才女と修羅場
シュベスタ=ヒューズはヒューズ家の長女で俺の一つ下に当たる。
年が近いとあって、毎日のように魔法を使い一緒に過ごしてきた。
だが、俺は五歳になる頃には魔法の才能がないとみなされ見放された。
一方、シュベスタは俺と違い才能に恵まれた。
俺と違い、魔力量、魔力規模、魔法速度が抜きん出ていた。
才能に恵まれた、ヒューズ家で最も最有、神童まで言われた。
それでも、才能に驕れることなく研鑽を積んだ。
見放された俺が人目につかない場所で魔法を訓練中、よく俺の近くで魔法の練習をしていた。
シュベスタは他の連中と違う。
他の兄弟たちは皆驕りがあり、自分は選ばれた人間なのだと豪語している。
結果最低限の努力すらせずにセンス任せでいた。
そんな兄弟たちを俺は心の中で軽蔑をしていた。嫉妬だったのだろう、そして俺はそんな連中を咎めようとしない親も兄弟も皆嫌いだった。
抱きついていた俺から半歩くらい距離をとり、俺の片手を両手で掴むとシュビーは詰め寄って聞いてくる。
「何故私の前から去ってしまったのですか?!」
「……すまないと思っている。俺は勘当された身、成人したらその日に最低限の金を渡されて放逐されたんだよ」
「お兄様になんて仕打ち……」
苦虫を噛むように顔が歪むシュビー。
「そんな顔はおまえには似合わないよ。笑顔の方がよく似合う」
「お兄様……ごほん。申し訳ありません」
「謝ることじゃないさ」
シュビーの笑顔は癒される。
やはり笑ってくれていた方がいい。だが、少し違和感を感じる。
それにしてもーー。
「シャビーはどうやって俺の居場所を」
「愛の力……です」
「怖いな……それは」
「そんな引かないでください。冗談です。……見つけるのに苦労しました……冒険者になること以外何も情報が無いのですから。置き手紙くらい欲しいものです」
「それはすまなかったね。苦労をかけてすまない」
0から探すのは苦労しただろう。
家を追い出されて何日か野宿を続け王都を拠点に路銀を稼ぐ毎日。
「でもさすがはお兄様ですわ。今では家事師だなんて二つなをお持ちですから」
「それは褒め言葉じゃないよ。ただ揶揄われているだけ」
「私は誇るべきだと思います。どんな意味を持とうとそれはお兄様のことを知っている人がそれほど多いということ。それに揶揄っているのは小汚い最低限の敬意も示さない質の低い冒険者どもですわよ。見ている人は見てますよ。私とか」
「随分とトゲがある言い方だな」
「ご安心ください、お兄様を悪く言うやろうは私がごうも……いえ、お話しましたから大丈夫ですわ」
「全然大丈夫じゃないよ。生きてるよねその人」
「……さぁ、どうでしょう?」
この人怒らせたらいけないタイプだよ。
意味ありげな笑みを浮かべるシュベスタだった。
絶対敵に回さないようにしよう。
色々あったが、シュベスタとは一年ぶりくらい。
一年経ったが、妹はほどんど変わっていない。再会を喜ぶことにしようか。
「ところでお兄様」
「ん?急にどうした?」
温かかったはずの雰囲気が凍りつく感覚に見舞われる。
急な落差に戸惑う。
「お兄様を探している最中、お兄様を誑かした雌豚がいると聞きましたが……どなたですか?」
イヴもそんな表現している。案内イヴとシュベスタは気が合うかもしれない。
そこまで調べてるのか。妹の調査能力はすごいらしい。
「……俺の婚約者だよ。この一年色々あってね。よかったらシュビーにも紹介したいんだけど……」
「その必要はございません。お兄様には私がいればいいではありませんか……まさか一年会わずにいたからって他の女に乗り換えるなんて……やはり、意地でも拘束すべきでした」
いや、目が虚になってるよ。怖いよ!
