第13話 伯爵になりましてね。
トリウス王都に戻って初めにする事、それは報告、もとい報酬を貰う事だ。
で、真っすぐ王城へ。
到着すると、俺たちは直ぐに王の私室へ案内された。
「リーゼロッテ、そしてベネットよ。今回も良くやってくれたぞ」
王様はそれはもう満面の笑みだ。
でもって、王様の横には十歳くらいの女の子も座っている。
「ところでベネットよ、その恰好は?」
聖剣三本のことですよね? ええ、分かりますよ。
「ああ、これはその……、帝国で手にいれましてね……」
女神がぶっ飛びましてね、というか、母さんがぶっ飛ばしましてね。
だから背負ってるんですよ。とは言わないお約束。
まあ、不格好なのは自他ともに認めるところだろう。
「それは、まさに伝承の……」
「王様?」
シリアスな顔をするのは怖いからやめろ、王様。
「うむ。『その者、三本の聖剣のうち、金と銀の二本背負い、もう一本は腰に。伝説の賢者と共に悪を悉く討ち滅ぼすであろう』と、王家に伝わる勇者の伝説だ」
おい、前半、見たまんまと言うか、伝承のくせにえらく詳細だな。
伝説の中で、伝説の賢者って、二重表現甚だしいが、ざっくりしすぎてる悪って何だよ。
ツッコミどころ満載で困る。
というか、そもそも俺は、シーフですが何か?
「まあ! 勇者様が私の旦那様になるのですね」
おい、そこのガール。俺は勇者様とかじゃないから。
というかこの少女、まさか……。
後で、考えるつもりが、すっかり失念していた俺。
思い出したよ。
結婚とか、そんな話ありましたねぇ、ええ。
「私の名はシャルロッテ、シャルとお呼びください。私の旦那様」
少女から飛び出した衝撃の言葉だ。
金糸の髪に、ヒスイのような碧眼。
背丈、顔立ちはまだ年相応と言った感じで幼いが、既に美人の片鱗が溢れていた。
「はっはっは、ベネットよ、シャルロッテは将来、勇者に相応しい立派な妃になることだろう」
王様もノリノリだな。
で、意外かも知れないが、実は、俺もまんざらでは無いのだ。
「花嫁修業は早いに越したことは無いわぁ。ふふ、お母さんが色々教えてあげる」
「はい、よろしくお願い致しますわ。リゼお母様」
母さんが認めた。
他人が聞いたら、これも意外かも知れないが……。
人族に言わせると、エルフはロリ好き、ショタ好きなんて言われる事がある。
これにはエルフ特有の訳があるのだ。
エルフは他種族と婚姻を結ぶ場合、いわば本能的に若い相手を選ぶ傾向にあるのだが、それは何故か?
元来、森で穏やかに暮らして来たエルフは静かなところを好む反面、寂しがり屋。
他とは交わらない種族だったが、時代が変わったせいもあり、エルフも外に目を向ける様になったのだ。
で、エルフは長命だから、気が付けば、“伴侶が天寿を全うした” なんて事もざらにある話だ。
だから、分かるだろう?
エルフが他種族と婚姻する場合、何故若い相手を選ぶのか。
かくゆう俺も寂しがり屋なのだ。
育った娘は愛でるのも、覗くのも好きだが、成長と共にゆっくり過ごすのも悪くないと思う俺もエルフなのだ。
愛と言う感情は勿論ある。
そしてエルフの愛は、時間と共に蓄積するのだと、人族のように冷めないのだと長老が言っていたのを思い出した。
まあ、人族と交わったからこそ言えるのかもしれないが。
「ふふ、まだまだベネットは渡さないけどね」
なんか小声で聞こえるぞママン。
だが、聞かなかった事にしよう。
「考え事は終わったようだな。では、改めて伯爵として相応しい領土を与えよう」
王様、空気読みやがって、待っていたらしい。
で、伯爵領の件も、若干失念していたよ俺――。
で、その日の内に案内されたのが、王都から半日のこの場所。
俺の感想はこうだ。
「何も無いな」
いうなれば雄大な大自然だ。
「ガン坊め! こんな辺鄙な場所を寄越して!」
母さんはご立腹の様子だ。
「いや母さん。ある意味、王様は気を使ったんじゃないか、ほら俺たちエルフだし」
まあ王様は、自然を愛するエルフをイメージしているのだろう。
エルフの里も、実はわりと近代化の波というものが押し寄せてるのだが。
「そう? 母さんは、お買い物に便利な場所が良かったのに、流行りのお洋服を扱うお店とかぁ」
ま、まあ、母さんみたいな考えのエルフもいるさ……。
「俺は、街づくりするのも悪くないと思うけどな」
「あら、冒険したいんじゃなかったの?」
「冒険もしながらさ」
「ふふ、ベネットちゃんがそう言うならいいわ。でも、お洋服のお店は絶対誘致してね」
そこは絶対なのか、心にとどめておこう――。
で、更に移動。
伯爵領唯一の村、『トラム村』に到着。
住人は五十人ほどの人族の村だ。
直ぐに村長含め、村人たちから歓迎された。
穏やかで気さくな村人たちで感じは悪くない。
で、案内された領主の館は、トラム村を見渡せる小高い丘の上にあった。
昔は、公爵クラスの貴族の別荘だったらしく造りも立派だ。
伯爵らしい住まいではあると思うが、俺たちには少し立派過ぎやしないか?
と思った瞬間、玄関が開かれた。
そして一人のメイド姿が、
「この館の管理を任されております。ローザと申します。なんなりとお申し付けください」
と、恭しく頭を下げた。赤髪に黒い瞳は割と珍しいエルフの娘だ。
「ローザちゃん、よろしくね」
「はい、大奥様」
オオオクサマね、つまり把握していると、なるほどね。
「ワタチのベッドも用意して欲しいにゃー」
「かしこまりました。ご用意いたします」
パンサーの主張にも真摯に応えるローザ。
ちなみに猫には、リンゴ箱で十分だろうと俺は思っている。
俺たちは、ひとまず広間に通された。
ここまで見た限りだが、屋敷は綺麗に保たれている。
このメイド出来るぞ。
「ふふ、ローザちゃん、早速だけど、お台所に案内してくれる?」
「畏まりました。こちらです」
今夜はパーティーだそうで、その準備にローザと母さんが動き出した。
で、直ぐにシャルも立ち上がった。
「あ、私も――」
「ああ、シャル」
と、俺はシャルを呼び止めた。
「ふふ、今晩はシャルちゃんの歓迎会なのよぉ? だからゆっくりしててぇ」
母さんが気を利かす。こういう所は、流石です。
俺もソファーを叩いて、座るように促した。
「シャル、大丈夫か?」
俺は、この大丈夫か? に色々を込めたつもりで問いかけた。
そして、この子は大変利発なのだろう。その色々を理解していた。
「はい、王城を早く出たかったのでワクワクですわ。旦那様も素敵な方でしたし」
俺、こんな事を言われたら多少は困惑するのも仕方ない。
だが勿論ポーカーフェイスだ。
ぶっちゃけると、俺はあまりモテた事が無い。
割とダメなタイプのスケベだが、表に出すタイプではなく、デレデレはしない。
属性ムッツリなのだ。
おっほん。
それはさて置き、シャルを見ていて俺は、これがエルフらしく育む愛というモノかもしれないな、とどこか納得してしまった。
しかしまあ、ここ最近、本当に密度の高い日々が続いたものだ。
なんて、楽しい歓迎会の後、俺はふかふかのベッドの中で久しぶりの一人の時間を謳歌した。




