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才女はおじさんっぽい?

 少し俺自身についてのことを語ろう。


 俺には前世がある。

 日本という国で過ごしていた記憶。

 自分が誰だかとか、どういう人物だったかという記憶は朧げである。

 

 ただ、その記憶が影響してか僅か3歳で自我ができていた。

 それは今世では運が良かったといえよう。


 俺はヒューズ家という優秀な魔法師を輩出する名門貴族の3男として生を受けた。

 魔法師とは魔法使いの上位互換に当たる職種。

 違いは学園を卒業してるか否か。

 国家資格のようなもの。魔法使いとは魔法を使える人なら誰でも名乗ることのできる。

 

 魔法師の家系であることを知った俺は当初、前世の知識を生かして無双してやる……と息巻いていたものである。

 

 だが、蓋を開ければ生まれの家系は恵まれようが俺には才能というものがなかったため名門家の落ちこぼれ。

 5歳の時に魔法を使い、才能がないことがわかるとたった一人、妹を除き家族の人間として扱われなかった。むしろ汚物のように扱われたものだ。

 


 だが、前世があったおかげで使用人の嫌がらせや家族に無視されるのは我慢できた。


 絶望はすれど、前世では魔法というものがなかったので使えるだけで嬉しいのだ。

 

 この世界の魔法は水、土、火、風の四種属で稀に光属性がいるとか。固有魔法を使える人もいたり。

 また、水の派生で氷魔法が使えたりする。


 生まれつき4種族全て使えるが、適性の高い魔法は顕著に偏りが出る。


 俺にはその適性の高い属性がなかったがその反面固有魔法を使えた。

 でも、実戦では使い物にならないと切り捨てられたが。

 才能のない俺はお払い箱なのだ。


 そのせいもあって俺は独学で魔法を使った。

 家の使用人も家族も特に気にせずに放っておいてくれた。

 だから自由気ままに過ごした。


 そのまま初級魔法、固有魔法を使い続けた結果、魔法を複数同時に使え、無詠唱でも使えるようになった。

 魔法を体の一部として扱えるようになったんだ。

 まぁ、それをひけらかすことはしなかったが。

 そんな魔法だけの生活をしていたらいつの間にか15歳で成人していた。

 

 家族関係以外楽しい日々に終止符が撃たれたのはある日、父から唐突に王立魔法学園の試験を受けろと言われた時だった。

 

 何の気まぐれかと思ったが、どうやら父親は俺を追い出すための口実が欲しかったらしい。

 王立魔法学員に不合格という理由付けで。


 結果は言うまでもなく不合格。

 まともに勉強させてもらえなかったし、初級魔法しか使えない俺じゃ、入れないわけで。

 王立魔法学院には魔法師科と魔法工学科の二つがあるものの、残念ながらどちらもダメだった。

 合格できたら憧れの先生に教授して欲しかったと淡い期待もしたがダメであった。


 結果俺はヒューズ家を追放された。

 

 それからは王都で冒険者となり適当に過ごしていた。 

 冒険者というのは何でも屋だ。

 冒険者ギルドという冒険者をまとめる機関が人から受注した依頼をうけ、魔獣の討伐から掃除や落とし物を探す雑用、薬草の採取などをする。

 

 俺は討伐はできないから適当に掃除や雑用、ペットの相手、貧民地区の炊事活動の手伝い、孤児院の子供の相手など、俺の魔法が活かせる仕事を率先して行った。

 初級魔法を使い前世での記憶を生かし料理を再現したり、水の水圧を使った掃除法など、ギルドの人気のない仕事をひたすらに続けた。


 いつからか冒険者たちから「家事師」だなんていう不名誉な異名でバカにされ始めたりしたが気にしなかった。

 なんせ、雑用の仕事で路銀稼がなきゃ生きていけないから。

 

 そんな目的なくのうのうと過ごしていると俺に転機が来る。

 それは王立魔法学院の学院長からの直々の依頼だった。

 内容は「学園の問題児を卒業までの補助」というもの。

 金も前払いだし、何より依頼料が高かった。

 色々と疑問に思うところがあったが、まとまった金が入り、定期的に払われるので受けた。

 まさか、こんな理由で王立魔法学院に踏み入れるとは思っていなかったが、依頼書に書かれていた場所に移動する。

 古書が多く保管される第二図書館を指定され向かうとイヴがいた。

 

 目は虚で黙々と分厚い本のページを捲るだけ。

 どうすれば良いかわからず様子を窺うとイヴは徐に口にした。


『新しいお手伝いさん?短い間よろしく』


 機械みたいだった。

 インプットされた言葉を淡々と言うだけ。

 俺は仕事だと割り切り行うことになった。

 

 そして、閉館時間になるとイヴは本を閉じて抱えると、トタトタと歩き出した。

 向かった先は学院の外れにあるイヴの家。

 

