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a trick of destiny -運命の悪戯-  作者: 樋山 蓮
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Ⅳ.幸せの定義



あなたにとって、幸せって何ですか?―




わたしの幸せが、幸せってわたしにはまだ理解出来なかった。



欲しいものは手に入れてきた。

手が届かないものは、幸せだけなのかもしれない。



井上怜太

あなたは最初に付き合った人。体目当てだったよね。


松尾祐人

あなたは付き合ってるということに満足してただけの人。寂しさを思い知った。


坂本秀太

あなたは…恋心を利用した人。人を信じることが出来なくなった。


水城将

あなたは…浮気される辛さを教えてくれた人。



人を愛する度に、わたしは…幸せが遠くなる気がした。




もう、恋愛なんてしたくない。



でも、淋しいんだ。








幸せって何ですか?―










「もしもし。」

「翼だけど。」

「どうかした?」

「今から、仙台だからさ。」

「明日からツアーだっけ?」

「うん。魅波にかわる。」

「もしもし?亜紀ちゃん?」

「魅波くん、いってらっしゃい!気を付けてね?」

「うん。お土産買ってくるね!」

「うん。楽しみにしてる。」

「(おい、魅波!返せ。)」

「わかったよー。亜紀、あとでLINEするね。」

「うん。」

魅波くん…元気そうでよかった…

「くれぐれも、嫌がらせには気を付けろよ?」

「うん。大丈夫。」

「何かあったら、誰でも良いから連絡しろ。」

「うん…分かった。」

「じゃーな。」

「うん。頑張ってね。」


電話を切ると、和哉が両手に学食を載せたお盆をもってテーブルに持ってきた。

「亜紀~、B定食でよかった?」

「あ、和哉ありがとう。」

「明日からツアーなんだっけ?頑張って亜紀のSP頑張らなきゃだ。」

「和哉、ごめんね?」

「いや、俺は嬉しいもん。亜紀と四六時中一緒に居られるから。」

「四六時中って…家に入り浸る気?」

「亜紀の手作り料理付きだったらスーパーSPになれる!」

「遠慮しとく。」

「ま、あの人たちがツアー終わるまではちゃんと頼って」

「うん。ありがとう。」


あれから、佐々木紗綾は隙のないわたしの行動で何も出来ないようだった。

和哉も警戒しているから、遠くから見ているくらい。

「あいつ、亜紀のこと周りに聞いてるらしいよ。でも、みんな佐々木のことだから、くだらないことだって分かってる。」

「あんまり連絡先教えてる人居ないからちょっと安心なんだけどね…。」

「後ろ付いてきそうだよな。」

「学部違うから、授業終わる時間も違うでしょ。」

「あいつ、何学部?」

「文学部だったかな。」

「てか、みんなあいつのこと知ってるよね。」

「文化祭でミスコン貰うために男たぶらかしてるんでしょ?投票権は男子と、外部じゃん。」

「それなのに毎年5位なんだろ?亜紀の方が上じゃん。」

「わたし、ミスコン興味ないし。」

「4年の崎本結衣が卒業したら、来年は亜紀がダントツトップだろ。」

「だから、ミスコンには興味ないの。エントリー制だったら絶対エントリーしないんだから。」


何で推薦制なのよ、と言いながら和哉にB定食分のお金を渡して、食べ始める。


今日はなんかありそうな気がする…。







「亜紀、帰ろう。バンドの練習ないんだろ?」

「うん。」

「早くしないと、あいつが来ちゃうよ!」

「ちょっと待って。」


和哉と2人で歩いていると、「亜紀?」と声をかけられる。


「そうちゃん。」

「あ、この前の。」

「こんにちは。幼なじみの風間宗太郎です。」

「ど、どうも。SPの相沢和哉です。」

「SP?何で?」

「翼のバンドのファンに嫌がらせ受けてて。」

「そうなのか。翼のバンドも人気なんだな?」

「明日からツアーで、仙台に行っちゃった。」

「翼、仙台に居るのか。」

「そういえば…小林くんは?」

「ああ…少しな。」

「もしかして捕まったの!?」

「いや、そうじゃなくて…親の会社が倒産したらしくてさ…自主退学だって。」

「そっか…退学か…。」

「でも、亜紀が俺のこと心配してたってちゃんと聞いたよ。」

「そっか。」

「俺が時間合うときだったら一緒に帰るよ。家近所なんだしさ。」

「でも…。」

「佐々木だろ?あいつ、小林にも聞いてきたらしいからな。」

「本当に迷惑かけてごめんね?」

「いいよ。亜紀の父さんには良くしてもらってるし。」

「お父さん、最近飲み友達が欲しいらしくてさ。この前も、そうちゃんに会ったときに一緒に居た、翼のバンドの賢くんが気に入られて、日本酒飲まされて大変だったんだから。」

