第10話 帝国は救われましてね。
(SIDEアナザー)
「おい、リーゼロッテが動き出したぞ」
「あの悪魔がっ」
「見たか? マダキア城の有様を」
「あの大きさの城を……、まさか古代魔法か?」
「やはり、なんとしてもリーゼロッテを消さなければ」
「ククク、もう手は打ってある」
「それは本当か?」
「ああ、任せておけ……」
※※※※※※
(SIDEベネット)
「くしゅんっ」
「母さん、風邪か?」
マダキア城消失から二週間。
馬車の旅は、驚く程順調かつ平和だった。そして丘を上がればグローシニア帝都が見えてくる。
のだが……、
「なんだか、様子が変だな」
と、俺は丘の上で馬車を停め、様子見に目を細めた。
俺たちのいる街道と繋がる東門が閉ざされているの見えた。
そして城壁の前に見えるのは、恐らく軍勢だ。
ざっと見て千人規模の軍勢だ。
『ドーンッ』
そして、爆音が響いている。
なんと間の悪い話だ。帝都は何者かに攻められている最中らしい。
「これじゃ帝都に入れないな、しかし一体どこの軍だ?」
気が付けば俺は、肩を竦めてボヤいていた。
どこもかしこも戦争戦争。まったくいやになる。
「ふむふむ。あれは、魔族だにゃ」
と、パンサーが御者台に飛び出して来た。
「魔族だって? じゃあお前の手先だった奴等か?」
「ワタチとは関係ないにゃ。恐らくははぐれ魔族だにゃ」
「はぐれ魔族だって?」
「魔族が活性化してるのね」
今度は、母さんが荷台から帝都を見下ろして言った。
「あの、これから同盟になる国です……なんとか助ける事は出来ませんか?」
今度はエリーだ。しかも両手を組み合わせ懇願する様な表情。
幸い固い城壁に囲まれた帝都は、そうそう落ちはしないだろう。
だが、それにしたって籠城にも限界がある。
エリーは、母さんを見詰め、
「そうだ、この間のように、力を奪ってしまえば!」
そして、そんな提案。
だが、提案に反応したのはパンサーだった。
「ダメだにゃ、そもそも魔族は武器に頼ってないにゃ。防具にしたって最初から全裸みたいなもんにゃ」
うむ、確かに言う通りだ。
オークやオーガの類は、素手でも脅威なのだ。
「魔族なら全て倒してしまえば! リーゼロッテ様なら出来ますよね?」
エリーの言う通り、確かに母さんなら多少の無理をすれば出来るかもしれない。
だが、今度も答えたのはパンサーだった。
「魔族を倒すって事は殺すって事だにゃ。殺し合いしてて殺すな、とはワタチは言わないにゃ。だけど魔族だってヒト。いわゆる魔王に組する亜人族にゃ。それでも皆殺しにしろっていうのかにゃ?」
魔族は殺さなければ止まらない。闘争本能が旺盛なのだ。
冒険中遭遇したなら生きる為に倒すべき相手だ。
だが、同じような見た目でも、魔族に属さない亜人族もいる。
人族と共存してる連中だ。
まあ、人族の中には、そんな亜人族を良くは思わない裁量の狭い奴もいるのも確かだ。
で、駆け出し冒険者は割合この問題にぶち当たり、そこで冒険者の道をあきらめる奴もいる。
ちなみに俺も、割り切ろうと努力している口だ。
「パンサーちゃん。つまり群れの長がいるのね」
と、母さんが口を開いた。
「そうにゃ。魔王になれない半端者。部下を使い潰すような、愚かな首領がいるにゃ」
パンサーの表情。
猫の額は狭いが、なんとなく眉間に皺が寄っているのが分かった。
「以前、お前も利用してなかったか?」
と、俺はパンサーが初めて現れた時の事を蒸し返す。
「ふ、ワタシは正真正銘追われてたにゃ。猫の時はよく襲われるにゃ。ふふ、ワタチは一匹狼にゃ」
自慢げに言う事では無いぞ、パンサー。あと狼じゃない。猫だ。
そして母さんは、おもむろに俺を見た。
