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生まれ変わっても

作者: 弥生 鱈

ページを開いて頂きありがとうございます。

この物語はほぼ会話文で男と女が交互に喋っています。

「僕と付き合ってください!!」

「うーん、ごめんなさい」

「ええっ! なんでですか!」

「なんでって……あんた犬だもん」

「犬じゃ駄目なんですか!?」

「まぁ……出来れば人間がいいかな……」

「では人間になったら付き合ってくれますか!?」

「それは……どうだろう、その時考える」

「ワンチャンある! ということですね! 犬だけに!」

「やかましいな」

「では人間に……ん?」

「どうしたの?」

「何やら曲者が近くにいますね」

「曲者……? 何言ってんの?」

「この感じのオーラ……熊のようなものを感じます」


 犬がそう言うと近くでガサッという音がした。

 音の方を見てみるとなんとそこには熊がいた。


「ええっ! ほんとに熊!? なんでこんなところに!?」

「だから言ったでしょう、曲者が近くにいると」

「なんでそんなこと分かんのよ!」

「僕の直感です」


 なにその直感、なんて思っていると熊がこちらに近づいてきていた。


「ここは僕に任せてあなたは逃げてください! なんとかします!」

「なんとかするって……大丈夫なの?」

「はい! 今から『熊 対処法』でググります!」

「大丈夫じゃなさそう!!」

「まぁ、気合でなんとかしますんで早く逃げてください!」

「わ、わかった。すぐ助け呼んでくるからね!」


 そう言って私は安全そうなところまで離れ、すぐ警察に連絡した。

 その後熊は捕獲されたが、そこに犬の姿はなかったようだ。




「僕と付き合ってください!!」

「……最近の私は動物に好かれるなぁ」

「それはあなたが魅力的な人ですもの。生きとし生けるもの全てあなたのことが好きな可能性もあります。ライバルが多くて嫌ですね」

「褒めちぎってくれるとこ悪いけどあんた何者?」

「何者って。もう忘れちゃいました? 元犬ですよ」

「えっ! あの犬!?」

「はい、その犬です」

「なんであの犬が今雉になってんのよ……」

「生まれ変わったわけですね」

「生まれ変わったって……あんた一回死んだの?」

「はい。あの熊と途中まで互角の戦いだったんですが、最後右ストレートを喰らってしまいノックアウト。あれはキレのある良いパンチでしたね。」

「なんで熊を褒めてんのよ……」

「まぁ、僕的にはあなたが無事でなによりです」

「分かんない......なんでそんな私のこと好きなの?」

「なんでって……なんででしょうね」

「え?」

「気づいた時にはもう好きでしたね。それが僕にとって当たり前みたいな感じですね」

「なにそれ……」

「……あぁ!  好きなところ挙げろって言われたらちゃんと言えますよ!」

「いや、もういいかな」

「好きなアニメのキャラのコスプレするところとか」

「なんで知ってんの!?」

「クールっぽく見えるけど人見知りなだけで友達が少ないところとか」

「だからなんで知ってんの!?」

「なんでって……なんででしょうね」

「巻き戻し再生されてる……? 数十秒前に同じようなこと聞いたけど……」

「そういう新聞の記事でも読んだからですかね、雉だけに」

「やかましいし、そんな新聞あったらその新聞社にカチコミに行くわ」

「まぁ冗談はおいといて、不思議と結構前からあなたを知ってる気がするんですよね」

「うーん……私喋る動物に会ったことあったっけなぁ……」

「あ! 危ない!」

「え!?」


 そう言われた私は怖くなって目を瞑った。

 すると雉が飛び立つ音、そして私の頭上で衝撃音が聞こえた。

 恐る恐る目を開けてみると、破片、土、植物が散らかっていて、雉が弱弱しく横たわっていた。

 私は落ちてきていた植木鉢を身を挺してかばってくれたと理解した。


「大丈夫!?」

