レイモンドの特異性
「わかったかいイヴ。今日みたいに今後食事中にふざけるのはダメだ」
「ごめんなさい」
イヴが呪符を誤発動させてしまったため説教を行う。
本当に反省しているようなので、ひとまず区切りをつける。色々やらかしたイヴだが、結果的によかったと思っている。
シュベスタが作り笑みでなく、素で笑っていた。
そんなシュベスタはイヴの説教中、紅茶を見ながら時々笑っていた。
こんなやり取りの何が面白いのだか?
色々トラブルはあったが、シュベスタは今日は泊まってくれるらしい。安心した。
食事中にゆっくりと話したいと思ったけどダメだったしな。
説教が終わるタイミングを狙ってたかのように
ーーくぅぅぅ
「……お腹すいた」
可愛らしいイヴのお腹の虫が鳴る。
恥ずがることなく両手で自分のお腹を見つめてくる。
……何故そんなに上手目使いで俺を見ているんだか。これだと俺が悪いみたいじゃないか。
「わかった。温め直して食べようか」
「うん」
イヴを立たせてテーブルに向かう。魔法を使い温め直すと、彼女は食事をがっつく。
「しっかり噛んで食べるんだよ」
「ん」
口に食べ物があったため短く返事した。
しっかり噛んでいることを確認して俺も食べるようにする。
すると本を読んでいたシュベスタと目が合う。
「ごめんな見苦しいところ見せて」
「そんなことないです。久々にお兄様の怒ってる姿見れて嬉しかったです」
「どんなコメントだよまったく」
「ふふふ」
呆れてシュベスタに突っ込むと彼女は朗らかに笑いながら言った。そんな姿に俺は。
「やっぱシュビーは笑顔が似合うよ」
「褒めても何も出ませんよ」
「事実を言っただけだよ?笑ったシュビーは可愛いからね」
「……さ、左様ですか」
真っ直ぐ目を見つめ言うとシュベスタは頬を染めて視線を逸らした。
「昔から褒め言葉に弱いのは変わらないね」「それはお兄様だけです」
「相変わらずのブラコンのようで……変わらないで、安心したよ」
「それは私もです」
ちょっと言い方はおかしいかもしれないけど、やっと元の兄妹関係になれた気がした。
見つめ合う中、食事に夢中のイヴが俺とシュベスタの姿を気がついたらしい。
リスみたいに膨らんだ頬をしていた。
「ふあい?」
なんと言ったのかわからないが、俺とシュベスタはイヴに対して。
「「飲み込んでから話しなさい(してください)」」
声が重なりまた笑い合う。
1年ぶりに再開した家族は変わらぬままだったことに安心したのだった。
今日は色々あった。ちょっとした雑用をこなした。イヴの交友関係、シュベスタとの再会。浮気騒動などなど。
ここまで色々あると流石に疲れた。イヴも珍しく外で行動した結果いつもより早く寝た。
シュベスタは淡々とイヴの世話ルーティーンをこなす俺を黙って見ていた。
驚かれているのか引かれているのか。
イヴが就寝した後、俺とシュベスタはお菓子を出す。
互いにテーブルを間に向かい合うように座ると黙っていたシュベスタの口が開く。
「……お兄様……まさかこれ毎日しているのですか?」
シュベスタは引き攣った笑みをしていた。
まぁ、俺は慣れているけど初めてみる人は戸惑うのは仕方ないか。
どうせ後から知ることになるだろうし隠す必要はない。
「……イヴはちょっと特殊なんだよ」
「いえ、そういう話をしているのではなく……魔法を複数連続で使っていることについてです」
「え?……」
予想外の指摘に首を傾げる。
「まだ屋敷にいる時、このような使い方はしていなかったはずです」
「確かに」
「ちなみにいつからできるようになったのですか?」
「あー……いつからだろう?」
何故シュベスタはこんな興奮しているんだ?
そう考えつつ、あまり意識していなかったけど……。
冒険者としての依頼をこなしている時はここまで使えてなかったと思うし、思い当たるのは……。
「イヴの世話で必要に駆られてやっていたからかなぁ。でも、多分これが出来るようになったのはこのミスリルの櫛をもらってからだな」
懐からミスリルの櫛を取り出す。
魔法は多用することで上達する。
ミスリルの櫛を杖として扱うようになって呼吸をするように魔法を使えるようになった。
今ではミスリルの櫛を使わなくても扱える。
シュベスタは顎に手をよせ考え込む。
「お兄様、あなたはその熟練度の異常さは理解なさっていますか?」
「……いや、たかが初級魔法だろ?こんなの誰でも出来る魔法なわけでシュビーが驚く理由が」
「普通の人は初級魔法を魔力を貯めなしで発動はもちろん、並行して魔法を扱うなど難しい。仮に他人がお兄様の杖を使用したとしても同じことはできません」
「……シュビー過大評価しすぎなんじゃ……」
「私の知る限り、お兄様以上に扱える人は存じ上げません」
確かにシュベスタの言う通り同世代は知らない。いや、同世代が初級魔法を使っている姿は見たことがない。
王立魔法学院の試験で見る機会があったが、全員が中級以上。
だけど、シュベスタが慌てる理由がわからない。ただ初級魔法の扱いが長けているだけ。
以前ネーメル先生からシュベスタと同じようなことを言っていたが。
「……それがなんだって言うんだ?初級魔法が人よりも使えるだけだろ?」
「はぁ……お兄様、認識を改める必要がありますね」
何故に呆れているのやら。
シュベスタは順に説明を始める。
「確かに初級魔法は誰でも使える初歩の技術です。魔法の感覚を確かめる他、自分の得意な属性を見つけるための手段」
そう、誰も知ってる共通手段。
魔法の基礎を習い、魔力の感覚を掴まれば子供でも使えることができる魔法。
「そしてある程度の基礎が出来上がると中級、上級と難易度の高い魔法に挑戦をしていく……それでいつしか初級魔法は使われなくなるんです」
「そうそう、初級魔法って全然評価されないんだよな」
王立魔法学院の合格最低条件は中級魔法が使えること。
この世界の魔法は戦闘特化のため、中級魔法のできない俺はこの世界ではお払い箱ってこと。
途中コメントを挟んだが、気にせずシュベスタは言葉を紡ぐ。
「お兄様、仮に今年の新入生と決闘をしたとしても勝機はどのくらいですか?」
「いや、勝てないだろ?俺魔法の戦闘経験ゼロだよ?」
「実践を積んでいる2学年ならともかく、知識として知っているだけの新入生ならばお兄様が100%勝つと思います」
「え?……どうやって」
「魔法発動前に水球で窒息させる、土魔法で作った鋭利な刃物で傷を負わせる……お兄様は並行して行えますし、瀕死にするのも容易いかと」
……物騒なこと言ってるなぁ。
シュベスタは一応ヒューズ家で魔法訓練を積んでいるから思いつくのだろう。
俺はあくまで生活をするための魔法を使っていたので、確かに言われれば可能だなと思う。
お茶を沸かすとか、灯りをつけるは魔道具で全て代用できるからそれを初級魔法でやろうと言う人も少ないだろう。
「……お兄様が当たり前にやっていることは私からしたら異常なことなのです。でも、言い方を変えれば努力次第で誰でも習得可能なと言うこと」
「ま……まじか」
「マジです」
シュベスタの真剣な表情で説明を聞き終える。ヒューズ家で魔法を教わった彼女の言うことは過大評価などではなく真実なのだろう。
「シュビー、実は」
以前からネーメル先生から誘われている内容、そのことを相談してみることにした。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回最終話です。




