第24話 料理対決がありましてね。
その日は、少しだけいつもと違う朝だった。
「ベネット様、妻として、私は料理ができるようになりたいのです」
と、シャルは寝室から出たばかりの俺の手を掴んだ。
やぶからぼうになんだ?
そして、そのまま俺はシャルに連れられて食堂へとやって来た。
すると食堂には、ミカもいた。
「つきましては、ミカさんと勝負をするので、味見をしていただきたいのです」
ふむふむ、シャルさん唐突過ぎですよ。
「私がシャルさんに負けるはずがありません。この勝負、勝たせてもらいますわ」
ミカも、自信たっぷりに胸を反らしているが……。
そもそも、料理ができるようになりたい発言から、料理対決になったのか。
その辺りを全てすっ飛ばされたわけだが。
何かといつも張り合っている二人だ。聞かなくても大体予想は付いた。
「とりあえずパジャマから着替えてもいいか?」
かくして妻二人の料理対決が決まった。
と思ったら、着替えて食堂に戻ると状況はさらに変化していた。
「この屋敷で料理となれば、私を置いて他にはありません」
と、すまし顔のローザ。
「ああ、料理も一流であることを、リゼ様にお見せするために」
と、不敵な笑みを浮かべるヘキサだ。
なぜか、メイド達も参加する事になっていたんだが。
「ところで、俺の朝飯は?」
なんて、俺の言葉を聞いちゃいない。
四人ともが変なオーラを出していた。
そして唐突に始まった料理対決。
くじ引きの結果、一番手はミカだ。
大商人の娘、さぞ料理の腕も期待でき……。
なんだ、この白い物体は。固体と液体の間といった様子だ。
「お、これはマッタリとして、ふむマッタリとして……。まったりとして……、まったりとしか……」
どういうことだ。甘みもないし辛みもない。ただひたすらにまったりしている謎の物体。
「デザートです」
いやいやミカさん、デザート感がないんだが。というか、マッタリ以外ないんだが?
「デザート……、で、これはなんて料理なんだ?」
「ゆで卵です」
ここで、問題が生じた。
ゆで卵で料理勝負に挑むということにも驚きだが、この白い物体のどこがゆで卵なのか。
そもそも、ゆで卵をここまでマッタリさせるにはどうしたらいいんだ?
というか、黄身はどこへ? 色々な疑問が俺を思考の迷宮に誘っている。
おっと危ない……。
精神がどっかいくところだった。
ゆで卵、恐るべし。そしてミカ、恐るべし。
二番手はローザ。
「肉じゃがです」
ふむ、色合いもいいが、肉じゃが?
口に運べば、じゃがいもほっくほくだ。うまい。
人参の甘みも引き立っている。
だがどうしてだ? 肉がない。
というか、厳密に言えば肉に見えるのに、肉じゃないのだ。
というか肉に見えるジャガだ。
だが、どういうわけか、肉の風味はあるのだ。
しかしこれでは……、ジャガ煮だ。
味も見た目も肉じゃがなのに、肉が入っていないトリックのようなジャガ煮。
ローザさん?
「料理対決ごときに、肉は使ってません」
そうかぁ、ごときかぁ、じゃあなんで参加したの?
というか、肉を入れてないのに、肉の見た目と、肉の味がするって凄い技術だな。
どういう錬金術だ。
三番手はヘキサ。
この人、一番参加した意味が分からない。
「各地を回っていたときに考案した虫料理――」
「はい、失格」
くい気味に却下。
そもそも絶対見てはいけない。
最後にシャル。
野菜のスープだ。
「お口に合えばいいのですが……、」
俺はスプーンで一口。
うん、美味しい。
だが、なんだ? 何かが足りない。
もう一味何か足りない。何が足りないんだ? 塩気? 甘み?
よくわからないけど、まあ何かが足りない。
おかげで、なんだかもやもやする。
「ベネット様、誰が一番美味しかったですか?」
シャルがにじり寄って来た。
参加者全員の視線が俺に集まっている。
ちなみにヘキサだけは絶対ない。
さておき、これは答えなきゃいけないのか?
と、そんなタイミングで、
「みんな~、ごはんできたわよ~」
母さんの声だ。
この場をひとまず逃げ出した俺。
「うまい。やっぱり母さんの作った料理が一番だ」
「あらぁ私が一番? ありがとベネット」
結局、母さんが一番という事で話を纏めよう。
ホクホク顔の母さんとは対照的に、ふくれっ面のシャル。
納得いかないようなミカ。
「大奥様はお料理がお上手ですから」
謎の錬金術をしなければ、あなたもお上手ですがね、ローザさん。
「リゼ様の料理なら負けても仕方ない」
ヘキサ、君には最初から勝ち筋はないけどな?
なんて、平和な日常の一幕。




