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序章 クローバー咲く、足下の骸

 白色とオレンジ色でデザインされた傘が、鈍重な一撃によって手から滑り落ち、宙を舞う。

 回転しながら自由落下した傘は、少し傾いた状態で石突(いしづ)きから地面に突き刺さった。

 痺れた右手を抑えるヒルダの目の前には、浄化対象である白磁の獅子の形をした『リオ・プロティアン』が月白色(げっぱくいろ)の爪を赤く染めようと、より鋭く、長く変化させていく。


 荒廃した大地。

 空気は乾き、砂が舞い、植生の草木はなく、あるのは乾燥した大地のヒビ割れと岩。

 今にも飛びかかりそうな姿勢で唸る獅子の爪が大地にめり込み、埃を立てる。

 ヒルダは怯むことなく、腰に据えた予備の武器(かさ)に手をかけ気を伺い続けた。

 一瞬の隙もみせられない状況に心拍数が上がり、まばたきすら出来ず、額から流れる汗が目を通り、涙のように滴れていく。

 一秒を長く感じる膠着を破ったのは、ヒルダの後方からきこえた弓の弦音。


 それは、ヒルダの三十メートルほど後方で待機していたユディタが放った一本の矢だった。

 ヒルダの顔の真横を風切り音をたてながら、矢が通り過ぎるとリオ・プロティアンの目の前でバウンドするように跳ね上がり、その獅子の顔をした右目に深く刺さり込んだ。


『GURuaaaaAaaaa!!』


 顔面に食い込む異物と、痛みを取り払おうと頭を振りながら暴れるリオ・プロティアン。

 しかし、深く刺さり込んだ矢は抜けることはなく、青緑色の血をまき散らす。目の前で暴れる獅子を前にヒルダはバックステップで距離を取ると、先ほど手放した傘を回収した。


「さっきは飛ばされちゃったけど、同じ事ができると思わないでね?」

『GURuuu……』


 挑発されたのが分かったのか、落ち着きを取り戻したリオ・プロティアンは目の前のヒルダを無視するように、矢の飛んできた方向へ跳び掛かる。

 右手を突き出すヒルダ。その右手に握られた傘型の魔法展開杖(ワンド)


「所詮は獣! 《シャープチェンジ》!」


 バサッと傘が大きく開かれ、ヒルダが魔法を展開すると、瞬時に傘が巨大化した。身の丈よりも大きく、ヒルダを越えようと跳んだリオ・プロティアンよりも遙かに大きく変化する。


「からの~《ウェイトアグメント》!」


 魔法の重ね掛け。性質はそのままに大きさと重量が肥大化した傘は露先(つゆさき)を地面に突き刺し、一枚の壁と化した。

 二重の防魔(ぼうま)繊維で作られた弾力性のある傘は、勢いを殺せず激しくぶつかってくるリオ・プロティアンを、まるで風船で弾き飛ばすように撥ねのける。

 弾かれたリオ・プロティアンは受け身もとれずに倒れ込み、大きな土煙が舞った。


「《クリエイション アロー》……《ネット》」


 ヒルダの後方に陣取っていたユディタが一歩も動かずに、言葉小さく数本の矢を放つとリオ・プロティアンに降り注ぐように飛翔する。途中で網状(ネツト)に形状が変化した矢は、リオ・プロティアンを地面に縫い付けた。

 ジタバタともがくリオ・プロティアンは、ユディタが魔法で作りあげた網に絡まり、起き上がれない。


「アルミロ! つぶしちゃえええぇ!」

「わかってる。《シャープチェンジ》 《ウェイトアグメント》! ――――あ」


 上空で待機していたアルミロは、急降下しながらリオ・プロティアンへ近づくと、右手にもった、鎖の長いフレイルを振り下ろした。

 リオ・プロティアンの直上、長く伸びた鎖の先に付く二つのトゲのある鉄球が鈍色に光る。

 遠心力と重力が働き、鎖を引っ張るように円弧を描きながら落下する鉄球は、途中で、急に何十倍にも膨れ上がる。

 それは、影で周囲を暗くするほど大きく、リオ・プロティアンの側にいた二人も巻き込んで大きかった。


「っひぇ――アルミロっ、ちょ、でかすぎっ!」


 物体の形状を変化させる《シャープチェンジ》。

 物体の質量を変更し、重量を増強させる《ウェイトアグメント》。


 出力を間違えて発動された二つの魔法は、鉄球を大きく、重くしすぎて、辺り一体を押し潰すように一気に落下する。

 辺りに響き渡る轟音と振動、地面に沈み込む鉄球と周囲を覆う土煙。

 そして、鉄球に魔法をかけた張本人のアルミロの顔面からは大量の冷や汗が噴き出る。


「ヒ……ユ……あ……ヒルダとユディタが死んだーー!」


「殺してんじゃなぁぁぁい!」


 魔法の効果が切れて鉄球が小さくなると、ヒルダが憤然としながら叫んでいた。

 シェルターの様に頑丈かつ大きくなった傘に隠れていたヒルダとユディタは、土にまみれになった姿で出てくる。


「あ、生きてたんだね……信じてた」

「信じてた。じゃなーい! いま、「死んだーー!」って言ったじゃん。間一髪だし! めっちゃ危なかったし! てか、こっちの傘は殆ど潰れたし! 私の傘に感謝して謝って!」


 ヒルダがメインの武器にしていた傘型ワンドは、大きく質量が増大した鉄球の圧力には耐えたが、傘の骨が折れ、防魔繊維で作られた弾力性のある布は破れ無残な姿になっていた。


「傘様、鉄球ぶつけてゴメンナサイっ!」

「ちゃんと修理(なお)してよね!」


 浄化目標を倒したことで緊張の糸が切れて騒ぎ出す二人。それを無視して、ユディタは鉄球に潰されたリオ・プロティアンの確認に向かう。

 鉄球で作り出されたクレーターの中央に、潰されて横たわる骸。

 青緑色の血液が飛び散り、地面を黒く染め上げている。その黒い地面からは湯気の様な瘴気が漂っていた。


 ユディタはベルトポーチから植物の種と青い液体が入ったボトルを取りとりだすと、リオ・プロティアンとその周囲に種を蒔き、液体を振りまいていく。

 すると、蒔いた種から次々と芽を出す『一つ葉のクローバー』

 一斉に咲き乱れたクローバーは周囲一帯を緑に変えていく。

 大きく呼吸をして息を吐くユディタ。取り出した魔携端末(スマートデバイス)を操作すると画面中央に表示された『浄化完了』のボタンをタップした。


「こんな草……すぐに枯れるのに……」


 足下に広がる青々としたクローバーを見下ろすと漂う瘴気はなくなり、代わりに、ほんの少しの青臭い匂いが鼻先を撫でていった。

《毎週金曜日に更新予定》

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さあ、遠慮はいりませんよ。よしなにお待ちしております。

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