「お前の父ちゃん、相変わらずだな。」

和哉とそうちゃんと3人で、一緒に帰っていると、駅前で佐々木紗綾が立っていた。


でも、2人と一緒ということもあって、諦めたみたいだった。

「あいつ、俺らが居なかったら何するつもりなんだろ…」

「ただの嫉妬だから。」

「ただの嫉妬って言ってもな…女の嫉妬って怖いな…」

「うん…。」







「じゃ、和哉またね。」

「うん。おやすみー」


和哉と別れてそうちゃんと2人。


「亜紀、よくバンドの奴らと一緒に居られるね?」

「やっぱり恐くなって…逃げ出そうとしたの。でも、みんなが守るって言ってくれて。翼とは友達で居たいし。」

「まあな。」

「ね、DIM-TAMのツアーファイナル、東京なの。そうちゃんも行かない?」

「翼のバンドか~。高校ぶりに行ってみたいな。」

「すごい人気なんだよー?この前もsold outって書いてあった。」

「なんかさ、小学校の時の卒業文集で、将来有名人になりそうな奴ランキングとかあったじゃん。なんか、全然違うよな。翼がミュージシャンになるなんて思ってなかった。」

「わたしがそれ1位だったんだよね…ま、平凡な大学生やってるけどさ」

「モデルのスカウトあったんじゃなかったっけ?」

「あ、中学の時?そう言えばあったかも。でも、そういうの嫌いでさ。有香と一緒に遊びに行った時だったから、有香からお母さんに伝わっちゃって。お母さんの方がやる気だったんだから。」

「お前の家って、面白いよな」

「動物園みたいだよ…全く…」

「ま、それが谷沢家って感じするよ」

「そうちゃん家のおじさんとおばさん元気?」

「ああ。相変わらず仕事は大変そうだけど、変わりないよ。」

宗太郎の両親は両親揃って教師だ。

わたしも、そんな宗太郎の両親に憧れて教師を目指すようになった。

「そっか。」

「じゃ、またな。」

「うん。ありがとね。」

「ま、家近いんだし、困ったことあったらいつでも言って。」

「うん。じゃ、おやすみ。」



何事もなかった1日に胸をなで下ろす。


たくさんの人に心配かけて、迷惑かけて正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。





「もしもし?賢くん?」

「亜紀?何かあった?」

「ううん。何もないよ。」

「何もされてない?」

「うん。友達が家まで送ってくれたから大丈夫だったよ。」

「そっか。よかった。」

「明日からだよね?」

「うん。月曜日の昼には東京に戻るよ。」

「うん。」

「心配だから、早く帰りたい。」

「賢くん、ちゃんとファンと向き合わなきゃだよ?インディーズ最後のツアーなんだから。」

剣斗と呼ぶと、少し気を引き締まる気がした。


「そうだな。ファンのおかげでここまで来れたんだもんな。頑張るよ。」

「うん。頑張って。」

「でも、なんかあったらすぐに言ってな?」

「…うん。」

「じゃ、また。」

「うん。おやすみ。」

「おやすみ。」


仙台か。

新幹線で1時間半位?



