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第33話 不死の軍勢がありましてね。

 今回は流石にシャルとミカを守り切る自信はない。

 だから二人を屋敷へと帰らせることにした。

「ベネット様、シャルは、お、お、お、かえりをずっとお持ちしてますわ!」

 こぼれそうな涙を我慢するシャル。


「ええ、わたくしもシャルさんと一緒に屋敷と領地を守ってお待ちしてます」

 ぎゅっと両手を組み合わせて祈るように言ったミカ。


 俺としては、二人だけ帰らせるなんて心配すぎるから、ローザとヘキサのどちらかを護衛にとも思ったが……。

「これはリゼ様からの試練。私は絶対一緒に行きます」

 と、ヘキサは譲らない。

「旦那様のご命令であれば、私は戻りますが……」

 と、ローザさんも不満そうな口ぶりだ。


 すると控えめな、あの()がおずおずと前に出た。

「ワッチが、お二人を必ずお守りしますにゃ。それに猫の里からも仲間たちを呼び寄せますにゃ。どうぞご安心をですにゃ」

「ミライちゃん……」 

 なんていい()なんだ。俺は猛烈に感動した。


 そして、

「えい!」

 と、俺はパンサーの所業を思い出し、げんこつを落としてやった。

『ごつんっ』

「うがっ、い、痛いにゃ! なんでワタチを殴るにゃ!?」

「こんないい()を泣かせてたなんて、このダメ毛玉が!」

「なんで今にゃ!? 納得いかないにゃ!」

 うむ、感動した気持ちの行き場に、勝手に使いました。ごめんね。

 とは、口に出さないけどな。


 毛玉たちに囲まれるシャルとミカを想像すると、安心とともに和む。

 と言うわけで、後顧(こうこ)(うれ)いを断つことが出来た。


 ミーアゴッズの開いた移動魔法(gate)で三人を送り、改めて俺たちはゲールトルドの城へと向かった。


 

 城を持つ魔王と持たない魔王。その違いは土地を持つか否かの違いらしい。

 つまり領主としての側面を持っているという意味でもあるのだ。


 そしてゲールトルドもまた領地をもち、城を持っている魔王なのだが……。

「えっと、つまりこれがゲールトルドの領地の住人と言う事か」

 と、俺は丘の上からゲールトルド領の街を見下ろしていた。


 荒れた石造りの街並みに、大量のガイコツがひしめいていたのだ。

 常々思うのだが、スケルトンさんたちは筋肉もないのにどうやって剣を持っているのだろう?

 まあ、そんな事はさて置き、 

「ゲールトルドはエルダーリッチ。外法(げほう)で操ってるだけだ。だからこのガイコツたちに意志はない」

 と親父は丘を下りて、立ちはだかるガイコツたちを薙ぎ払いながら進み始めた。


「かつて、領民だったのだ」

 そう言い、ミーアゴッズも親父の後を追った。

 そしてグレイもガイコツの中へと。


 かつての領民とか、切なすぎるだろ。


「ぎにゃー! 数が多すぎるにゃ!」

 と言う毛玉の首根っこを掴み、俺は、

「じゃあ俺たちも行こうか」

 メイド二人と共に、アンデットの街へと飛び込んだ。 


 前方では、さすが魔王と元魔王さんたちだ、ばっさばっさとガイコツたちを薙ぎ払って進んでいる。

 出来た道を狭める様に、側面から迫り来るガイコツはメイド二人が鮮やかに砕いている。

 守られている感じで大変恐縮です。


 そして魔王城は目と鼻の先なわけだが……、ガイコツの群れが一層ハードに迫って来る。

 さすがにこれは多すぎませんか?