 俺はそのままついていき、この依頼の意味を察したのは部屋に入った後だった。

 扉を開けると空気が籠り少し異臭がした。


 部屋は散乱し、埃が舞っていた。


 だが、イヴは気にすることなく地下の部屋に入る。そこは比較的綺麗であった。

 作業部屋にいると机の上に置いてあった料理ーー料理というより非常食のようなものだったーーを口に入れると飲み込む。手のひらサイズの球型の浄化玉を使い体を清める。

 そして、料理の入っていた容器を床に捨て再び本の開いて続きを読む。


 事前に聞かされていた話よりイヴの扱いは酷いものだった。


 それが俺とイヴの出会いであった。








「おはよう」


 早朝、意識が覚醒すると胸の上から重さと人の温もりを感じる。

 ぼやけた視界がクリアになり、意識が冴える。

 そこには眠たそうなイヴがいた。


「……おはようイヴ。何でここにいるの?」


 とりあえず、意識がはっきりさせ確認をする。


「……何で?」

「いや、こっちのセリフだからね」


 ふと、考えが浮かぶ。もしかして……。


「夜中トイレ行った?」

「……うん」

「なるほど、寝ぼけて潜ってきたのか」

「……なるほど」

「いや、自分で納得するんかい」


 うんうんと頷くイヴであった。

 これも初めてではない。

 不定期だが潜ってくることもある。


 一応言っておくが、俺とイヴは色々あって婚約者だ。だから、同じベッドで寝ようが問題ない。

 

 ……それにしても今何時だよ。

 

「……5時って……みんな寝てる時間じゃん」

「目が覚めちゃった」

「そうなんだ。……俺も起きようかな」


 イヴを抱えながら起床した。

 一度目が覚めてしまったら二度寝は無理だからだ。




 

 イヴは起床したらまず服に着替えさせ、歯を磨く。

   

 そして、頭のセットをする。

 浴室のドレッサーの鏡前に座ってもらう。

 イヴの髪は癖っ毛のない綺麗な艶のある髪質。

 ミスリルの櫛を使い直していく。


「ふへへ……ふはぁ」


 イヴはこのひとときが好きである。

 ミスリルの櫛で髪を解いていくと声を出しながらくつろいで顔の表情筋が緩んでいる。

 

「昔に比べてレイ君の腕前上がりましたなぁ」

「褒めても何も出ないよ?……はい、終わり」

「ありがと……どっこいしょ」


 イヴは体を重たそうに立ち上がる。

 

「レイ君先台所行ってるよ」

「はいはい。座って待っててね」

「うん」


 イヴはゆっくりと移動する。

 一言交わすと自分の髪の毛をセットし、台所へと移動する。

 

 




「今日の朝ごはんは?」

「煮物、パン、スクランブルエッグかなぁ。あと、ヨーグルト」

「うん」


 台所に着くとイヴが椅子に座り待機していた。

 ぼーっとしているイヴは俺が朝食を作っているととイヴはふと、聞いてきた。

 まぁ、朝食はほとんど変わりないメニューだし、イヴの好みに合わせて食べている。


 俺はお腹に適当に入れればいいので、朝食はどうでも良い。


「……ぐふ…」


 すると、イヴは一人でに吹いていた。

 肩を揺らして笑いを堪えるイヴを見て察した。

 ああ、何か思いついたのかと。

 俺は料理を作り終わると机に並べていく。

 席につき、いただきますと言い食べ始めようとした。


「レイ君レイ君」


 ……毎回思うけど反応に困る。


「どうしたの?」

「その煮物の野菜、しっかりと食べやさい」

「……」

「ぶ……ぐふふ」


 イヴの笑いのツボはどこかズレている。

 ……親父ギャグのどこが面白いのやら。


 ここの対処としては反応するのでなく、素通りすることである。

 そうすれば一人で満足をする。

 黙々と食べ続ける。話を切り替えるか。


「ど、おいしい?」

「……いつも通り美味しい」

「なら、よかった。なるべく栄養には気を使ってるからね」

「……えいよう……ぶ!」


 イヴは再び笑いを堪えながら言ってくる。

 

「レ……レイ君。このご飯の栄養はとってもえいよう」

「……そうなんだねぇ」

「ぶふ!……ふ…ふふ」


 他愛のない会話。

 イヴは親父ギャグを思いつくとすぐに披露したいのか伝えてくるのだ。

 別にスルーしているが、イヴは報告することが大切らしい。

 

 すぐに話を切り替えても問題ない。

 

 イヴの生活習慣は何というか……高齢者というか、どこかおっさんに似ている気がする。

 言動や、親父ギャグが好きなところとか。


 何もなければ椅子に座ってぼーっとして一日終わることもあるし、マイペースな生活をしていることが多い。


 女の子らしくないというか、それがイヴのいいところでもあるので、反応に困る。


「…は…は…へぶしょい!」

「ああ、鼻水出てるよ。もぉ」


 食事が終わり、イヴはいまだに自らが思いついた親父ギャグで思い出し笑いをしている時、ふとくしゃみをした。

 俺はすぐにティッシュを渡したのだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。


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