才女と買い物
「楽しみぃ」
「今日は俺の奢りだから好きなの頼んでいいよ」
今日は珍しく外出をした。
最近頑張っているイヴを労うためである。
買い物して、昼食を取る。
ノア王国は王城を中心に中世ヨーロッパくらいの街並みが広がる。
王城は高くこの国のどこへいても見えるくらい広大だ。
それはさておき、俺たちが向かっているのは魔法道具屋である。
最近呪符や魔法陣を書くための魔法紙や魔法インクが不足していた。
その買い出しも必要なのだ。
たまにはイヴを外に連れ出さなきゃ一生部屋に閉じこもっている可能性も否定できない。
「あら、レイモンドちゃんいらっしゃい!」
「おばさん、どうも」
魔法道具店に着くと出迎えたのはふくよかなマダム。この店の店主である。
俺がよく使うお店である。
「あらあら、イヴちゃんもいるのね。二人でおでかけ?」
「おばちゃん、こんにちわ。うん、デートなう」
「あら良かったわね」
「うん。頑張ったからご褒美」
「そうなのね。なら、いっぱい買ってもらわなきゃね」
「うい」
「やめて下さいよ。俺の財布事情知ってるでしょ?」
おばさんはイヴに気がつくとニカっと笑みを浮かべる。
とりあえず話がややこしくなる前に待ったをかける。
俺の言葉が引っかかったのか、店主のおばさんは俺を睨んだ。
「あんた男でしょう、少しは甲斐性見せなさいよ」
「そーだ…そーだ」
「いや、今日ここきたのは買い出しで来ただけですよ。それとイヴの金銭感覚の社会勉強も兼ねて」
「好きな女の前くらい見栄張りなさいな」
「そーだ…そーだ」
いや、本当にお金がないんだって。イヴは何故か右手を天井に掲げて賛成しているが、無視無視。
なるべく節約はしたい……したいのだが。
最近頑張ってるのも確かなんだよな。
「高いの無理だけど……何か一つなら買っていいよ」
「やったー」
ご褒美を買いに来たわけだから、なるべく要望に応えたい。
イヴは平坦な声で喜ぶとトタトタ歩き商品探す。
そう思い許可出したのだが、おばさんに背中を叩かれてる。
いや、痛いって
「そこはなんでも買ってやるっていうもんさね!」
「痛いですって!それに、イヴのなんでもは限度がないんです。そう答えると」
「レイくんこれ欲しい!」
「……ほら、ああなるんです」
話している最中、イヴが声をかけてきたから視線を向けると案の定予想通りだった。
「確かに、おいそれと買える値段じゃないねぇ」
「でしょ?」
「あはは、まぁ、ゆっくりしなさんな。いつものでいいんだね?」
「ええ」
おばさんは店の奥に入って行った。
イヴが指差していたのは最新式の魔法ペンであった。
銀色の万年筆で持ち手の後ろの部分に宝石がついている。
値段は破格である。
金貨10枚で4人の家族が贅沢な暮らしができるが、イヴが欲しいと言ったやつはその10倍以上の値段。
やはり、ミスリル製っていうのも原因だが、色々と機能が優れている。
見出しも、「魔工師ならこの一本で全て解決!」とある。
性能の違いについては、例えば今イヴが使っているペンも市場に流れているものより高いものだ。
だが、イヴが欲しいと言っているやつは今使っているよりも魔法紙への術式を刻む速さが倍以上。
それにインクいらずで修正もすぐできるらしい。
「……流石に高いから、今買わずにゆっくり考えよう?」
「……」
シュン…と落ち込むイヴ。
欲しいものに忠実なのか……いや、違うか。
イヴにとって魔法ペンは体の一部、上を目指すにはより良い物を欲しているのか。
でも、すぐに欲しいと言ったから買うと金銭感覚がズレるし、俺の財産が一気になくなる。
「……うい、わかった」
「悪いね」
「……なら、あれ欲しい」
すると、すぐ近くにあったのは、3人いてようやく運べる質量のありそうなゴツゴツとした赤い石の塊。中にライトがあるようで輝きの強弱があったり、生きているようだ。
魔石は魔物を倒せば取れるが、中にはドラゴンなど大型の魔物を倒すと純度の高いものが取れ、それが今店にあるような感じだ。
しかもあれは
……値札を見ると……いや、高すぎるって。しかも魔法ペンよりも高いよ。
だが、全面的にだめ!と正面から切るのはいけない。
なんで欲しいのかを聞く。
「あんなに大きな魔石何に使うの?」
「眺めるよう」
「あれは少し大きすぎるような」
「……綺麗なのに」
……確かにすごく綺麗なんだよなあ。神秘的だし。
イヴは疲れている時はよく一人でボーッとすると一点集中で眺めている時がある。
火を眺めていると落ち着くような物だ。
……何か別な物を。
「なら、これなんてどう?……魔石を入れると水晶の中の絵が動くんだって」
「……あ、いいかも。見てて落ち着く」
クリスタルボールに意識を向ける。
魔石を設置することで中の絵が規則的な動きをするらしい。
これなら値段は少し張るが買えなくもない。
「これがいい!」
「そうか、ならそれを買おうか。好きなのとってね」
「うい!」
ご機嫌戻ってよかったよ。
「待たせたね」
どうにかひと段落ついたタイミングで戻ってきたおばさんが商品を揃えて持ってきてくれた。
「イヴ、会計するから欲しいの持ってきて」
「……うん」
「いつもありがとうございます」
「気にすることないよ。今日も割引しといたよ」
「あはは、ありがとう」
おばさんは優しい。
特に常連さんには。
ーーコト。
テキーさんと話しているとイヴが会計カウンターに置く。
イヴが持ってきたクリスタルボールは中に綺麗な薔薇が写っていた。
「シンプルなやつだね。……なら、これも追加で……ん?イヴ?」
会計をしようとしたら、イヴが服の裾を引っ張る。
首を振るイヴはクリスタルボールが陳列されてる棚へ向かう。
すると。
コト、コト、コト、コト。
一定のリズムを奏でるようにゆっくりとクリスタルボールを置いておく。
いや、あのさ……イヴさん。
「10個も入らなくない?」
「全部気に入った!レイくん買って!」
「いやいや、胸張っていうことじゃないからね」
イヴは鼻息をフンッと吹き出し何故かドヤ顔。
「一つにしなさい。こんなあっても意味ないでしょ?」
「……ぶぅ」
「膨れてもだめなものはだめ」
少し口論があったが、最終的に薔薇色が魔力量で変わる一輪のクリスタルボールを買った。
好きな物を買ってあげると言ったものの、最終的にイヴは妥協してくれた。
本当に申し訳ないと思ったがーー。
「ふひゃ!……見て見てレイくん綺麗だよ!」
「そうだね」
思いの外はしゃぐイヴに安心したのだった。
その後、俺とイヴは魔法道具店を後にした。
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次の話は6時投稿します。




