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いつもの通学路

作者: 猫藤涼水

※小説ではなく台本です

 『いつもの通学路』



○登場人物

●加賀優也(17)

 とある高校の2年生。

●赤城志乃(17)

 とある高校の2年生。



  マンションの通路。エレベーター前。

  ばったりと会う優也と志乃。


優也と志乃「あ……」


  エレベーターが到着して扉が開く。

  乗り込む優也と志乃。

  扉が閉まり、エレベーターが動く。

  間。


優也「おはよ」

志乃「うん」


  エレベーターが到着して扉が開く。

  優也と志乃の足音。

  車が横を通り過ぎる。


志乃「……なんで着いてくるの?」

優也「なんでって……学校行くからだろ」

志乃「……ああ」

優也「久しぶりだな、一緒に学校行くの」

志乃「そうだね。もう半年くらい」

優也「志乃と歩く通学路懐かしいわ」

志乃「いつもの通学路だよ」

優也「まあそれもそうか」

志乃「そうじゃなくて」

優也「?」

志乃「……何でもない。それより、迎えに行かなくていいの?」

優也「え」

志乃「彼女、迎えに行かなくていいの?」

優也「……別れた」


  短い間。


志乃「そっか」

優也「だから今日はこの時間に出た」

志乃「今日だけ?」

優也「今日から」

志乃「だよね」

優也「何だよ?」

志乃「別に。何でもない」


  間。


志乃「あのさ」

優也「ん?」

志乃「あー、最近どう?」

優也「どうって……いやまあ、ぼちぼち?」

志乃「そっか……」

優也「あー……そうだな、新作のアニメ見てる」

志乃「スパイが家族作るやつ?」

優也「そうそれ。あれ面白いな」

志乃「私も見てる」

優也「志乃が好きなのは娘だろ?」

志乃「そう。優也は母親でしょ」

優也「うん。殺し屋ってかっこいいだろ」

志乃「それはそう」


  笑い合う優也と志乃。


優也「話すのも久々だから、めっちゃきごちないな」

志乃「もうぎこちなくないよ」

優也「そうだな」

志乃「ねえ、なんで別れちゃったの?」

優也「話題そこに戻るんだ」

志乃「気になる。教えて?」

優也「あー、なんつーか……」

志乃「うん」

優也「音楽性の違い?」

志乃「そういうのいいから」

優也「悪かったよ」

志乃「で、本当は?」

優也「シンプルに上手くいかなかった。最近は会話するのもダルくて、俺から振った」

志乃「……そっか」

優也「付き合ってから相手の価値観ってのが見えてくるもんなんだな」

志乃「どゆこと?」

優也「……めっちゃ悪口になるよ?」

志乃「他人には言わない」

優也「いやまあ、うん、信じるとするか」

志乃「私口堅いよ?」

優也「わかったわかった」

志乃「それで?」

優也「めっちゃグイグイ来る!」

志乃「早く」

優也「わかったって。例えば……うーん、あいつデートしてると露骨に俺に物ねだったりするんだよな」

志乃「ほう」

優也「アクセとかを『これ買ってー』ってストレートに言ってくれるならまだいいんだけど、そうじゃなくて『これほしいなあ。ダメだよね?』みたいな甘え方してくるっつーか」

志乃「うわー、高校生同士なのによくアクセなんてねだるね」

優也「それな。別に彼女相手にくらい優しくするけどさ、なんか優しさを強要されてるみたいで窮屈だったわ」

志乃「災難だったね」

優也「まあ、仕方ないわ」

志乃「緊張ほぐれてすぐに元カノの愚痴とは優也らしいね」

優也「お前が言わせたんだろ卑怯だぞ」

志乃「私そんな酷いことさせてなーい」

優也「マジでこいつねーわ」

志乃「あはは、ごめんってばー」

優也「知らねー」

志乃「大人げないぞ」

優也「同い年だわ」

志乃「1ヶ月年上でしょ?」

優也「細かいって」

志乃「優也」

優也「ん?」

志乃「おかえり」

優也「た、ただいま?」

志乃「よろしい」


  間。


優也「志乃は?」

志乃「何が?」

優也「最近どうよ?」

志乃「彼氏なんて作ってませんけど?」

優也「そういうんじゃなくて、近況」

志乃「んー……部活が退屈」

優也「それは俺も同じだ」

志乃「それは奇遇」

優也「同じ水泳部で何言ってんだ」

志乃「うちの高校は男子水泳部と女子水泳部で分かれてますが」

優也「どっちも冬は屋内トレーニングで暇だろ。寒中水泳でもすんのか女子は」

志乃「そのくらいの根性はあるつもりだぜ」

優也「はいはい。まあ元気そうでよかったわ」

志乃「家が同じマンションでもクラス違うと案外話さないもんだね」

優也「そうだな」

志乃「この半年で思い知らされた」

優也「ん?」

志乃「小学校も中学校も高校1年頃も、通学路には優也がいて当たり前だった」

優也「あ、ああ、確かに」

志乃「優也がいない半年は、何だか現実味がなかったよ」

優也「志乃?」

志乃「学校でたまにちらっと優也を見かけると、いつも隣に同じ子がいてさ、そりゃそうなんだけど」

優也「まあ、付き合ってたしな」

志乃「ね。休みの日とかもさ、別にやましいことなんてないのに優也に連絡入れるのはなんか気後れしちゃって、結局絡みなんてなくなって」


  短い間。


志乃「私の中ではいつも隣に優也がいるのが当たり前なのに、現実はそうじゃなかった。私の思う『いつもの通学路』はこの半年間失われたままだったんだ」

優也「こんなこと、今更だけど……俺も同じだ。毎朝ちょっと早起きして駅まで彼女を迎えに行く、そんな毎日を俺の『いつもの通学路』にしたかったけど、違和感は拭えなかったよ」

志乃「だと思った」

優也「わかるのか?」

志乃「優也のことはわかるよ」

優也「俺も志乃のことちゃんとわかるようになりたい」

志乃「ほんとはわかってるくせに。だからさっきの『おかえり』に照れたくせに」

優也「志乃には負けたよ」

志乃「優也、当ててあげよっか?」

優也「いや、それはまた落ち着いてから俺から言うよ」

志乃「ほら、私のことがわかってる」

優也「俺もいい加減認めないとな」

志乃「そう思うなら今すぐでもいいんだよ?」

優也「いや、少し間を空けよう。変な噂が立つのも嫌だろ」

志乃「意気地なし」

優也「意気地なしで悪かったな」

志乃「はいはい。……ねえ優也、私待ってるから。このいつもの通学路で」



〜fin〜

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