表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/38

第8話 爆走しましてね。

 トンデモねぇ。

 

 馬車ってこんなに早く走れるんだ? ……おっと軽く現実逃避しかけたぜ。

 今、これでもかってくらいのスピードで俺たちを乗せた幌馬車は爆走していた。

 ちなみに御者は俺なんだが。

 

 車輪やら、軸棒やらが悲鳴を上げてる。

「これが限界だよ、母さん」

 というか、よくここまで馬車のポテンシャルを引き出せたな俺。

 うむ、自画自賛。

 

「何よ、こっちが下手(したて)に出てれば、追ってきて!」

 ママンの言葉の意味は良く分からないんだが、実際俺たちは追われていた。

 

 ちなみに母さんは下手(したて)に出てなど、微塵もなかった。

 どうしてこうなったのか、時間は少し前に遡る――。

 

 

 

 

 マダキア王国。

 俺たちの住むトリウス王国の西側に接する王国である。

 流通が盛んで、中継都市(ハブポイント)を多く持ち、財政状態も相当良い。

 

 トリウス王国とは、先々代の王の頃からあまりいい関係ではなかったらしい。

 そして切っ掛けは分からんが、昨今、例の戦争の噂が立ち始めたのだ。


 利権絡みなのか知らんが、潤った国なら別に戦争なんてしなくていいじゃん。と思うのは、俺が一般人だからだろう。まつりごとの話は良く分からん。

 

 で、そんなマダキア王国の国境、まもなく関所に到着するってところ。

 


 今日は快晴。絶好の旅日和であるが、

「で、母さん、関所には、旅人の()()でいいのか?」

 実際、旅ではあるからフリでは無いのだが。

 

「商人のフリをして関税と一緒に、少し袖の下を掴ませてはいかがでしょう?」

 姫が少し悪い顔をして言った。

 袖の下ねぇ。まあ、()()の検閲で済むなら、時短にもなるし無難だ。

 幸い、幌馬車は商人っぽくも見えなくない。

 それに商人なら大体、握らせるのが常識だし?

 

「姫がそう言うなら。では、それでいきますか」

 ま、財布のひもを解くのが姫なら、俺としてはなにも文句はない。

 

「姫ではありません、私はただのエリーです」

 ニコリと微笑んんだエリー嬢、表情が悪いままですよ。

 そんな悪い笑顔でも美人である。

 

 

 だが上手くいかないもので、予定外のことが発生しやがったのだ。


「なんですかこれはぁ? 賄賂(わいろ)ですかぁ? 何かやましい事でもあるんですかぁ? そんなこと許せるわけないじゃないですかぁ? ちょっと馬車を路肩に寄せてくださぃ? 怪しいですねぇ?」

 語尾を伸ばして全部“疑問符”つけるんじゃねぇ。この衛兵、凄くうざい。


 と、姫の作戦が、まんまと裏目に出たのだ。

 

 関所の衛兵、真面目か? いや、むしろ正しい衛兵なんだが。

 言葉遣いが生理的に無理。

 むしろ殴りたい。

 が、良識ある俺は思うだけで、行動にはうつさない。

 


「ベネットちゃん突破するわ。時は金なりよ」

 母さん、関所破りは流石にまずい――

 

火炎嵐(fire storm)

『ドカァーン』

 と、俺が言い切る暇もなく、母さんから放たれた一発。

 綺麗に関所だけ、木端微塵こっぱみじんじゃないか。

 挿絵(By みてみん)


 唖然とする衛兵。当たり前である。

 

 俺も一瞬固まっていたが、

「行くぞ!!」

 と、即行で手綱を打った。

 

 と、こんな具合で、追われる羽目に、そしていきなりお尋ね人になってしまったのだ――。

 

 

 

 俺の駆る暴走馬車は、街中へと特攻した。

 もちろん馬車は最高速のままだ。この馬車すごいよ。

 

「しかしさ、何とか()()ないもんかな?」

 詰所にいた衛兵が、総勢でめっちゃ追って来る。

 いくら馬車が速いと言っても、単独の馬には勝てないのだ。

 

「追いつかれるのは時間の問題ですね」

 エリー嬢よ、分かっているから聞いているんだが?

 

 さてどうするか、わりと万事休すな局面だ。

 

「じゃあ、あの人たち黙らせてくるわね」

 母さん、何を言ってるんだい?

 爆走中ですが? “黙らせてくる”って言いましたか? ねぇ。

 

 俺が、振り返ったタイミングで、母さんはひょいっと馬車から飛び降りた。

 高速で走る馬車なんですが?

 

 というか、母さんや、少し飛んでないか。

 思わず二度見する俺。 

 

 いやいや、それ以前に、

「母さん! 悪いのは俺たちだぞ!?」

 ()ッちまうんではないかと、俺、思わず叫ぶ。

 

「分かってるわぁ。そろそろ昼食にしたいのよぉ。だから、少し黙ってもらうだけよぉ! 拘束(bind)、 からのぉ睡眠(sleep)、ダメ押しで、沈黙(silent)!」

 連続状態異常魔法だと? 騎馬衛兵たちは、光の鎖で拘束されて、そのうえで眠らされた……しかも黙らされたのか。

 

「リーゼロッテ様、凄い!」

 エリー嬢、大歓喜。

 確かに凄いんだが、驚きの方が勝る俺がいる。

 

 

 俺は、馬車の速度を無意識に緩めていた。

「さ、これで静かになったわ。ベネットちゃん、レストランを探してくれる?」

「母さん? ちなみにだけどさ、あの状態異常はいつまで?」

「丸一日だけよぉ」

 不憫すぎる。

 道の真ん中で、眠っている衛兵。街の人はどう思うのか。

 いや、困惑するだけだな。

 

 

 そして俺たちはレストランでゆっくり食事をしたのだ。

「あら、このオムレツ美味しいわぁ」

 母さんの、この素晴らしい笑顔である。

 

 店の人は、心なしか怯えている気がするんだが?

 

 

 さて、今後の予定だが、俺たちは一路、マダキア城下を目指す事になった。

 敵国になるかもしれない城下町を堂々と通過する計画なのだ。

 どうかしている。

 

 時は金なり、の最短ルートらしい。

 ちなみに発案は母さんだ。もはや何も言うまい。

 

 

 これがトンデモねぇ事態に発展するとは、この時の俺はまだ知らない。

 と言うか、知るわけがないし、むしろ予想できるわけがないだろう? ねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