第28話 嵐の前の静けさ? でしてね。
「俺の名はミーアゴッズ。十大魔王の一人だ」
そう彼が名乗ったのは、しばらく通って来るようになってからの出来事だ。
そして今日も、彼は庭の池の東屋でティータイムを楽しんでいる。
ちなみに、身内と主要メンバーは大体ここに集合している事が多いが、今は女性陣がお料理中と言う事で離席。
ミーアゴッズは、肥溜めの魔王だったころが嘘のようにキラキラとしたイケメンだ。イケメンだからして、母さんの態度も多少は軟化したりして。
そこが多少気に食わない所でもあるのだが。
多少ね? まあ、うん。
「やはり、どこかで見たことがある」
と、事あるごとに俺を見て言うミーアゴッズ。
だが、やっぱり思い出せないらしい。
「他人の空似じゃないのか?」
俺はミーアゴッズに会ったことはない。
覗いていた事はあるけどね。
例えば肥溜めに落ちる瞬間とか。でも、それは言わない。
「空似? いや見たことはある。ずいぶん昔だったかもしれない。あれは確か魔界三丁目のキャバクラだったか……。ナンバーワンからテンまではべらせて、シャンパンタワーをした記憶がある」
何それ、羨ましい。
……とは思うが、むっつり属性の俺には一生縁のない話だ。というか、ただの自慢ではないか。
そして俺はポーカーフェイス。羨ましさなんて微塵も出さないよ?
「ますます他人の空似じゃないか。だいたい魔界にしたって、この前初めて行ったんだ」
「キャバクラってなんにゃ? 綺麗なお姉ちゃんたちがいるのかにゃ? ワタチも行ってみたいにゃあ」
パンサーは興味津々。素直な奴め。というかお前、許嫁の前でいいのか?
と、思った瞬間、
「パンサーのエッチ!」
ミライに猫パンチをかまされている。
この場で唯一の女性。あ、というかミライさん、なんか久しぶりだね。
空気だったと言うか、つつましいミライさんの久しぶりの主張に和みつつ。
「と、ところでミーアゴッズ。その腰にある杖はどこで買ったのかにゃ?」
殴られてもめげないパンサーは、ミーアゴッズの持つ杖にスリスリと身体をこすりつけ始めた。
魔王城のツボといい、その杖といい、パンサーがすり寄ると言う事は高級品なのだろう。地味に鑑定眼がすごい。
「これか? これは魔界通販ヤミゾンのタイムセールで買った安物だよ」
ミーアゴッズの安物というワードを俺は信じないよ。
というか、ヤミゾンってなに?
「いいにゃいいにゃ! ワタチも杖が欲しいにゃ」
パンサーよ。お前には聖剣があるだろう? と言う視線を向ける俺。
それに対し、
「ワタチも、リゼのように魔法を唱えたいのにゃ」
この猫は、最近視線を読みやがる。
と言うか、母さんは杖なんか使ってないけどな?
「ヤミゾンか……、実はワレ、カードが焦げ付いてて支払いが止まっているんだよな」
日向ぼっこ気味のグレイが片方の目を開けて開口一番。訳が分からないよ?
「一回だったら立て替えてもいいぞ。ただし今はセール中だ。クーポンとポイントは俺が貰う」
たぶん高度な話をしているのだが、みみっちく感じるわけだが。
とにかく俺には何のことかわからないよ。
「ミーアゴッズ! ちょっと手伝ってぇ」
と、屋敷から母さんの声。
「はぁい」
と、ミーアゴッズは椅子から立ち上がり颯爽と屋敷の中へ。
そして、すぐに用事を済ませたミーアゴッズが戻ってきた。
「ずいぶん馴染んでおるな」
と、グレイが言ったのだが、お前も大概だぞ?
「ああ、そうだな。否定はしない」
自覚があったのか。
そして動作とセリフがいちいちイケメンだね。肥溜め魔王の頃が懐かしいよ。
ミーアゴッズは背が高い。
だから手の届かない場所の物を取るとか、そんな光景をたまに目にするのだ。
そして無駄にキラキラしてやがる。
母さんは、不思議と家事に関しては魔法を使わない。
手でやる主義なんだそうな。
以前の俺は、家事をしている母さんしか知らなかった。だからこんなに凄いとは気が付かなかったのだ。
母さんは、みなまで言わないが、それが愛情を込めていると言う事なのだろう。
だが、冷静になって考えてみれば、主義って事は……魔法でできるって事か。
相変わらずのトンデモ魔法使いだ。
「お前はまったく手伝わないな!」
と、唐突にグレイがパンサーに猫パンチを繰り出した。
「痛いにゃ! パパも手伝ってないのにゃ!」
『フシャアアアア! ウギニャアアアアア』
と、猫らしく猫団子になって喧嘩を始めた。
「止めなくていいのか?」
親子喧嘩初見のミーアゴッズの心配もわかるが、
「ふっ、大丈夫。いつものことさ」
と、限界突破で俺もキラキラしてみる。
だが、ミーアゴッズもキラキラ返ししてきて分が悪い!
二匹の喧嘩はエスカレートして抜け毛が飛び散った。
そして、このあとボロボロになった二人を、母さんが治療するところまでがセットなのだ。
「やはりお前とは、どこかで……そう、今のように語り合った記憶があるのだ」
ミーアゴッズはん、また言ってはるわ。
だから俺は、魔界に行ったことなんてないっての。
と、その時、
『ヒヒィィィィン』
馬の嘶きと共に、平穏な一日が終わりを告げたのだ。