浮気を知って問い詰めようとするメンヘラ彼女みたいだからその表情やめて欲しい。
本当に怖い。
「シュビー……まずは落ち着こう。そして、俺たちは血のつながりのある兄妹だ」
「あはは。お兄様はヒューズ家を勘当されているため、元兄妹。今からヒューズ家を乗っ取り、お兄様を婿にすれば万事解決ですわ」
「その考えはおかしい。兄妹で結婚は無理だからね」
いや、この一年で何があったんだよ。
ブラコンを拗らせすぎだよ!
「お兄様……せっかくの再会ですのに……ひどいです」
「いや、シュビーが怖いこと言うからでしょ!」
「……うふふ……。本当に冗談ですので……やはりお兄様とのやり取りは面白いです。……久々に悪ふざけが過ぎました」
「冗談ならいいけど」
してやったりとした顔をしているシュベスタ。
まぁ、昔からこんなやり取りはしているが、流石にここまでリアルなのは初めて……いや、かなり演技が増してる?
冗談ではない気がしてならない。
そのリアルすぎる反応に冷や汗をかく。
「でも、本当にあえて嬉しいよシュビー」
「……はい!私もあえて嬉しいですレイモンド様!」
「え?」
少し視線を俺の右後ろに逸らした後、急に抱きついてくる。
それになんで俺を名前で呼ぶんだか。
「レイくん……誰その女」
「……え?」
平坦な声だった。
誰よりもその声を身近で聞いているから間違えるはずのない。
まさかシュベスタわざとやってたな。
ここで動揺してはいけない。
早く声をかけなければ。
「……いやなんでも、いた!」
「あなた方こそ誰ですか?」
シュベスタに抓られ痛みで言葉が途切れる。彼女はイヴに警戒心をあげていた。
「愛し合う者同士の再会に水を刺すとは!」
「……信じてたのに」
いや!シュベスタ何言ってんの!これ狙ってやってるよね?
タチ悪すぎでしょ。
イヴの表情はよくわからないけど、多分怒ってるのか?
ジュリーさんもいて「修羅場ですわね……」と、この場を冷静に分析し、俺を睨んでいる。
イヴはトテトテとゆっくり俺に近づきながら右手を振りかぶっていた。
何やろうとしてるんだろう?
「あのさ、イヴーー」
「言い訳するなど最低ですわよレイモンド様!」
「いや、あのーー」
「イヴさん!さあ裏切り者には制裁を!」
なんでそんな物騒なこと言うんですかジュリーさん。
俺何も悪いことしてないのに修羅場が……だめだ。状況が飲み込めない。
整理するにイヴは俺とシュベスタが抱き合っているのを見て浮気していると勘違いしている。シュベスタはイヴをわざと煽るようなことを言っている。
ジュリーさんはイヴの擁護をしていると。
ーーペチン
「あの、イヴは何やってるの?」
「さ……最低?」
イヴはちょこんと俺の片頬に触るとジュリーに視線を向ける。
いや、何故疑問系?
「イヴさん、もっとこう……パッと、ギュッと……スパン!ですわ!」
「……え?パ?」
「ちょっと私のレイモンドさんに気安く触れないでください!」
ジュリーさんは興奮していて残念なオノマトペで説明しようてしてイヴは疑問に感じていて、シュベスタはまだこの場を掻き乱そうとしていた。
……この変な修羅場をどう処理すれば良いだろう……目の前で起こっている珍事に収拾がつかなくなったおかげで少し冷静になれた。
「イヴ、この子は俺の妹のシュベスタ。シュベスタ、俺の婚約者のイヴ……とその友達だ」
普通に紹介すれば良いのだろう。
「「「え?」」」
三者三様の反応をした。
シュベスタは驚き、イヴはキョトンと首を傾げる。ジュリーさんはあたふたしていたのだった。




