第15話 側室があらわれましてね。
知ってた? 遺跡迷宮も財源になるって。
俺はシャルに聞くまで、知らなかったよ?
魔王はやっつけたし、聖剣がある限り魔物も現れない。
と言う訳で安全な観光地として新たな財源となる。
シャルはこのことを王都に周知した。
結果、どうなったか。
勇者一行が魔王を倒した遺跡と言う事で、観光客殺到。
勇者が領主を務める土地と言う事で、移住希望者殺到。
それと再三申し上げておりますが、俺、シーフですけどなにか?
ちなみに余談ではあるが、何故シャルはこの妙案を思いついたのか。
答えはローザの入れ知恵だった。
シャルは、それを俺にそっと告白してきたが、シャルだからこそ出来た宣伝でもあるので、二人の手柄だとシャルを褒めてやった。
良い判断だと、ついでに自分も褒めてやった。
しかし新たな問題も発生した。
「土地はあるけど、観光客の宿も居住地も、建築が間に合わないよぉ」
と、困った事があると俺は直ぐ母さんに頼ってみる。
もしかしたら、とんでも魔法で、ちょちょいっと……ならないかなぁって。
「そうね、いい方法があるわぁ」
おお、さすが母さん、やはりとんでも魔法が?
違うわ馬鹿め、何でも魔法で出来ると思うなベネットよ。
と、自分で自分を叱責してから数日後。
母さんの知らせを受け、以前お世話になったシュペーさんが、何人かの使用人と娘をつれてやってきた。
なるほど、シュペー商会の会頭。あの時築いたコネクションが、ここで生かされるわけか!
それから直ぐに、応接間にお通しして、俺と母さん、そしてシャルとで話を伺う事にした。
出来るメイドのローザにも、勿論スタンバイしてもらっている。
「観光地整備と職人の手配。そして資材はお任せください。トラム村をベネット伯爵領の中心都市に押し上げましょう」
シュペーさん、かっこいい。
と言うか、もともとココしか集落ないけどね。
しかし都市になると聞くと、胸が躍る。
だから俺は速攻だ。
「是非、お願いします」
「ええ、つきましては、二つばかりご相談が」
商人なのだから条件はあるでしょう! あるでしょうとも!!
貴方、無理いわない人って俺知ってるよ、だから、
「ええ、相談を伺いましょう」
と、俺、いい笑顔で応じる姿勢。
「観光業、商業を是非、我が商会に仕切らせていただきたい」
むしろ願ったりですよ、ええ。プロに任せて儲かるならウインウインだ。
いい笑顔継続中。
「で、もう一つは?」
「この娘を、是非、伯爵様の側室にしていただきたく」
いい笑顔かたまる。ソクシツってなんだっけ? 脳内検索。
検索結果がヒットするまで、約3秒。
うーむ、14歳か15歳といったところか。
長い黒髪に茶色の目、眼鏡がキリっとしてて美人だとは思うのだが……。
俺、固まった笑顔のまま、静かな母さんを見る。別に顔色を窺うわけじゃないんだが、参考までにね。
「まあ、伯爵だもの。お母さんは歓迎よぉ?」
で、この答えである。
え、いいんだ? というのが俺の感想だ。
たまに不思議に思う事がある。それは、母さんのこのおおらかさだ。
俺が、人族の街にいた時のこと、
『恋はするものじゃない。落ちるものだ』
なんて、おれが追放されたパーティーのリーダーは言っていた。
だが、エルフに関して言えば、恋すらもひっくるめて育む性質がある。
愛も蓄積するものだから、ゼロからスタートでもやっていけるのだ。
母さんの発想は、まさにエルフのソレなのだが、話に聞く“親父”との関係が、妙に不自然に思えたのだ。
「ミカ・ベルドナンドと申します。旦那様、よろしくお願い致します」
と、ミカは既に乗り気の様子じゃないか。
まあ、美人だから良しとす――、
「わわわ、私は、私は……」
と、シャルが動揺マックスで声を発した。
勇気を振り絞った感がある。
そうだ、忘れていたが、重要なのはエルフがどうとかより、人族であるシャルの気持ちだ。
「正妻の、シャル、シャル、シャルシャルロッテと申しますわ」
シャルは、気丈に振る舞っている。名前が、シャルシャルシャルシャルロッテ、みたくなってるが。
「いいのか?」
俺は、シャルを傍らに呼んで問い掛けた。
「ええ、正妻のよよよよ余裕ですわ。それに、領地が発展するならららら」
よよよよ余裕ね。なんか、歌っているみたいな動揺の仕方だが、目が口ほどの物を言っていた。
“私は大丈夫”ってね。本当にいい子だ。
だから俺、シュペーさんに即答する。
「では、改めてお受けしますよ」
鉄は熱いうちにって言うしね。
「私が言うのもなんですが、ミカは類稀なる商才があります。必ずや領地経営の一助になることでしょう」
シュペーさんも満足げだ。よろしくな、お義父さん。
で、改めて見ればシャルはミカに引き攣った笑みを向けている。
それに対し、ミカは眼鏡を光らせ、余裕の笑みだ。
妙なライバル心だろうか? まあ、……時間が解決してくれることを願う。
それから数日。
で、今後トラム村村長が都長になるとしても、一人では色々が無理だ。
と言う訳で役人も雇う事に。
早速募集した。
「このたびは領主就任おめでとうございます。徴税官のゼニッスと申します」
と、王国直轄地だったころからの担当役人が一番にやってきた。
面接は、俺と母さんとミカで行う。
ゼニッスは、臆面無く俺に小箱を差し出した。
受け取って開けてみれば、金貨が50枚程度入っていた。
いわゆる賄賂だ。
それから、しばらく面談をして、満面の笑みでゼニッスは出て行った。
手応えありって感じなのだろう。
だが、母さんが直ぐに言った。
「あれは駄目ねぇ」
「ええ、義母様。ですが、一つだけいい事が分かりました」
ミカの同意後に続く言葉に、俺、首を傾げた。
「ミカさーん、教えてぇ、いい事とは?」
と、俺は生徒気分だ。
「金貨50枚出しても、役人に付きたいと言う事は、この土地にそれ以上の価値があると試算したからです。いわば、これは評価額ですから、新興の領地としてはかなり良い評価です」
な、なるほど、頭いい子だ……。
で、母さんは、金貨50枚を眺めながら言った。
「このお金は、みんなのために使いましょう。まずは晩御飯に」
みんなの範囲がやたら狭い件については、俺、何も言わないよ。
それからミカの手腕で役人も揃い、俺たちの領地運営が本格的にスタートしたのだ。




