第14話 また魔王が現れましてね。
屋敷にも住み慣れた頃、いよいよ領地経営の勉強をする。
書斎と言う洒落た場所で始めよう。
レッスン1、貴族はどうやって生活しているのか?
主に金銭面でだ。
答えは、その土地から得られる収益。
つまり税収入。
年に二回、村長が集め、領主に上納するわけだが……。
「わおぉぉ」
俺、陽気な声を出す。
収支報告を見て、落ちそうになったテンションを無理やり上げたのだ。
主にトラム村からの税は、木材と小麦で収められていたのだが、それを売却した金額が……。
「前期が金貨2枚? 後期は、3枚……?」
俺、真顔でローザに問い掛ける。
「はい、前年度がこちらです」
「ふむ、前期が金貨1枚と銀貨12枚で、後期が……銀貨45枚だと?」
薄っぺらな紙をガン見する。
「昨年は、相場が低かったので」
報告は一枚に収まる情報量だから、わーい、簡単だぁぁ。
では無く。
「ローザの給金は?」
「年俸で、金貨12枚です」
はい、その時点で赤字。赤字ですよ。
今までは、王国直轄地と言う事で、国がローザの給金を払っていたが、今回から領主が払う事になる。だから赤字だよ!
で、俺は考えた。
さて税収を増やすにはどうしたらいいのか?
答えは、住人の数だ。
では住人の数を増やすにはどうするか?
土地だよ、住むための土地!
で、早速相談した。
「トラム村を大きくするの? そうなると平地を増やすことになるわねぇ」
と、貴族らしく、優雅にバルコニーで紅茶を嗜んでいる母さん。
「へっへっへ、何か、いい案を一つ……」
手を揉みながら、小悪党チックに頼んでみる。
「そうねぇ、じゃあ、お母さんが、山を削ってみましょうかぁ?」
お菓子でもあげるような気軽さだ。
簡単に言うけどさ、普通はそんな事言えないよママン。
だが、俺も実は確信犯。城を一つ消した前例があるのだ。
出来ることは当然知っている。
ただ無理のない程度に、と念もおす。
と言う訳で、早速削る山の選定に入った俺たち。
削ったせいで災害につながるような場所や、薬草採取が出来る場所や、山の幸の多い場所も当然避ける。
で、目を付けたのが北側にある荒れた山だ。
そこだけが何故か草木も生えず、岩と乾いた土だけになっていた。
なぜ、ここだけ? とは思わなくもないが。
得られるものが無い土地ならば、悩むまでもない。
荒れた山に向かい、母さんは早速、スタンバイしている。
で、魔力を練り始めた。
「じゃぁ、行くわよぉ、|地殻形成《grand forming》」
『ゴゴゴゴゴッ』
でもって、うわああ、地震だぁ! って叫びたくなるほど、辺りが揺れた。
原因が分かっているから叫ばないけどな。
ちなみに前もって地域住人にも、揺れることは通知済みなので安心だ。
綺麗な更地が出来ま……、ん?
「ベネットちゃん。何かの神殿かしらぁ?」
と、母さんが首をカクリ。
荒れた山が無くなったせいで、ぽつんと遺跡が姿を現していた。
様式からして、かなり古いものらしい。
と言うわけで、善は急げ、冒険だ!
メンバーは母さんと俺とパンサー。
危険なのでシャルは屋敷でお留守番。
ローザは……戦えるの様な気が凄くしたが、シャルの護衛にやっぱりお留守番。
「なんか嫌な予感がするにゃー」
猫のくせに、怖気づきやがって。
まあ、この場合、猫なのは関係ないが。
パンサーは、なんだかぷるぷるしていたが、猫の手も借りたいので強引に連れていく。
神殿風の遺跡に入ると、直ぐに地下へと向かう階段が主張していた。
というか、階段しかないので松明片手に降りていく。
階段を下りて直ぐだった。
『カタカタカタ』
と、剣を持った骸骨が大量に歩いてきたのだ。
この遺跡は、生きた迷宮だった。
冒険らしくなってきた。わくわくすっぞ。
「私こういうの苦手なのよぉ。|聖光波《holly light》!」
母さんによって、片っ端から浄化されて砂になって行く哀れな骨達よ、さらば。
「ベネットちゃん、母さん怖いわぁ」
と、俺にひっついて来た母さん。全滅させたのは、貴女ですよ。
まあ、母さんにも怖いものがあったのは、新たな発見だ。
その時だった。
『くっくっく。我の封印は解かれた』
と、無駄に響く声が聞こえた。
『我の封印を解いた者よ……、褒美に滅してやろう』
ショートカットしすぎで、ちょっと意味が分からない。
どうやら、また不慮の事故で、何かの封印を解いてしまったらしい。
『フハハハハハ、我の名は魔王アスデス』
勝手に名乗ってくれたので、聞く手間が省けたよ。
名乗りとほぼ同時、虚空にポッカリ黒い穴が開いた。
そして穴の中から、ぼろ衣を羽織り、鎌をもった死神のような風貌が現れた。
空気が一気にピリついた。
とんでもない魔力量と、圧だ。
「ぎにゃー! アスデスにゃ! ヤツは千年前に勇者によって封印されたはずにゃ! なんで復活してるのにゃ~!」
パンサーよ、彼はもう名乗ったよ。だが後半は説明ありがとう。
つまり、母さんが……、いや頼んだのは俺だから、俺たちが解いたと言う訳ですね。ええ。
勇者が封印。つまり、もしかして、ひょっとして、俺の出番なのか? まあシーフですが。
アスデスが俺たちに片手を差し向けた。
「なぁに苦しいのは、ほんの7日ほどだ。|死の重力《death Gravity》!」
おい、魔王よ、それはいたぶり過ぎだろう?
