第19話 出番がありませんでしてね。
(SIDE:ヘキサ)
私の名前はヘキサ。
ある組織の雇われ暗殺者だった。
そう、“だった”だ。
度重なる失敗で、解雇されてしまったのだ。
私は苦悩した。
失敗しない暗殺者だった私の評判は地に落ちた。
それも、あの悪魔エルフ、リーゼロッテがあまりに強すぎたからだ。
潮時だったのかも知れないな。そう心の中の自分が囁いた。
そうだ、そうに違いない。暗殺者から足を洗う時期だったのだ。
では、足を洗って何をする?
見かけは、黒髪ショートで、青い瞳、体形は暗殺者らしくスレンダーだ。
世間的にも、たぶん、きっと、悪く無いはずだから、何か探そう。
とは思ったが、やりたい事が……何も見つからない。
私は、苦悩した。
唯一思い浮かぶのは、リーゼロッテのあの姿……。
決めた。
私はある決意を胸にトラムの街へ向かった。
街に到着した私は、その足で領主の屋敷の玄関の扉を叩いていた。
『コンコン』
そして現れたメイドに堂々と名乗る。
「私の名はヘキサ、暗殺者だった者だ。リーゼロッテ様に取り次いで頂きたい」
「……。大奥様はお休み中です。また改めておいで下さい」
仕方ない、出直そう。
そして翌日だ。
「リーゼロッテ様に取り次いで頂きたい」
「お出かけ中です」
むう、なんと間の悪い。
そしてまた翌日、
「リーゼロッテ様に取り次いで頂きたい」
「お昼寝中です」
雨の日も、風の日も、
「リーゼロッテ様に取り次いで頂きたい!」
私は、毎日玄関前に立った。
そして今日もメイドに断られた。
いや、もしかしたら、私は試されているのではないか?
よし、今日は引き下がらないぞ。諦めるもんか。
私はなんとしてもリーゼロッテ様の弟子になるのだ。
「せめて一目だけでも! 頼む!」
「イヤです」
「おいメイド。イヤってなんだ?」
扉を閉めようとするメイド。私は強引に足先をドアの隙間にねじ込んだ。
「だって、暗殺者でしょう?」
「貴様、何故それを?」
「自分で名乗ったじゃないですか」
「はっ、そうだった。いや、過去形だから……」
かくなる上は、プライドなど捨てて!
ザ、土下座を喰らえ!!
「お願いします! どうか後生ですから」
玄関の石畳みに、私は額をこすりつけた。
その瞬間、
『バタンッ』
と、扉が閉ざされた。
「……」
『ドンドンドンッ』
私は、猛烈に扉を叩いた。
「おい! こらメイド! なぜ閉めた!?」
そして再び扉が開かれると、メイドの視線は酷く冷めていた。
「まだ、なにか?」
かくなる上は、力ずくでもまかり通るしかない。
「すまない、少し眠ってもらう!」
角度45度、打ち下ろす手刀でメイドを眠らせる。
はずだったのだが、
『パシッ』
と、私の手首が掴まれた。
「なっ」
そしてメイドは、そのまま私の手首を捻り上げた。
転ばされる!
私は、先に転がり勢いで手首を解き、距離を空けた。
そして身構えようとした刹那、すでにメイドは距離を詰めていた。
コイツ、出来る!
メイドから繰り出された拳は、私の顔面を狙って来た。
私は片手で受け流し、体を捻って、後ろ回し蹴りを繰り出した。
『ガシンッ』
それをメイドは膝で受け止めた。
私は次の攻撃が来る前に後ろに下がって距離を空ける。メイドも同じく距離を空けていた。
仕切り直しだ。
しかし、まさかここまでの手練れがいたとは、正直驚きだ。
その時だった。
「ローザどうしたの?」
この声は、リーゼロッテ様!
私は、間髪入れずに叫んでいた。
「リーゼロッテ様! 私はヘキサと申します! 改心しました! どうぞ私を弟子にしてください!」
私達は何度も命のやり取りをしてきたのだ。心通わぬわけがない。
「んー。どなただったかしらぁ?」
うう、いじわるっ。知らないフリだなんて!
