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物理特化型魔女  作者: ハピむら・R
一章 危険の知らせは、波打つ空とともに
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五話 『心配性』

 Wizard&Nature ティアミン支部 隊長室

 

「南の方から濃度の変化……?」

「はい、黒の部隊(プレート)から全隊へ、先ほど報告が……こちら、資料になります」


 白の部隊(ブランコ)の隊長、フィランダーに資料を手渡す女性の名前は、カルラ・ボスマンス。

 赤髪が目立つミディアムヘアーと浅紫(あさむらさき)色の瞳が特徴の彼女は、白の部隊(ブランコ)の副隊長を務めている。

インサートした紺色のニットタートルネックにウィッチャーのコートを羽織り、白いテーパードパンツと黒いヒールブーツを身に着けた姿は、理知的な印象を与える女性だ。

 

 資料を読み進めるフィランダーの様子を見ながら、カルラは資料をまとめた内容を簡潔に口頭でも伝えた。


「どうも三日ほど前から濃度変化が続いているようです。しかも、かなりの広範囲で」

「全部うちの担当エリアじゃねえか……同じ場所で数値が動きまくってやがる」

「ええ、濃度が薄くなった場所もありますが、濃くなった場所の方が多いようです」

「奥地の方か……数値を見る限り、まだ、大きな問題じゃあねえが……ただ……」

「ええ、徐々に北上しています。このまま続けばCエリアまで流れてくるかもしれません」

「Cエリアで止まってくれるといいが……新種のプロティアンでも現れたか……?」

「範囲を考えると、それは考えにくいですが……」

 

 フィランダーは何かを考えながら、冷めた珈琲をすする。


「念のため、過去に他の部隊に同じようなことなかったか確認しておこう」

「わかりました、後ほど各部隊に確認をとっておきます。それと、もう一つあります……」


 カルラは腕に抱えていた二枚目の資料を取り出すと、フィランダーに手渡した。

 資料を受け取ったフィランダーは、顎に手を添えながら、すぐに目を通しはじめた。


「C―1に設置してある振動計のほうにも異常観測が確認されたようです」

「ここは確か地下に埋め込んでいたよな?」

「ええ……地下、といっても二メートルほどの縦穴ですが」

カエル野郎(オーバルイーター)でも現れたか?」

「この資料からではなんとも……調査する必要があるため、誰かを向かわせろ。という事かと……」

「……黒の部隊(プレート)のやつらもこき使ってくれる。うちは人員不足だってのに」

「仕方ありません。なんでしたら、私が向かいましょうか?」


 資料を見ながら顎をさするフィランダー。

 カルラは白の部隊(ブランコ)にとって頭脳(ブレーン)のような存在だ。

 彼女自身、現場に出て指揮、戦闘をこなすこともあるが、基本的には支部でデスクワークをこなすことがほとんどだ。

 カルラは、心配性で用心深く、小心者だ。取り越し苦労をすることも多いが、それゆえに用意周到で、そして、戦略立案のスペシャリストでもある。

 白の部隊(ブランコ)で請け負う任務の大半は、カルラが作戦内容を考え、各隊はその指示に従って任務を遂行する。

 彼女が白の部隊(ブランコ)に赴任してから、部隊の被害や死傷者の数は激減しており、任務成功率も抜群に高くなっている。


 思考を巡らせるフィランダー。

 魔粒子濃度の変化のことも気がかりな状況では、カルラには支部に居てもらった方が良いとフィランダーは判断した。


「それもいいが、この位置なら、ユディタ達に向かわせたエリアから遠くない」

「ユディタ達はB―1のエリア境界ですね」

「ああ、ほとんどC―1のとなりだな」

「なるほど……向かわせますか?」

「そうしよう、追加の任務として伝えてくれ」

「了解しました」

 

 報告を終えたカルラは敬礼をして隊長室を後にする。

 カルラは自分の机に戻ると、コンピュータ端末を起動して資料をまとめていく。

 手早くまとめられた資料は、そのまま、ユディタ宛にメールで送られた。

 コートの内ポケットから魔携端末(スマートデバイス)を取り出し、通話画面を開いてユディタにコールを送った。

 だが、今はプロティアンとの戦闘中かもしれない。そう思い、通知だけを残すことにして電話をかけた。ユディタなら戦闘終了後にすぐに気付いて、折り返しの連絡をしてくれるだろうと打算があった。

 カルラは魔携端末(スマートデバイス)を耳にあて、コールが鳴り始めるのを待った――。


『おつかれさまです、副隊長。任務なら今、完了したところです』

「! え、あ、そう……」


 まさかのノーコールで繋がるとは思っていなかったカルラは、言葉に詰まり、思わず言い淀んでしまう。

 カルラの気持ちを知ってか知らずか、ユディタは、言葉を続けた。


『今、ちょうど任務完了の通知を押すところでした。……どうか、されましたか?』

「ああ、ごめんなさい、そうだったのね。おつかれさま。任務が終わったところ悪いんだけど、追加の任務をお願いしたいの。細かい内容は、先ほどメールを送ったわ」

『わかりました、後ほど確認します』

「ええ、お願い。送った資料に書いてある場所の計器を見てきてほしいの。どうも、異常があるみたいだから」

『異常……故障などではないのですね?』

「報告書の限りでは、故障ではなさそうね。プロティアンによる可能性もあるわ、十二分に気をつけること。いいわね?」

『了解しました』

「あとそれと――」


 カルラはユディタに、魔粒子濃度の変化が汚染域の奥地で確認されていることを伝えた。

 

『なるほど、なにかしらの変化があれば報告します』

「ええ、お願いね。どんな些細なことでもいいわ……」

『了解しました』

「……ところでユディタ」


 カルラはユディタと通話をはじめてからずっと気になっていたことを聞いてみた。


『はい、なんでしょうか』

「さきほどから、ヒルダとアルミロの二人は何をしているのかしら……」


 受話向こうから聞こえるヒルダとアルミロが大騒ぎしている声。

 音声だけでは状況が見えてこず、カルラは持ち前の心配性を発揮させる。


『……遊んでますね。問題ありません』

「遊んでる……それにしてはなんか、こう、あくせくしてないかしら? 大丈夫なの?」

『レサージックの粘液に絡まったアルミロのワンドを救出中のようです。心配いりません、もう少しで……あ』

「え?」


 レサージックの粘液溜まりに、勢いあまって尻餅をついたアルミロと、指を刺しながら、そばで大笑いしているヒルダ。

 その一部始終を見てしまったユディタは、呆れた表情になる。

 

『……大丈夫です、問題ありません……ただ、手を貸そうと思います』

「え、ええ……そうしてあげて。剥離剤はしっかりもっていったのよね?」

『ええ、もう十二分にもってきました。おかげでもう、無くなりそうですね』

「そ、そう……気をつけてね」

『ありがとうございます。では、失礼します』


 通話が終了した画面を見ながら溜め息をついてしまうカルラ。

 いろいろと心配になったカルラは、内心落ち着かない。


「大丈夫かしら……あの子達……」

《毎週金曜日に更新予定》

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さあ、遠慮はいりませんよ。よしなにお待ちしております。

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