才女のサポート
イヴ=ニコラは紛れもなく才女である。
彼女は俺の前世にあった家電製品を再現するほどの力量。
「魔法陣」と呼ばれる技術も開発したのだ。
もともとこの世界の魔道具は呪符と組み合わせ単純な仕組みのものばかり。
例えばコンロの魔道具(火をつけるだけ)、水を汲む魔道具(水を押し上げる)
そんな魔法工学の分野もイヴの魔法陣の開発により変わりつつある。複雑な動きができるようになったのは魔法陣の開発がされたから。
魔法陣は前世でいう半導体的な役割を担う。
魔法陣に組み込まれた仕組みでボタン操作やレバーでの細かい調整など、複雑な工程ができるようになった。
理論はイヴにしかわからない。研究を進めているものの一から複雑な魔法陣を描けるのはこの世界で未だイヴただ一人。
すごいのは、イヴに半導体のアイデアを伝えただけで魔法陣の理論を考え付いた。
本当にイヴ=ニコラは天才である。
そんな彼女を支えるのは俺の生き甲斐だったりする。
「……違う……ここはもっとこうかな?」
イヴは頭の中に魔道具の構造が浮かぶと完成するまで工房で過ごす。
4方二メートルのテーブルの上で寝転がりながら作業するイヴの近くには呪符に魔法を付与する呪符や設計図やメモの書かれた紙が散乱している。
呪符をどう組み合わせるか、どの部品が必要で長さがどんなものかなど、事細かに設計図を描く。
少しでも調整をミスると起動しないし、作成者が意図しない現象が起こったりする。
だから、魔法陣作成は細心の注意が必要であり高い集中力が必要。
「ここがこうで……そうすると」
イヴはぶつぶつと呟きながら描き続ける。
頭で出来上がった構造を記している。
本当にすごい集中力。
ここで声をかけたりするのは経験上良くない、調整をミスり大惨事になりかねない。
だから、俺の役目はサポートである。
まず最初にやることは風を感じさせないくらいに微弱の換気である。
ここは地下室だ。
空気が籠りやすい。
だから、風魔法を使い邪魔にならないように少しずつ空気を入れ替える。
次に様子を窺い反応に合わせイヴに差し入れをしていく。
イヴがいくら才女といえど極限の集中力に限界はくる。
それに食べなきゃ腹が減るし、喉も渇く。
わずかな反応も見逃さないために注視する。
イヴは自分の欲求に合わせて決まった動作をする。それを把握するのに時間がかかったものだ。
ーーペロリ、ペロリ
「唇を舐めたか」
反応はとてもわかりやすい。
今、イヴは舌を舐めたということは喉が渇いたということ。
俺は水魔法、火魔法を使い熱湯作りティーポットに入れる。
この中には香りの良い紅茶の茶葉が入っている。
煎じて紅茶をマグカップに入れる。
氷魔法で適温に冷ますとストローを刺した紅茶をサイキックでゆっくり浮かせイヴの元へ。
そのまま風魔法で紅茶の香りをわかるように嗅がせる。
「……鼻をぴくぴくさせた……反応したな」
イヴが反応を示したらゆっくりとマグカップを近づかせ、ストローをイヴの口に差し込む。
ーーゴク、ゴク
イヴはゆっくりと飲み口を潤していく。
よし、ミッション達成!
