1 魔族のモブ兵士に転生
「もしかして……俺って転生してる……?」
その日、俺は自分が現代日本から異世界に転生していることに気が付いた。
この世界は俺が前世でやりこんでいた据え置きゲーのRPG『ラグナロク・ゼロ(通称ロクゼロ)』にそっくりだ。
ここがゲームの中なのか、それともゲームに近似した世界なのかは分からないけど、どちらにせよ異世界転生したことは事実のようだ。
……とりあえず整理してみよう。
俺の名前はゼル・スターク。
魔族の下級種族である【デモンブレイダー】であり、魔王軍の下級兵士。
ゲーム内でのモブ兵士である。
「どうせなら主人公とかメインキャラがよかったな……」
ちょっと残念な気持ちだけど、まあそれはいい。
人間じゃなくて魔族か……。
それもまあいい……いや、あんまりよくないかもしれない。
ただ、一番の問題点は別にあった。
「俺……もしかして、このままだと殺される?」
俺が所属しているのは魔王軍の『第七騎士団』。
その中の『3番隊』だ。
俺たち3番隊は三年後に人間界のレッチェ村に侵攻予定の部隊だった。
で、そのレッチェ村というのがゲームの主人公が住んでいる村だったりする。
ゲームの序盤で主人公の村は魔族の部隊に襲われるんだけど、そこで覚醒した主人公が魔族部隊を返り討ちにして全滅させるんだよな。
つまり……俺はそこで主人公に殺される。
「まずいぞ……今の俺って破滅ルートまっしぐらじゃないか」
なんとか破滅ルートを回避しなければならない。
とはいえ、人間界を攻めろっていう命令を無視したら、軍律違反とかで裁かれたりするんじゃないだろうか。
となると、まず魔王軍を抜ける必要があるのか?
ただ、魔王軍を抜けること自体に何らかのペナルティがあるかもしれない。
人間じゃなくて魔族だし、下手すると『魔王軍をやめたいです』って申し出ただけで殺されるなんてことは――。
「うう……ゾッとしないな。とにかく慎重に行動しよう」
とりあえず今後の方針が決まるまでは、今まで通りに行動した方がよさそうだ。
魔族といっても、この『3番隊』にいるのは人間とあんまり変わらない外見の種族が多い。
だから、あんまり魔族の中にいるっていう感じがしない。
まるで人間の世界で生活しているような感覚になる。
まあ、俺は前世でもコミュ力が低い方だったし、あまり他の隊員と交流せず、黙々と日々の仕事をこなした。
で、プライベートな時間はもっぱら自分の訓練に費やした。
「やっぱ……地道な修行しかないもんな」
せっかく転生したのに、またすぐ死んじゃうなんて絶対に嫌だ。
だから強くなるんだ。
生きるために。
とりあえずは筋トレや素振り、剣術の足さばきやイメージトレーニングなど、ひたすら修行した。
根がズボラな俺も、さすがに近い将来の死が確定しているような状況だと必死で努力する。
「おっ、筋力が上がってる!」
修行を始めて一か月――。
地道な筋トレや素振りなどが功を奏したのか、俺の筋力値が1上がっていた。
――――――
名前:ゼル・スターク
種族:デモンブレイダー
ちから:4→5
はやさ:7
HP:30
MP:0
スキル:【上段斬り】【中段突き】【下段払い】
――――――
上昇したところで、中位や高位の魔族からすれば誤差程度の微々たる数値かもしれない。
それでも修行することでステータスが成長することは嬉しい。
「ただ……こんな程度の成長速度じゃ、勇者と戦うまでに大して強くなれないな」
もっと早く、爆発的に成長したい。
「どうすれば、もっと強くなれるんだろう……」
うーん……と考えながら歩いていると、
「がんばってるわね」
前方から一人の女魔族が話しかけてきた。
外見年齢は二十代前半くらい。
腰まで伸びた銀の髪に血のような赤い瞳をした絶世の美女である。
この第七騎士団3番隊の隊長を務めるラヴィニアさんだった。
種族はメデューサ。
実際の年齢は数百歳らしいので、外見だけじゃなく精神的にも俺よりずっとお姉さんだ。
「ど、どうも、恐縮です。ラヴィニア隊長……」
「そんなにかしこまらないで」
「いや上司ですし」
「気楽に話してくれていいわよ」
ラヴィニア隊長は優しい人みたいだ。
前世で勤めていた会社の直属の上司はパワハラばっかりしてくるクソ野郎だったから、その違いだけで俺は気持ちがホッとなった。
というか、実際に生活して実感したけど、魔族と言っても別に邪悪な種族じゃないようだ。
多種多様な種族の混成国家なので、中には邪悪そのものっていう種族もいるんだけど――。
俺の種族、そして部隊はすごく真面目で善良な感じだった。
「ありがとうございます、隊長」
俺は礼を言った。
「俺、強くなりたいんです。だからがんばります」
「ふふ、がんばっている子って好きよ。でも、あまり無理しないようにね」
ラヴィニア隊長が優しく微笑む。
「悩みがあったら、いつでも相談に乗るからね」
そんな笑顔で見られたら――惚れてしまいそうだ。
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