「ベネットちゃん。お願いがあるの」
「ああ、分かってる。首領とやらを、探知すればいいんだろ?」
マダキアの射手の時もそうだ。母さんは探すことが苦手なのだ。
万能に思えた母さんの苦手な事。
それを俺が補えるのだから、これほど良い事ない。
とは、恥ずかしいので、口に出しては言わないが。
魔族ってヤツは、大抵強い奴に従うらしい。
だから一番強い奴を探せばいい。
そして探すことに関しては、俺はかなり自信がある。
俺は、丘の上から目を凝らす。
ああ、直ぐに見つけたさ。生命力、魔力、群を抜いてるヤツを。
「母さん、アイツだ」
群れの中ほど。
一本角の鬼人王、見つけてしまえば目立つ奴だ。
「じゃあ、行って来るわね」
そう、母さんが浮き上がった。
「なるだけ派手に、他の魔族に見える様ににゃ」
「ええ、分かったわ」
答える母さんが、少しだけ悲しげだったのは、きっと俺にしか分からなかっただろう。
母さんは、一気に飛んで行く。
そしてオーガロードを両手で捕まえると、華奢な母さんは筋骨隆々なソイツを一気に上空まで持ち上げた。
「グガァァァ」
オーガロードが吠えた。
魔族の視線が一斉に母さんに集まっている。
その状態で、母さんはオーガをさらに上空へと投げ飛ばした。
「煉獄よりの炎よ、かの中心にて、その慈悲なき力を、解き放て。大爆発!」
『ドォォォン』
と、魔族の見守る中、高く上がったオーガロードが盛大に爆ぜた。
とても派手に、そして跡形もなく。
きたねぇ花火だ。
そしてその効果は絶大だった。
率いる長を失った群れの中で、直ぐに次の長が決まり、そして長が叫んだ。
「てったぁぁぁい!!」
次の長が利口で助かった。群れは一斉に去っていく。
「ベネットちゃーん」
と、母さんが俺に手を振った。
見えてるよ母さん。
俺は両手を広げ、待ち構える。抱き留めるために。
そして母さんは俺の腕の中に納まった。
「お疲れさま」
母さんは他人では分からない程度の、ほんの小さな機微で悲しんでいた。
だから全部ひっくるめて、俺は労った。
すると、母さんは直ぐに微笑んだ。
「ありがとう」
そしてもう一人、浮かない顔の娘が一人。
パンサーの言葉がよほどこたえたのだろう。
「エリーちゃん。これから学べばいいのよ」
母さんは、直ぐにそんな言葉を投げていた。
ま、乗り越えるのは簡単ではないが、彼女ならきっと出来るだろう。
そして、当然だが母さんの雄姿は帝都の城壁や、城からもはっきり見えていたらしくグローシニア皇帝との謁見が即行で決まった。
「エリー姫よ、よくぞ参った。そして此度の働き、心より感謝する」
で、そのエリー姫は、皇帝の面前で、
「恐れながら皇帝陛下、お礼ならこの方たちへ。彼らがこの国を救った英雄なのです」
なんて言ったもんだから、さあ大変だ。
「かの名高きリーゼロッテ殿であったか、そしてそのご子息とな?」
母さんは、“かの名高き者”だったのね。
もう驚かないよ。
輿入れに来た姫の一団が国を救ったって事で、謁見から一転祝賀ムードとあいなったわけで。
で、皇帝陛下も勢いがついたのか、
「救国の英雄に、これを授けよう」
なんて、目の前に出されたものが、トンデモねぇ。
グローシニア帝国に秘蔵されていた聖剣ですってよ?
で、何故だか俺が受け取ることになったのだ。
あの、シーフですが何か?
「よかったわね! ベネット」
いいのか? ま、使い熟せる気はしないけど、母さんが嬉しそうだから良しとするか。
そのまま、大宴会に突入。
俺、浴びるように酒を飲む。
そして帝国中の貴族娘達にチヤホヤされて、良い気分。
そしてムフフ、イイ事したのか、しないのか……。
酔っぱらって大事なところは覚えてまてん!




