才女との過去その1
これは今から3ヶ月前くらいの出来事だ。
先にいうが俺とイヴは出会って一年くらいだ。
出会って2ヶ月くらいはコミュニケーションに困難し、色々と大変であったが、それ以降はイヴも心を開いてくれたのか自分の要望を言ってくるようになった。
『レイジングくん、お腹減った』
『レイモンドな。わかった今用意するから待ってて』
当時の自分から要望を伝えたとき、イヴは死んだ魚のような目から徐々に生きた魚の目になった。
出会った当初は本当に感情があるのかわからないくらいだったし、何も話しかけてくることもなかったから進歩である。
要件があれば話しかけてきてくれる、この時から掃除から炊事、風呂から着替えまで全て俺がこなすようになった。
『レイテンバーくん。着替えさせて』
『覚える気ないでしょ……なら、レイでいい』
『レイくん……わかった』
ちなみにイヴがレイくんと呼ぶようになったのは名前を覚えてくれない彼女に呼び方を指定したからである。
『あぁぁ!なんで呪符がこんなところに。せっかく片付けたのに』
『なんでここに水の呪符があるの?床ビショビショになったじゃん』
『あ、危ない!包丁を逆手に持つのはダメだって!』
いつしかイヴは俺をあえて困らせるような行動をとった。
初めの偶々落ちていた呪符だったが、2回目は悪戯に置かれたので確信犯だ。
1度目に誤って発動させてしまった呪符に比べて威力の規模が小さかったし、イヴの視線から悪意を感じ取った。
確証は持てなかったけど、イヴの肩がピクピクしていた。
俺の魔法ですべて解決できてから特に文句は言わなかったが。
片付けもサイキックを使えばいいし、水魔法で濡れた床も片付くから。
そんなイヴとの生活は楽しかった。胸にぽかんと開いた穴が塞がれていくような、満たされていくようなそんな感覚。
過ごしてくるとイヴの人間性もわかってくる。
例えば笑いのツボが低すぎる。
『カレーはかれえなぁ』
『ブフゥ!』
カレーを食べたときになんとなく言ったつまらない一言。
イヴがこんなに反応するから調子に乗ってーー。
『野菜は残さずたべやさい?』
『ブフゥ!や…や、やめて』
『布団がふっとんだ』
『ぶふふははは!』
腹を抱えて笑うイヴを初めて見て嬉しかった。
『え、レイくん前世あるの?教えて教えて』
なんとなくこぼした前世のことも話したりもした。
『……レイくんの前世の便利道具私が作ってあげるよ』
魔法の存在しない科学の世界。その世界を話した。何かの冗談かと思ったが、家電の概要少し話しただけで設計図を書き上げてしまった。
イヴなりの普段のお礼だったのかもしれない。
そんな生活も気がつけば半年以上が経過した。
ある日、郵便がイヴ宛に届いた。郵便受けを見たらかなりの手紙が溜まっていたので、イヴに声をかけた。
『イヴ、郵便受け見たらイヴの手紙届いてたよ。読んだら返信書くんだよ」
『……うん。書き方わからない』
『なら、現状の出来事とか、思ってることを箇条書きで書いてみな。終わったら俺が手伝うから』
『うん、わかった』
宛名は男の人の名前だったからイヴの家族だろうか。
手紙をくれる家族がいることを羨ましく思いお節介を焼いたが、特に深くも聞くことなかった。
互いの過去については触れることなかった。
関係が一気に進展したきっかけは秋の日であった。
ギルドから俺指名で落ち葉の片付けをしてくれと頼まれた。
だが、王都から少し距離のある街だったのでを往復2日はかかる。
学院長と相談して2日だけ別のお手伝いさんが来ることになった。
もちろんそのことはイヴに伝えた。
『俺依頼で2日開けるから、その間は別の人来るから』
『うん』
『俺がいなくてもしっかりするんだよ?』
『うん……あ、やっぱレイくんの料理美味しい』
『そんな大したもの作ってないけど……とにかくよろしくね』
『うん?』
この時イヴは食べることに夢中になり話半分で聞いていた。
俺も話が通じたと勘違いしてしまった。
それが悪かったのだ。
依頼を終えていつも通りの任務を復帰する。2日間は長く、久々に会えるのを楽しみにしていた。
多分部屋は散乱しているな、片付けないとなとこれからやることを整理しながら帰宅した。
『ただいまぁ……ってあれ、何やってんの?』
『……レイ……くん?』
ドアを開けると椅子に座って出会った当初のハイライトが消え生気のないイヴ。
目が合うと彼女の瞳から漏れんばかりの涙が溢れる。
『……う……うぇぇぇぅん!」
『え、ちょ……どうしたんだよ』
『いなくならないでぇぇぇ!』
初めて見た大泣き、感情的に泣きじゃくるイヴに戸惑った。
どうにか話をするためイヴを抱きしめ頭を撫で続ける。
『大丈夫、俺はどこにも行かないから』
そうイヴに囁き続けたのだった。
イヴは俺がいない2日間、ほとんど徹夜、飲食もほとんどせず待っていたそうだ。
後で学院長からイヴについて詳細を聞いた。
彼女は魔法工学の名門貴族の中で異端であった。
魔法工学の分野のみにしか興味が持てずそのほかは全てが疎か。
コミュニケーションが不得手で使用人から馬鹿にされた。
一人のお兄さんを除き酷く扱われたそうだ。
そんなひどい環境にいて、イヴは追い出されるように王立魔法学院に来た。
どこか俺と境遇が似ている、そう思ったのだった。
イヴは大泣きした次の日高熱を出してまともになった。
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