第27話 またx4魔王が現れましてね。
「出て来い盗人ども!」
その大声は屋敷の正面から放たれていた。
と言うか、確かに俺は盗人だが?
まあ、とりあえずリビングにいた全員で外に出てみれば、異臭を放つ奴がいた。
「な、なんて臭さなの。まるで肥溜めみたい」
母さんが俺を盾にしながら鼻をつまんでいる。
確かに臭い。凄まじく臭い。
例えるなら【※※※】だ。
いや、例えなくても、【う※こ】だ。
「あなた、ここに何の用?」
俺の後から、嫌そうに言う母さん。
すると臭い奴は、ずいっと前に出た。
「我の城から奪った数々の宝、返してもらうぞ!」
大声量で言い放った。
なんだか声まで臭く感じる。
「こ、こいつ、これまでの奴等とは格が違うにゃ……」
いつも以上にブルブル震えるパンサー。
超高速なプルプル具合で、いかにくさい奴が凄いのかが良く分かる。
つまりコイツも魔王だ。
「魔王の中でも、上位五人の強さは別格だ」
グレイは恐れ慄いている。
つまり、こいつは上位五位にはいる魔王と言うことか。
だが臭すぎるせいか、俺のセンサーはキュピーンしていない。
だからして、いまいち強さが伝わってこない。
「嫌よ、肥溜め臭いもの!」
母さんの理由よ、臭いから嫌なんだね。
「ならば、力ずくでも……ん? お前、どこかで見たことがあるな」
と、臭い魔王の視線が、俺と交差した。
「え、俺ですか?」
「うむ。どこだったかなぁ……」
実は、俺もあなたの事見た事ありますよ。とはやっぱり言わない。
「うちのベネットちゃんは有名ですもの! どこかで見ていてもおかしくないわ! 肥溜め魔王!」
「さっきから肥溜め肥溜めうるさい! 空飛ぶ絨毯を追っていたら肥溜めに落ちたのだ! むしろ哀れめ!」
ああ、そこ、俺見てましたよ!
「可哀そうに! 肥溜め魔王!」
母さんの言い様。
肥溜め魔王と呼ぶのを止めさせたほうがいいのでは? とは思っても言わないお約束。
「さっきから失礼な女だ。だが……お前も見たことがあるような……、名をなんという?」
「リーゼロッテよ!」
「ふむ、リーゼロッテ……、どこかで聞いたことがあるような……」
と言うか、肥溜め魔王さん、全部ふわっとしてるな。
匂いもふわっと、いや、ぶわっと漂って来て困るのだが。
まあ、母さんの悪名は魔界にも伝わっていてもおかしくは無さそうだが。
「悪名ってなによ!」
こわっ、母さんや、内心にはツッコまないで?
「ええい、もういい! さっさと宝を返せ!」
「いやよ! どうしてもって言うなら力づくできたらいいわ!」
「なんという言い草だ! まるで我が悪者ではないか!」
「臭いから絶対悪者よ!」
ちなみに、いい匂いがしてたら良い者かって話ではないよ?
「あーいえばこういう! ならば仕方ない。穏便に事を済ませたかったが、ここは力づくでいくしかない」
魔王さんや、さっき力ずくでって言いかけてたのに、穏便に済まそうとしていたことに俺びっくりだよ。
と、その時、俺の中で初めて、危険を知らせる何かが鳴った。
肥溜め魔王から立ちのぼる禍々しく赤いオーラ。それが一瞬で場の空気を変えたのだ。
たしかに、これはヤバイ。
そして魔王の姿が、圧が、何倍も大きく感じる。
ローザやヘキサまでも気圧されている。
「フハハハハハ、我に怯えるがいい! 生意気な口を利いた事、後悔しても、もう遅いぞ!」
「なら、こっちも晩御飯前だから本気を出すわよ」
母さん。本気を出す理由が、相変わらず意味が分からないよ。
だが、そんな意味不明とは裏腹に、いつになく母さんの魔力が膨れ上がっていた。
「な、なに!? なんという魔力!」
肥溜め魔王すら驚くほど、母さんの魔力が高まっている。
俺は、直感した。これはもっとヤバイ。
「あまねく星々よ。虚無に浮かぶ欠片よ、その一片を、大いなる力の象徴として示し、そして降れ、|流星落下《Meteor fall》!」
母さんの詠唱と共に大地が震えた。
そして頭上から、赤々と尾をひく何かが降って来た。
待て待て、母さん!
そんなのが衝突したら家が壊れる。というか、街すら消えるぞ!
だが、逃げるモーションを起こす間なんてなかった。俺は、シャルとミカを庇って地に伏せた。
全員が全員、同時に伏せた。
たぶん肥溜めの魔王も伏せた。
『ドッ』
と、聞こえたのは一瞬。
あ、あれ?
あまりにもインパクトが小さいのだが?
先に結論から言うと、家は無事だった。
母さんが魔法で障壁を張ったのだ。
というか、インパクトの瞬間、そこだけを障壁で覆ってしまったのだ。
そして家の前には大きなクレーターが出来ていた。
その中心で肥溜め魔王はボロボロな状態で、横たわっていた。
というか、姿を保っているだけ凄いのではなかろうか。
「肥溜め魔王、汚いあなたにはちょうどいい熱消毒でしょ」
横たわる魔王に母さんの言ったセリフだが、隕石ぶつけておいて熱消毒って……それだけ凄い魔王だったと言う事でいいよね?
母さんが凄い事は略。
「それと、ボロボロのままじゃ可哀想ね。洗浄」
と、ボロボロにした張本人の母さんが手をかざした。
するとボロボロの魔王はみるみる綺麗になっていく。
熱消毒した後に洗うとか、どんだけ? とは思わなくもないが【※んこ】が残ってたら嫌だしね。
と言うか、洗浄で服まで直るのはビックリです。
「な……なんて優しい魔法なんだ……」
あ、魔王がうごいた。
そして身を起こし、魔王は自分の手を眺め見ながら言った。
「完敗だ。まるで心まで洗われているようだ」
と言うか、あれで生きてるとは、さすが五本の指に入る魔王……。
すごい生命力だ。
それから、心まで洗われた魔王はときどきウチに遊びに来るようになった。
悪かった人相もすっかり解れ、正体は赤い目に銀髪サラサラヘアーのイケメンだった。
庭に出来たクレーターは、魔王がお詫びにと綺麗な池に作り替えてくれた。
そんな庭の池の東屋で、俺たちと魔王でたまにお茶をする。
ああそうそう、それと俺たちが盗んだ宝の件だが、ぶっちゃけ俺たちが100%悪いのだが、そのままうやむやになった。
「ところで魔王さん、あなたの名前はなんだったかしら?」
「え、いまさら?」