なんて言ってられない程の重力がのしかかって来た。
立っていられない。
俺とパンサーは、地面に張り付けられてしまった。
徐々に圧迫されていく。
「ふ、やるわね、私に片膝をつかせるなんて」
母さんが微笑んだ。
なんかどっかの覇王みたいなことを言っている。
この場合は、母さんが膝を付いた事に驚くべきか、膝を付く程度なのを驚くべきか、悩むんですが?
だが、それだけ厄介な相手だと言う事は分かる。
「私の本気見せてあげるっ! |聖光槍《holly lance》」
眩い光の槍が母さんの頭上に生まれ、そして放たれた。
それは、真っすぐアスデスの胸に突き刺さった。
だが、倒すには至らない。
「ぐあぁぁ、聖なる力だとぉぉぉ」
しかし魔王は明らかに動揺していた。
俺たちを縛る重力が消えた。
母さんも立ち上がり、そして拳を握った。
母さんは、なにかするつもりだ。
俺は、直ぐに身構えた。
「貴方を倒すには、これを使うしか無いようね」
母さん、……一体何を?
「|ほぉぉぉりぃぃぃぃぃ《hooooollyyyyyyyyyy》」
おお!? 母さんが駆け出した。
「パァァンチ」
『ポコっ』
なんだと? 信じられないくらいゆるーいパンチだ。
身長差のせいで、お腹に子供がじゃれたみたいになったじゃん。
今までにない展開ですよね? ねぇ?
魔王も、なんだかポカンとしているのだが……。
5秒ほど、全員が制止してたとおもう。
「ぐわああああああああ、我が、浄化されていく!!」
と、時間差だ。
みるみるアスデスさんが消えてゆく訳ですが。
思わず、“さん” 付けをしてしまうほど、呆気なく消えて行く。
これはアレか、直接注ぎ込んだ的な?
「ふははは、やるな、名も知らぬ勇者よ。だが我は十大魔王の中でも最弱。他の魔王は、こうはいかぬぞ。ふはははは、この世界は破滅に向かうのだ!」
『サァァァァ』
重大なことを言い残して、砂になったアスデスさん。
「十大魔王……、ベネットの邪魔をするなら、私が許さないわ」
母さんが何か、おかしなことを言っているんだが。
魔王が邪魔してくるような事、俺は何するんだろうね?
というか、やったの母さんなんだが。
魔王を封印した勇者のくだりはどうなった? と思わなくもない。
「この淀んだ空気が、荒れ地の原因にゃ。」
と、猫が突然有益な事を言い出した。
「じゃあ、何か? このままじゃ村を拡張できないって事か?」
骸骨が湧いてた原因も、それなのか?
「いや、そこに祭壇があるにゃ。そこに聖剣を捧げるにゃ」
ほんとだ、祭壇があるぅ。魔王のせいで気が付かなかったよ。
捧げれば解決すると言う事なら、三本もあるからな、一本くらい惜しくない。
けど、金銀は勿体ないきがするので、普通の聖剣を祭壇の台座に収めた。
その瞬間から、辺りの空気が変わって行く。
例えるなら、クリーンな感じに。
「ねぇ、二人ともぉ、祭壇の裏に宝箱があるわよぉ」
と、母さんが静かだと思ったら、勝手に漁ってらっしゃった。
で、俺、宝箱鑑定の後、さっさと開錠。久しぶりにシーフの仕事をした。
「パンサー、なんか今回、いい仕事してくれたから、お前が開けていいぞ」
「ほんとかにゃ、わーい」
「何が入ってた?」
「にゃにゃーん」
世界は狭かったようで、パンサーの手には、猫用の聖剣が握られていた。
「エクスニャリバーと名付けたにゃ」
それは好きにしてくれ。
それにしても十大魔王か。
あと……九人? あれ?
「おい、パンサー。お前も魔王じゃなかったか……?」
「んー、新参のワタチを除いてあと九人だにゃ」
数が合わない。いい加減だな十大魔王。
さて置き、これで村の拡張が出来るわけで、まずはそっちを考える。




