる。
(なんだ、これは――?)
怪訝に思いつつ、飛び込んできた人影に視線を向けた。
「――グラン!」
「無事だったか」
と、剣を構えたままグランが言った。
「拙者は、な。だが……だが、ひ、姫……が……」
「分かっている……」
グランは唇をかみしめていた。
唇の表面が破れ、血が流れている。
「あいつがルナリアを殺した。だから、俺が奴を殺す」
グランが剣を手に、近づいていく。
「お前は手を出すな、カザオト」
「グラン――」
「ルナリアと俺は、愛し合っていたんだ」
グランが告げる。
「あ、ああ、実はなんとなく……」
「――感づいてたか」
グランはこちらを振り返ることなく言った。
「俺たちは結ばれない運命だった。それでも一緒になりたくて、俺とルナリアはその方法を探った。そして――」
「僕らに、国を売った」
ナシェルが冷ややかに言った。
「えっ……」
カザオトは言葉を失った。
どういう意味だ――。
驚いて親友を見つめる。
グランは苦々しい顔で首を左右に振るばかりだ。
「まあ、答えにくいやろなぁ……代わりに僕が説明したるわ」
ナシェルは嬉しそうにニヤニヤと笑っている。
「ルナリア姫とグランくん――一国の王女とただの騎士が結ばれるはずがない。グランくんが戦場で目覚ましい功績を立てて、世界一の英雄にでもなれば話は違うかもしれへんけどな」
言いながら、ナシェルはグランを見つめる。
「現実問題、まず無理やろ。ルナリア姫はやがて王位に就く。そうなれば女王陛下や……グランくんは近づくことすら難しくなっていくやろ」
「……だから、この国の体制を変えたかった。王族が自由に相手を決められるような社会に――」
グランがうめいた。
「お前たちは、その手伝いをしてくれると……」
「アホやなぁ。僕らはただ君とルナリア姫の申し出を利用しただけや。まんまと、この国に入りこめた。覇王軍の精鋭たちが」
ナシェルが満面の笑みを浮かべて言った。
「これでリサカは僕らの手に落ちた。かつて魔王に敗れた覇王軍は一つ一つ国を得て、力を得て、やがて――魔界全土に逆襲を開始する」
言って、ナシェルの瞳が異様な光を放つ。
「その第一歩や」