「うーん、この感じおおよそ五分後に僕は死んでしまうでしょう」

「何でそんな細かく分かんのよ……」

「直感ですね」

「その直感鋭すぎるって」

「あぁ、破片や土が散らばってしまってるので一応端に寄せておますね」


 そう言うと雉は立ち上がり羽を箒のように使い掃除を始めた。


「そんなことしてていいの!? もしかして意外と余裕あったりする?」

「いやほぼないです」

「だよね!? じゃあ安静にしなきゃ! 今救急車呼ぶから!」

「それ動物対応してますかね……」

「じゃあ、どうすれば……」

「ご心配なく! あなたに無様に死ぬ様なんて見せませんよ!」


そう言って雉は空の彼方へとぎこちなく飛び立っていった。


「ーーばかだなぁ」


 私はポツリと呟いた。




「僕と付き合ってください!!」

「……もしかして元雉元々犬?」

「はい、元雉元々犬です」

「あの後どうなったの……?」

「無事召されました」

「それは無事ではないけどね。で、また生まれ変わって今度は猿になったと」

「そんなところですね。で、付き合っていただけますか?」

「一応二足歩行の人型にはなってるけど……正直、厳しいかな」

「ええっ! なんでですか!」

「まぁ人間じゃないっていうのもマイナス点ではあるけど、ぶっちゃけて言うとね、私幼馴染がいたんだ」

「はい」

「そいつすごく優しくてさ、小さい時から友達がいない私に話しかけてくれて遊んでくれたんだ」

「はい」

「でもそいつ交通事故で亡くなっちゃってさ。……まぁ、なんていうか、そいつを忘れられないっていうか、みたいな感じ、かな」

「……なるほど」

「……そいつとした約束もあるしな」

「約束?」

「あぁ! 今のは無しで! それについては恥ずかしすぎるから!」

「そうですか……これは失恋したということですかね」

「うーん、そうなるのかな……」

「僕のこのとっておきの団子をあげるんでなんとかなりませんかね」

「ならないかな」

「そんな! じゃ、じゃあ好きな食べ物はなんですか?」

「え? まぁ、唐揚げとか?」

「では唐揚げをたらふく持ってくるのでなんとかなりませんかね」

「いやいや、食べ物でなんとかなる問題じゃないよ」

「そうですか……では。もし気持ちに整理がついて僕に気が向いたら呼んでください。夜に口笛でも吹いてもらえれば駆けつけますよ」

「あんた次は蛇にでもなるつもり?」


 そんなことを言っていると遠くでキャー!という声が聞こえた。

 私達は何事かと思い声の方へと向かった。

 すると、マンションが火事に見舞われていた。

 そして、ある女性が助けを求めていた。どうやらまだ中に子どもが残っているらしかった。


「助けに行ってきますね!」

「ちょっと! また死ぬつもり!?」

「死ぬつもりはありません。困っている人を助けるだけです」

「でも、もし死んだらどうするの!? また生まれ変われるわけではないでしょ!?」

「……確かにそうですね。ただ、それでも目の前を困っている人を放っておけません。」

「……そう」

「大丈夫ですよ、僕はそう簡単に死にません」

「二回くらいぽっくり逝っちゃってるけどね……」

「何はともあれ、助けに行かなきゃいけないのでここを去りますね! 猿だけに!」

「それやんなきゃいけないノルマでもあんの」


 私がそう言ってる間に猿は燃えているマンションの中へ駆けて行った。

 私はどうすることも出来ず立ちすくむだけだった。

 その後、無事子どもは救助されたみたいだが、またしてもあの猿の姿を見ることはなかった。




「……ますか? 僕の声が聞こえますか……?」

「……なんだい、この声」

「聞こえてるんですね! お久しぶりです!」

「一体どなただい?」

「元猿元々雉元々々犬の者です!」

「......! あぁ、あんたかい。本当に久しぶりだねぇ」

「覚えてくれてて嬉しいです」

「あんたと最後に会ってから何十年と経って私はおばあちゃんになっちゃったけど、あんな出来事は忘れられないよ」