 見渡す限り、白骨の頭なんだが。というか壊した傍から復活してるし。


 それでも懸命に道を開く仲間たち。

 なんか何もしてない俺は凄く気不味いが、まあ余計なことして邪魔する方が問題だからね。シーフですし? 身を潜めるのも仕事と言うことで。


 だが、そうも言っていられないほど乱戦になってきた。

 パンサーも戦っているのだ。

 猫の手よりは頑張らなくては、と俺は短剣を、金の聖剣を抜いた。


 その瞬間、

「あ、あれ、なんか……」

 聖剣が光り輝いた。

 俺が短剣を高く掲げると、聖なる短剣はさらに輝きを増していた。


 そして聖剣の輝きが辺りを照らすと、それを避ける様にガイコツが道を開け始めたのだ。

「すごいにゃ!」

 驚くパンサー。実は俺も非常に驚いてます。


「これがベネットの力ではなく、聖剣の力か」

 ミーアゴッズさん、冷静に言わないで?


「おっほん、まああれだ、親父! 今のうちに駆け抜けよう」

 と、俺は、剣で魔王城を指し示した。

「お、おう」 

 親父、なにその腑に落ちないような反応は?

 さて置き、光がいつ消えるとも限らないから、俺たちは一気に魔王城へと駆けこんだ。


 城の中にもガイコツがわらわら(・・・・)いたが、聖剣の輝きは留まる所を知らず、ガイコツさんは近寄れないご様子ですね。

 俺、無駄にどや顔。

 そんな感じで、俺たちは城の大広間までたどり着いた。


 

「万の軍勢を抜けて、ここまでたどり着いた事は誉めてあげよう」

 玉座に腰掛けた黒いオーラを纏ったガイコツから声が響いた。

 声は割と軽い感じだ。


 だがパンサーが激しく振動している。

 つまりこいつが魔王ゲールトルドだ。


 そして玉座に向かい、親父が踏み出した。

「ゲールトルド! 話があってきた!」

「ほうほうほーう、最強の魔王コンクレアスが話しとな?」


 俺は、聖なる短剣を鞘へと戻して見守る構え。

 頑張れ親父。


「率直に言う。人界に攻め込むのをやめてほしい! お前の軍勢が人界を刈り尽したとしても、世界は滅ぶ!」

「でっ? ていう」

「でって、お前……」

「だって、我、アンデットだもーん。不変かつ不死だもーん」

 く、声だけじゃなく、口調まで軽いぞこの魔王。


「ぐぬぬ。ならば俺たちに協力すれば世界の半分をやろう!」

 親父が意味不明な……、ああ、いや最強の魔王だから、あながち間違いではないのか?


「そんなのお前ら倒せば、全部手に入るもーん。馬鹿なの?」

 確かに、まあ、ゲールトルドの言う通りだけども。


 さて、どうする親父?

「ええい! この、わからずやめ!」

『パコッ』

 あ、親父から手が出た。


「あー! コンクレアス、話があるって言って、殴ったぁ!」

「ああ、殴ったさ!」

「じゃあ、お返しだもーん!」 

『ポコッ』

 ああ、今度はゲールトルドが、親父の頭を殴った。


「お前も殴ったな! ゲールトルドめ! このハゲ!」

『ポコッ』

「ハゲじゃないやい、毛根がないだけだもーん! この!」

『パコッ』


「それをハゲって言うんだ! この骨!」

「うるさいやい、この甲斐性なし!」

「ぐぬぬ、この、でべそ!」

「へそなんてないやーい!」


『ポコッ』『パコッ』

『ポコッ』『パコッ』

『ポコッポコッ』『パコッパコッ』

『パコッ』『ポコッ』

『ポコッ』『パコッ』 


 なにこれ?

 えっと、こんな状況がしばらく続いたわけで。


「コンクレアス、分かったよ」

 ゲールトルドは握手を求める様に手を差し出していた。

「ゲールトルド……?」

 それを一瞬戸惑ったように眺めた親父は、次の瞬間で強くその手を握っていた。


 で、なにこれ?


 首を傾げている俺に、ミーアゴッズに俺を手招きした。

 そして親父とゲールトルドを除き、みんなで円陣を組んで内緒話モードだ。


 最初にグレイに向け、かなーり小さな声でミーアゴッズが言った。

「攻めると言いながら、ゲールトルドは人界をなかなか攻めて行かなかったからな」 

「うむ。ワレが思うに、攻める攻める詐欺だな」

「ああ、これはきっと、“落としどころ”探っていたに違いない」 

「うむ、実際、奴が戦いに赴くところをワレは見た事がないからな」 


 な、なるほど?