俺はその後も様子を窺う。
ーーク〜〜〜
……腹が減ったんだな。
作業スピードも落ちてきている。
これは非常にわかりやすい。
お腹が空いたら次に俺は事前に作っておいたチョコレートバナナを取り出す。
イヴの一口台にカットしたものを一つサイキックで持ち上げ口に運んでいく。
ーーパク…モグモグモグ……ゴクリ。
ーーパク、モグモグゴクリ。
ーーパク、ゴクリ。
いや、最後噛んでないじゃん。
バナナ2本分、食べ終わると口が閉じる。
どうやら満足したようで作業スピードが上がる。
ーーモゴモゴ、モゴモゴ。
「……次はラムネか」
イヴの口がモゴモゴと動き始めた。
これは何か口に食べ物を含みたいという合図だある。
こういう時はラムネを口に入れると喜ぶ。
チョコバナナと同じ容量でラムネをサイキックで運んでイヴの口に入れる。
それを口の中で無くなるタイミングを見計らい口に投入し続ける。
時たまにナッツを食べさせたり、飲み物をあげたりをひたすら作業が終わるまで続けたのだった。
最終的に作業が終わったのは午後6時過ぎであった。
早朝からやっていたから10時間以上ぶっ続けでやっていた。
終わるタイミングはイヴが爆睡をしたら終わる合図である。
過集中をしていた。緊張が終わると気絶するように眠るのだ。
「……お疲れ様ぁ。完成したのか」
イヴが作業をする時、苦と思ってない。
俺はイヴの作業のサポートしかできないが、作業している姿を見るのが好きだ。
むしろイヴの研究に携われるやりがいもある。
「……さて、寝かせる準備しないとな」
栄養は最低限摂らせてある。
このまま寝かせても問題ないが、流石に衛生面がある。
次の日、気分よく目覚めるられるようにしないとな。
「……イヴ、行くよ」
「……ういー」
イヴは寝ながら返事をする。
俺は彼女を両手で抱えてまずはトイレに向かう。
彼女は寝ていても器用なことに日常生活の動作を行える。
「トイレ行ってきて」
そういうとおぼつかない足どりでトイレに入る。
そのまま5分後に流れる音がし、ドアが開いた。
「次はお風呂だよ」
「……うぅぅ」
風呂場へ向かうと、俺はこの前と同じようにサイキックで服を脱がせ風呂場に入れる。
感覚で全て洗うとシャワーを浴びさせる。
お風呂に浸からせるのは危ないから今回はパスだ。
事前に置いてあったパジャマを着させ、ベッドへ直行する。
「……むにゃむにゃ」
「相変わらず幸せそうに寝るな」
イヴをベッドにうつ伏せる。
婚約者とはいえ異性だから少しは警戒したほうがいいかと思ったが……これも信頼してくれているからだろう。
無防備すぎるイヴも心配だな。
……まぁいいや。今更だし。
「……かなり凝ってるな」
変な体勢作業してたから首や肩はもちろん太ももから腰まで全身凝っている。
「準備万端、こういう時のために事前にイヴに作ってもらっていたんだよな」
俺は二丁拳銃の要領で先の球体が一定のリズムで揺れるマッサージガンを取りだし、魔力を込める。
まだ、試作段階であるものの、マッサージの強弱やリズムの強さを調整可能だ。
俺は頭の方から順にほぐしていく。
「……ふにゃぁ」
ゆっくりと時間をかけてマッサージが終わると表情筋が緩み笑いが溢れる。
次にゆっくりと仰向けにする。
手触りの良いフェイスタオルを取り出す。
懐からミスリルの櫛を取り出す。
「ホットアイマスクもどき……やらないよりかましか」
実際ホットアイマスクの容量はわからん。
前世で普通に使ってたけど、原理調べとけばよかったよ。
そう思いつつも快適温度40度くらいに調整し、イヴの顔の上に畳んだタオルを載せる。
魔法を流し続け、温度の微調整を続ける。
「20分くらいか。これ終わったら俺も寝ようかな」
それから20分後ホットアイマスクを外したイヴの表情筋はさらに緩み切っていた。いや、むしろ溶けていた。
リラックスをしているのを確認したら俺も自分の部屋に戻ったのだった。
そして次の日。
「よろしくお願いします」
「ええ、確かに」
俺は薄緑色の制服を着る魔法袋宅急の職員に配達の依頼をした。
魔法袋の説明はいらないと思うが、掌サイズの袋に大量の物量が入るものである。
俺は魔法袋宅急に頼んでグレイスさんに新しい魔道具の設計図と魔法陣を送っている。
イヴの技術力は魔法工学界で一番。もしも彼女が魔法陣を開発した技術を開発したと世間に広がれば取り込もうとする輩が現れる。
知っている人も俺、学院長、ネーメル先生、グレイスさんの一部の人間だけ。
学院長が後ろ盾にグレイスさんが権限をもって魔法工学師統一協会を中心に量産体制を築いている。
ただ、高度な技術だけにイヴの物価は高い。
貴族か、懐が温かい商人くらいしか購入していないが。
でも、制作されたものは俺とイヴの元へ届く。作った便利道具をリスクを負うことなく使えるのは特権だ。
別に俺は冨な名誉が欲しいわけでない。ただ平穏な日々を過ごせれば良いのだ。
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