あと2日、何も無きゃいいな…。









仙台公演は終わって、DIM-TAMは東京に戻ってきた。

今日は翼の家に集合することになっている。

翼が家に迎えに来てくれて、家に入ると飼い主を待っていたわんちゃんみたいに、魅波くんが走ってくる。


「亜紀ちゃーん!」

「魅波くん、仙台どうだった!?」

「淋しかったよー、亜紀ちゃーん!」

「LINEしたでしょ?電話も。」

「何もなかった?」

「うん。何も。」

「良かったー。」



リビングに行くと、翼のお母さんが、まるで家に帰ったかのように出迎えてくれる。


「亜紀ちゃん、いらっしゃい。」

「おばさん、こんばんは。おじさんは?」

「仕事が忙しいみたいでね…深夜になるかな…。」

「そっか…。」

「亜紀ちゃんが来るの分かってたら、すぐに帰って来てるわよ。」

「おじさんに会いたかったなー。」

「亜紀ちゃん、晩ご飯はたべた?」

「まだです。」

「じゃ、一緒に食べて。みんなもこれからなの。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」


夕飯が出来るまで、魅波くんが買ってきたお土産が次々と出てきた。


「お前、そんなに買ったの?」

「仙台、何度も行っただろ。」

「亜紀に買ってきたんだもん。笹かまぼこでしょ、牛タンに、伊達正宗のキティちゃんのご当地グッズ、それと萩の月!」

「こんなに食べきれないよ〜!」

「俺ら色々回ってるからさ、結構ご当地グルメ知ってるよ?」

「いいなー。わたし、旅行は沖縄と京都と奈良くらいしか行ったこと無いや。」

「仙台も良いところだよな。」

「わたし、岩手の平泉に行ってみたい!」

「平泉?何かあるの?」

「源義経が死んだ場所。奥の細道にも入ってたっけ?」

「剣斗、良く知ってるな!」

「有名だよ。魅波、知らないの?」

「歴史分からない…今度、亜紀ちゃんのバイト先で歴史の本買おうかな…」



翼のお母さんの手料理をみんなで食べて、また雑談して。

スマホが鳴ってることなんて気付かなかった…







「じゃ、またね。」

「うん。今日はありがとね。帰ってきたばっかなんだから、しっかり体休めてね。」

「うん。じゃ、また連絡する。」


賢くんに送られて、部屋の中でスマホを確認すると着信が3件。



全部、泉と圭吾からだった。


メッセージが一件。




何か、不吉なことがあったのかな…と心配する中、メッセージを確認した。





『亜紀!?泉だけど、悠奈が帰る途中で襲われたらしい。今、俺の家に居るけど…もし来れたら来てほしい。』


悠奈が!?なんで?





「もしもし?亜紀?どうかしたか?」

無意識に電話を掛けていた相手は…賢くんだった。



「賢くん…どうしよう…」

「どうしたんだよ?」

「悠奈が…襲われた。」

「悠奈ちゃんが?!」

「どうしよう…わたしのせいだ…どうしよう…」

「ちょっと待ってろ。今行く。絶対、家から出るなよ?」

「う…うん。」



もう、何も考えられない。

どうして…悠奈が…









「亜紀っ」



賢くんの顔を見ただけで、涙は止まらなくなる。


「賢くん…」

「亜紀…お前のせいじゃないから…」


賢くんは包み込むように、抱きしめてくれる。



「わたし、もう居ない方が良いのかな…きっと…みんな不幸になるだけ…」

「俺は…幸せだよ。亜紀と一緒に居るのが幸せ。」

「わたしが幸せな分、誰かが不幸になるなんて嫌だよ…。」

「亜紀、お前は知ってるだろ…舞が死んだこと。俺だって人が不幸になるなんて嫌なんだ。でも…亜紀を幸せにしたい。初めて会ったとき、亜紀のことを守りたい、亜紀と一緒に居たいって思ったんだ。」

「賢くん…」


賢くんが体を離すと、わたしと目を合わせた。

賢くんは真剣な目でわたしを見つめている


「亜紀が負った傷は…俺が癒やすから…。」

「賢くん…」

「俺、亜紀を幸せにしたい…できるか不安だけど。」



賢くんの言葉に少し気持ちが落ち着いた。






「亜紀…大丈夫か?落ち着いた?」

「悠奈のところに行かなきゃ。」

「もう、自分の周りが不幸になるなんて言うなよ?」

「うん…。」




その後、泉の家に行って、悠奈の具合を見に行った。


「悠奈、ごめんね?」

「亜紀…自分のことは責めないで?」

「悠奈…。」

「亜紀には幸せになってほしい。」


涙は溢れるばかりで、友達の暖かさに心から感謝しようと思った。







「じゃ、帰ろう。悠奈ちゃんも家まで送っていく。」

「あ、はい。ごめんなさい。お世話になります。」

「亜紀、車回してくるから悠奈ちゃんとエントランスで待ってて。」

「うん。悠奈、大丈夫?」

「うん。泉が大げさに騒いだだけだよ。」

「泉と圭吾、ありがとね!」

「おう!お前も、気を付けろよ!ま、何かあったら助けに行くから!」

「賢くんと幸せにな!」

「うん。ありがと。」


2人でエントランスまで下りると、もう賢くんは車をつけていた。



「じゃ、2人とも後ろに乗って。」

「ありがとうございます。」

「家はどの辺?」

「新板橋です。」

「了解。」

賢くんは、悠奈を家まで送ると、わたしを助手席に乗せて「帰ろっか。」と自宅方面に車を走らせる。



「いい友達だね。」

「うん。」

「俺もあんな友達欲しいな。」

「賢なら出来るよ。」

「今、賢って言った?」

「え、悪かった?」

「ううん。嬉しい。今まで賢くんか剣斗くんだったから。」

「ライブ終わりで疲れてるのにごめんね?」

「亜紀のことは、俺が守るって決めたからさ。」

そう言って、賢はわたしの手を握った。




「わたしも、賢のこと守りたい。」

「え?亜紀?」

「返事、待たせちゃってごめんね。」

わたしは握られた手を強く握り返した。

「賢と一緒にいたい。2人で幸せになりたい。」

「2人で、幸せになろう。」


賢がぎゅっと抱きしめてくれた。



賢の幸せはわたしの幸せ。

…そう言えるようになるのはいつなんだろう。



誰かの幸せは誰かの不幸。


この恋の成就は…誰かの不幸。

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