 ミーアゴッズとグレイの言葉の後、俺たちの視線はほぼ同時にゲールトルドを見ていた。


「コンクレアス。この我、ゲールトルドはひじょーに感銘を受けたよ。交わした拳に誓って人界に手を出さない」

「ありがとう、我が強敵(とも)よ」


 親父とゲールトルドの硬い握手は続いていたが、ゲールトルドが両手で親父の手を解いた。

 俺たちも円陣解除!


 

 そしてゲールトルドはこちらへと近寄って来た。

「それからさ、グレイ」

「うむ、ワレに何か用か?」

「以前、借りてたさコレ返すよ」 

「ワレは、何も――」

「ねぇ、分かるっしょ?」

 と、ゲールトルドはどこからともなく取り出した拳大の革袋をグレイに押し付けた。 


 ジャラジャラと、絶対金貨ですやん。

 威厳を保つための口止めですね? わかります。


「それからミーアゴッズ。前から欲しがってた魔王の鎧(宝)。ヤミ―オークションで落としたけど、使わないからさあげるよ」

「俺は別に――」

「ね! わかるよね?」

 そんな感じでミーアゴッズの言葉を遮り、買収ですね? 

 “落としどころ”などではなく、感銘を受けた結果ですよね? わかります。


「ああ、それと君」

 と俺を指差したゲールトルド。

 俺まで買収ですか? まあ、くれるなら貰いますけど。


 ゲールトルドは俺を、健闘でも称える様に抱き締めながら小声でいった。

「そんな強い“聖光”とか無理だから、勝てないから。何でもあげるから口裏合わせてよ、ね、君、一番良く分かってるよね?」

 ええ、空気読みですね。

 凄く良く分かります。と、頷いておく。


 それからゲールトルドは何となく全員を褒めちぎりながら、魔王としての威厳を損なわず、さらには最強の魔王と殴り合った結果、互角の末、折れた(・・・)という感じの話に丸めて行く手腕というか、ほぼ買収。


 親父だけは気が付いてないけどね。


 とりあえずゲールトルドさんの説得には成功と言う事でいいよね?


 と言うわけで、残りの魔王は五人と言う事になる。

「親父、この調子で説得して回るのか?」

「ああ、そのつもりだ」


「あー、それなんだけどさー……」

 ゲールトルドさんが壁際に控えている背格好のそろったガイコツ三体を指差した。


「あれが何か?」

 と、俺は首を傾げた。


「そこにいるガイコツ三体がさ、元魔王なんだよねー」

 えっと、ゲールトルドさん? 意味が分かりません。


 俺、助けを求める様に解説上手のミーアゴッズさんを見た。

「まさか魔王イッチ、二ィ、サンなのか?」

 ごめん、もっと意味が分からなくなった。


「そうなんだよ。その三つ子魔王、モチを食べたら三人とも喉につまって死んじゃってさぁ」

 ああ、三つ子の魔王でイッチさんとニィさん。そしてサンさんだったんですね。

 安直と言うか、うん、何も言うまい。 



 というか、死因が三人同時でモチとか、その方が疑問だ。

 しかも魔王がですよ? 


「で、その亡骸をアンデッドとして再利用させてもらってるってっわけ。強いよ? ベネット君、戦っていれば、君の聖光でもさすがに苦戦したんじゃないかな? はっはっは」

 さいですか。

 確かに、只ならぬ雰囲気を醸し出しているガイコツですが。


 俺の聖光……か。ま、聖剣の力ですけどね!

 というか、さっきから親父がなぜか俺を見つめているわけですが? 


「ど、どうしたした親父?」

「ああ、いや……」

 やっぱり煮え切らない感じですね。


 さておき、これで魔王は後二人。 

 無事説得できればいいけど……、と、考えるのは後。

 まずは屋敷に帰って、シャルとミカに、いつもの感じで『ただいま』と言うのだ。

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