100 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う5(カザオト視点)
「姫、今このカザオトが参ります――!」
カザオトは一心不乱に走っていた。
ときおり出くわす敵兵は、いずれも出会った瞬間に斬り伏せる。
ほとんどが下級魔族の【デモンブレイダー】や【デモンメイジ】たちで、彼らが剣や魔法で攻撃してくる前に、カザオトの神速の斬撃で打ち倒していく。
しょせん雑兵だ。
先ほどの魔獣と違い、彼らは敵ではない。
ただ、出会うたびに数秒から数十秒とはいえ、時間のロスがあるのが歯がゆかった。
一秒でも早く姫とグランの元にたどり着きたいというのに――。
「ええい、雑魚どもはどけ!」
叫び、刀をふりながらカザオトは走り続けた。
(ルナリア姫――)
彼女のことを考えるだけで、心の中に甘い想いが広がっていく。
ずっと憧れていた。
騎士団に入ってからは、その憧れが『恋』なのだとはっきり自覚した。
だから彼女がグランとキスを交わし、想いを通じ合わせている場面を見たときは、体が崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けた。
けれど、それでもいいと思った。
ルナリアに幸せになってほしい。
ふさわしい相手が自分ではなくグランなら、全力で応援する。
「だから……二人とも死なせない! 死なせぬでござる!」
カザオトはさらに走る。
そして――彼はその場所にたどり着いた。
「あ……」
呆然と目を見開く。
「ああ……ああああ……」
目が、頭が、心が、目の前の事態を受け付けない。
理解しようとしない。
あり得ない。
こんなことはあってはならない。
けれど祭壇に乗せられているのは、まぎれもなく――。
姫の、生首だった。
「あアアアアアアあああああああああああああアアアアアぁぁぁぁぁああああああああああああああっ……!」
カザオトは絶叫した。
その場に突っ伏し、嗚咽を続ける。
喉からもれる声は鳴き声から獣のような咆哮になり、やがて声が嗄れて、ただの息に変わる。
それでもカザオトは叫び続けた。
「ん? なんや、姫を守る騎士か? まだ生き残りがいたんかい」
その側には一人の少年がたたずんでいる。
海のように青い髪、炎のように赤い瞳。
そして軍服を思わせる白い衣装。
彼は嬉しそうにニヤニヤと笑いながら。
「ちょうどええわ。君も殺したるから、かかってき?」
「貴様……!」
カザオトは刀を手に斬りかかった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぱきん。
一瞬にして刀を叩き折られる。
少年は動いてすらいない。
何をされたのかも分からなかった。
「ん? 今の僕の攻撃――見えてへんのか」
少年は失望したようにため息をついた。
「問題外やな」





