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才女の友人

 イヴは部屋に着くなりインターホンを鳴らす。

 ドアの左上の方についており、鳴らすと部屋内に音がなる。

 

「はい!どなたですの?」

「ジュリー来たよ!」

「あら、イヴさん!!今開けますわ!」

「分かった」


 ドアの内側から女の声がした。

 あれ?今開けるって言った?俺いたら不味くね?

 そう思ったが、時はすでに遅かった。


「イヴさん!もう、来るなら連絡してくださいまし?!……え……男性?」


 茶髪に近い金髪の髪をやや高い位置のポニーテールに結ぶ落ち着いた雰囲気の女生徒。髪一本一本艶があり、手入れが行き届いている。

 部屋着だったのか、薄緑のワンピースにカーディガンを羽織っている。

 雰囲気はイヴとは対極的だな。


 そんなことよりもこの状況は結構やばかったりする。

 叫ばれて学院の警備員さん呼ばれたらやばい。早く弁明しなければ。


「は、初めまして。俺はレイモンド。決して不審者などではなく」

「レイ……モンド」


 自己紹介をしたらジュリーさんは俺とイヴを交互に見て考え込む。

 ああ、と何処か納得したようだった。


「あなたがイヴさんのご婚約者のレイ様?」

「レイ……様?……俺を知っているのですか?」

「ええ、イヴさんからお話は聞いておりますの」

「あ、そうなんですね。ちなみにどんな話ーー」

「ダメ!話しちゃダメ!」


 イヴは話に割って入ってくる。相当俺に聞かれちゃいけない話らしい。

 その様子にジュリーさんは微笑む。


「あら、……うふふ、レイモンド様、無粋ですわよ?乙女の秘密を知ろうだなんて」

「……それはすいません。無粋でした」

「いえ……あ、まだ名乗っておりませんでしたわね。お初にお目にかかります。ジュリー=エット。よろしくお願いしますわ」

「ご丁寧にどうも」


 育ちの良さを感じるな。

 洗練されたカーテシー、一応俺も貴族出身なので妹の礼儀作法の練習を見たことある。

 見事な淑女だと感心した。


「教養がないため、失礼な言動をしたら申し訳ないです」

「うふふ、お気になさらず。わたくしはそのような些細なことで気にするほど短慮ではありませんことよ?」

「そう言ってもらえると助かります……イヴ?」

「……なんか二人仲がいい……」


 ジュリーさんと会話中、目を細めるイヴが割り込んでくる。

 いや、ただの世間話だっての。


「ご安心をイヴさん。わたくしにはロー様がおります。単なる世間話ですわ」

「……ほんと?」

「ええ、もちろんですとも。わたくしはロー様に一途な女ですわ」

「なら、安心」


 ……この扱いの差はなんなのだろう?

 俺の言葉は完全には信用してくれなかったのに? 

 女の子同士だから分かり合えることがあるってことか?

 ダメだ。女の子の気持ちを理解できない。


「イヴさん、お菓子ご用意してありますわ」

「うん!食べる!」

「あ、ちょっとイヴ……」


 イヴはジュリーさんの部屋に我が物顔で入っていった。俺はその姿にどうしたものかと呆れ、ジュリーさんは笑う。


「お気になさらないで」

「……すいません。ジュリーさん。でも、あんなやつですけど根はいいやつなんで仲良くしてくれると嬉しいです」

「そんなの分かっておりますわ」


 「あれ?お菓子は?」とキョロキョロしているイヴを見ながらジュリーは話す。

 どんな出会いがあったかはわからないが、この人はイヴをどんな人柄か理解しているようだった。


「ちなみにどんな初対面だったのですか?」

「そうですわねぇ。わたくしとロー様……恋人と二人で過ごしているときに出逢いまして」

「つまり空気を読まずに突撃したと」

「うふふ。よくお分かりですわね。少々齟齬はあれど、大方その通りですわ」

「……破天荒というか……よくイヴと友達になろうと思いましたね」

「その言い方は気になりますわね。あなたの婚約者なのでしょう?ひどいと思いませんの?」


 思ったことを口にしてしまい、ジュリーさんに咎められる。

 先ほどの柔らかい表情と比べ鋭い視線であった。誤解を生んでしまったらしい。俺はすぐに訂正する。


「確かに言い方は酷いと思います。訂正させてください。ただ、付き合いは一年近くになりますが、それでもイヴの全てがわかるわけではないのです。彼女の人間性を一番近くで見てきたからわかるのです。進んで人と仲良くしようとしない。……少し環境が特殊で人の視線に鋭い。人との距離感の詰めかたも独特すぎる。だから、人と関わると大体の人が避けようと思うのです。それでも、ジュリーさんは友達になった。本当に感謝してます」

「そうなんでしたわね。わたくしも失礼しました」

「いえ、俺も言葉足らずでした」


 互いに謝罪をする。

 

「ただ、レイモンド様は一つ言わせてくださいませ」

「え?」


 ジュリーさんはそう話を切り出した。


「わたくしはイヴさんと友達になりたいからなりました。真の意味で仲良くなりたいと心から思っております」


 そう言ったジュリーさんは心から言っているのはなんとなく分かったのだった。

 だから、ひとこと。


「芯の強いやつでこだわりの強い手のかかるやつですが、よろしくお願いします」


 一礼した。

 イヴにできた友達1号のジュリーさんとは長く付き合っていきたいものだ。


 イヴの人を見る目は鋭い。

 今まで人の善悪の視線に敏感なのだ。そんなイヴが心を開いたということはいい人なのは確実なわけで。

 だから、安心して任せられる。



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