 そう言うと私はゴホッゴホッと咳き込んでしまう。


「お体良くなさそうですね……」

「もう私もいい年だからね。いつぽっくり逝ってもおかしくないよ」

「そんな……」

「まぁ、私がぽっくり逝く前に世界の方が逝っちまうからね」

「最近、ニュースでやってますね」

「えぇ、地球に大量の隕石が向かって来てるらしいじゃない。もう一時間後には衝突するらしいから私より世界が先だろうね」

「そこはご安心ください!」

「えぇ?」

「今さっき僕の力で大量の隕石を別の場所にぶっ飛ばしました。これで地球が滅亡することは無くなりましたよ」

「……あんた何者なんだい?」

「僕はあの後宇宙に生まれ変わりました」

「はぁ?」

「まぁ、そうなりますよね。でもこれ以外の言い方は無いんですよね」

「よく分からんから宇宙になったのは置いといて、あんた今まで何してたんだい」

「あなたを見守ってました」

「……」

「あなたが無事に生きれるように宇宙として見守っていました」

「……こりゃ、凄い後ろ盾がいたもんだ」


 そう言うと私はまたゴホッゴホッと咳き込んでしまう。


「……最後にあなたを看取ることが出来ないのがとても残念です」

「どうしたんだい急に」

「僕は力を使い果たしてしまったようで、宇宙としての僕はなくなってしまいます」

「……そうなのかい?」

「はい、直感で分かります。ただこの宇宙としての僕がいなくなるだけで、宇宙も、この世界も残り続けますよ」

「そうかい、次は何になるつもりだい? 銀河にでもなるのかい?」

「いえ、僕はもうこれ以上生まれ変われる気がしません」

「……なんでだい?」

「これも直感です」

「……そうかい」

「...…もう時間がないようです。最期にあなたと話せてよかった。ただ、あなたを独り残してしまうのが本当に残念です」

「……私を独りにするのかい?」

「はい、残念ながら」

「……そう、じゃあ淋しいからすぐ会いに行くよ」

「……! そう言ってくれるのはとても嬉しいです。けど、おそらくもう会うことは……」

「会えるさ」

「……なんでそう思うんですか?」

「私の直感だよ」

「……! フフッ、そうですか。じゃあ、また会えますね」

「えぇ、楽しみにしているよ」

「はい、それではさようなら……」


 その言葉を最後に声は聞こえなくなり、いつものシーンとした部屋に戻った。


「ねぇ……あんた()()だったんでしょう……?」


 私はポツリと呟いた。

 ずっと前からもしかしてと思っていたことがあった。


「約束は守らせるよ」


 私はもう一つポツリと呟き、目を閉じた。

 そのまま、私は静かに息を引き取った。


 あの時、小さい頃にした約束。

 私と結婚してくれるという約束。忘れてないからね。




「……なんか変な夢見た気がする」

「おはよ、やっと起きたみたいだね」

「おはよ……何? 買い物でも行くの?」

「うん、昼飯買いに行こうと思って。昼飯団子でいい?」

「いいわけないでしょ。ちょっと待ってて、私も行くから」

「冗談だよ、唐揚げとか買ってくればいいんでしょ?」

「いー、いー、私も行くって」

「そう、じゃあ早く準備してね」


 彼女はいきなり準備していた手を止め、彼の方を向いた。


「……ねぇ」

「ん?」

「好きだよ」

「……どしたの急に」

「なんとなく」

「……そう、まぁ、僕も好きだよ」

「知ってる」


 そう言うと彼女は満足気にまた準備を始めた。

 彼は不思議そうな顔をしていた。


「しかし、初めての結婚記念日は雨かぁ。上手くいかないもんだね」

「あれ、今日雨?」


 彼に言われて気になり、彼女は窓を見た。


「ふーん、まぁ大丈夫。これから晴れるよ」

「なんで分かるの?」

「直感だよ」



読んで頂きありがとうございました。

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