第20話 泥棒に入られましてね。
(SIDE:トール)
僕の名前はトール。
十歳になった僕は、シュペー商会のトラム支店に奉公に出されました。
仕事は順調。算術もばっちりだし、未来の支店長も夢ではないと思ってます。
そんな僕ですが、最近、恋をしたかも知れません。
相手は伯爵家にいるシャルさん。
僕が伯爵館へ食料のお届け物をしたときに偶然出会ったんです。
「お届けご苦労様ですの。良かったらお茶でもいかがです?」
はい、一目惚れです。
彼女の周りが、全てキラキラして見える。
でも、一番輝いてるのは勿論……。
機微の一つ一つが洗練されていて、どこかのお姫様のようです。
でも、ドレスは着せられているだけで、きっと彼女もこの屋敷に奉公に出された娘なのでしょう。
だって、伯爵家の姫様が、給仕なんてするわけないのだから。
ああ、天使はこんなところにいたんですね。
もちろん、お茶をいただきましたとも。
そして彼女は、商会であったことや、僕の失敗談をお話したら、クスクスと笑ってくれました。
ああ、なんて素敵な笑顔なんだろう。
ひょっとして、僕の事が好きなのでは? いや、そうに違いない。
僕は確信しました。
僕は、もっと詳しく彼女のことを知りたくなりました。
まだ彼女の名前しか知らないからです。
溢れる想いを抑えられなくなった僕は、夜中に商会を抜け出して、伯爵の屋敷に忍び込みました。
抑えきれないこの気持ち。
彼女にも仕事がある。だから夜じゃなきゃ話せないだろう、と夜中にやってきたのです。
だけど、迷惑はかけられないから、僕は、タオルで口元を隠しました。
あと、サプライズの意味も込めます。
ところで、潜入したはいいけど、シャルさんの部屋はどこだろう。
僕は蝋燭の薄明りの中、屋敷を彷徨いました。
しかし偶然にも、ちょうど僕の前方直ぐで、ドアが開いてシャルさんが出てきました。
ああ、やはり運命なのだ。そう思って近づいたその時でした。
「きゃあああ! 泥棒!」
え? え? えぇぇぇ!
「ちがっ、ぼ、僕、です! ト――」
「まあ! 爆風!」
『バァァン』
どこからか出てきた女性にぶっ飛ばされました。
「あれぇぇぇぇ?」
幸い怪我もなく。
こうして僕の初恋は終わりました。
それから数日後、店番をしている僕に、傷心を癒すような出会いが訪れました。
赤毛の麗しいメイドさん。
その黒い瞳に僕は吸い込まれそうです。
「伯爵屋敷のローザです。頼んでいた物を受け取りに来ました」
ローザさんか、なんて美人なんだろう。
ああ、女神様はこんなところにいたんですね。
「あの? もしもし?」
あっ、ついつい見惚れてしまいました。
ご依頼の物を受け渡すと女神様は去っていきました。
しかし……また伯爵家の人か。
僕の天使も女神様も伯爵家にいるなんて。
でもシャルさんには悪いけど、終った恋です、もう過去の女というヤツです。
これからはローザさんだけです。
しかしうら若き可憐な女性が二人もいるなんて……。
もしかしたら伯爵に脅されて二人は……、そうだ、そうに違いない。
僕は決意を新たに、再び伯爵館に忍び込みました。
かつて英雄だったお父さんから託された伝説のナイフに誓って、悪い伯爵から二人を解放してみせます。
ですが、その前にローザさんに一目会いたい。
僕は、目立たないように、タオルで口元を隠しました。
あと、サプライズの意味も込めます。
僕は蝋燭の薄明りの中、屋敷を彷徨いました。
しかし偶然にも、ちょうど僕の前方直ぐでドアが開いてローザさんが出てきました。
「むむ、強盗!」
え、なぜかローザさんが身構えました。
「ちがっ、ぼ、僕、です! ト――」
あれ? 既視感。
「まあ! 爆風!」
『バァァン』
どこからか出てきた女性にぶっ飛ばされました。
「あれぇぇぇぇ?」
くそが、天使も女神もこの世にはいないんだ。
きっとヤツラは悪魔だったんだ。
伯爵家の悪魔どもめ。
ちくしょう、もう恋なんてするもんか。
※※※※※※
(SIDE:ベネット)
それにしても、最近泥棒やら強盗やら、どうなってるのやら。
戸締まりはちゃんとしてるんだが。
しかし母さんも、いちいちぶっ飛ばすのはどうなんだろう。
なんて俺は、壊れた窓を一瞥してから庭を歩く。
すると、ぽつんとナイフが落ちていた。
俺はそれを拾い上げた。
なかなかの意匠を感じる。うむ、これはいいものだ。
と、そのタイミングで窓が開いた。
「旦那様、お茶が入りましたの。休憩になさいませんか?」
「ああ、今行く。シャル、いつもありがとうな」
「そんな、妻として当然のことですわ」
天使のような笑顔である。
そしてシャルの後から。
「ベネット様、クッキーも焼きあがりました」
「いいね。ありがとうローザ。あ、そうだ、これ使う?」
「いいナイフですね。果物を剥くのにちょうどよさそうです」
こちらの涼やかな笑みは女神かな。
さて、休憩にするか。
まあ、なんだかんだ言って平和なんだよな。