私の暗殺術を全て退けてきたではないですか!
「ああ、思い出した。シャルちゃんに突進していった8番の子ね! あの時はごめんなさいね?」
暗殺術に気が付き、私をぶっ飛ばした件を、あくまで表向きの部分で?
はい、人の目もありますし、それで十分ですとも。
「どうか、私をお使いください! 必ずやご期待に!」
私は、ここぞとばかりに自分を推していく。
リーゼロッテ様は、ニコニコ笑顔で仰った。
「あら、仕事がしたいのぉ? じゃあ先日のお詫びに雇ってあげるわぁ」
「は! ありがたき幸せ!」
「ヘキサちゃんをメイドにします。ローザちゃん、よろしくね?」
「かしこまりました」
ん、私がメイドだと? あれれぇ?
「どうかした?」
と、リゼ様はやっぱり笑顔だ。
「いいえ、誠心誠意メイドとして働かせていただきます!」
このローザという娘も、相当な手練れだった。つまり表向きはメイドで、と言う事に違いない。
※※※※※※
(SIDE:アナザー)
「ヘキサが裏切っただと?」
「いや解雇なので、厳密には裏切りではない」
「不味いな。ヘキサが組織の事を喋りでもしたら……」
「うむ、ヘキサも消すしかあるまい」
「しかし……、誰がいきますか? あの悪魔リーゼロッテのもとへ」
「こうなったら戦力は多いほうがいい。総力戦だ」
※※※※※※
(SIDE:ヘキサ)
私の名前はヘキサ。伯爵家のメイドだ。
今日は屋敷の庭の草むしりをしている。
ヒラヒラのレースをあしらった衣装は、まったく作業に向いていない。
だが、きっとこれも修行に違いない。
そして、テラスからのお言葉を頂いた。
「ヘキサが来てくれて助かるわぁ。可愛いし働き者だし」
身に余る光栄です。リゼ様。
必ずや、貴女様の期待に応えて見せますとも。
でも、ふと思う。
メイドの仕事もいいかもしれない。
いやいやいや違う。私は修行の身だ。
そこへリゼ様が降りていらっしゃった。
「でも、やっぱりお庭が広いと大変よねぇ」
「はい、立派なお屋敷ですから、あ、いえ、ですが、これくらい私が必ずっやり遂げて――」
その時、スキル“暗殺者の勘”で、ビビッときたのだ。
何者かが、潜んでいる。それもかなりの数だ。
「ヘキサちゃんの服も汚れるし、やっぱりさっさと片付けましょうねぇ。じゃ少し下がって?」
「え?」
私の勘が、最大級の危険を告げた。
そして咄嗟に飛び退いた。
「えぇい。 暴風乱舞」
『ビュオォォォォ』
「「うわぁぁぁぁぁ」」
庭に十数人も潜んでいたのか! そしてぶっ飛んでいく刺客たち……。
なんと言う事だ。リゼ様は、この事を既に見越していたのか。
しかも刺客なんて全然眼中にない様子で、私だけをご覧になっている。
※※※※※※
(SIDE:アナザー)
「いたぞ、ヘキサとリーゼロッテだ」
「慎重に行け、リーゼロッテに気取られるな」
「ふふ、ここまでの接近を許すとは、噂程ではないな」
「今だ! 皆で一気に行くぞ!」
「えぇい。 暴風乱舞」
『ビュオォォォォ』
「「うわぁぁぁぁぁ」」
※※※※※※
(続、SIDE:アナザー)
「またしても失敗か……」
「すべての戦力を投じてこのざまとは……」
「ふと思ったのだが、こちらが手を出さなければ、安全なのでは?」
「え? そうなの?」
「ほんとに?」
※※※※※※
(SIDE:ベネット)
ああ、うんうん、たまには出番のない日もあるよね。
そして、我がベネット伯爵家は今日も平和だったのだ。




