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手紙が飛んだ日 手紙が声を超える、その瞬間を信じたい

作者: 狼駄

 僕は久しぶりに手書きの手紙を書いた。とある女性から誕生日に手書きの手紙が欲しいと言われたので、書く事にした。


 少しでも可愛い便箋びんせんを探す。ボールペンがいいかな? と思い、頑張ってみたが、二度も誤字を書き、一度書く事だけに夢中になって、便箋にある線を踏み外してしまった。


 そして身内に手紙を書いている所を見られるのが恥ずかしくて、別に怪しい事をしている訳でもないのに思わず部屋に閉じこもってしまった。


 何とか出来た手紙を読み返してみる。筆圧で文字が崩れた所がある。

 紙の材質によってはペン先が引っ掛かる事もある。そんな事すら忘れていた。


 そして手書きの文字にはどうしても書き順の癖が文字の形になって現れる。これもやっぱり忘れていた。

 お世辞にも綺麗とは言えない手紙。

 だけど書き終えた時、何か不思議な清々しさを感じた。


 手紙、今は廃れてしまった文化かも知れない。

 電話が生まれ、音声でのコミュニケーションが栄え、今ではスマホ一つあれば、どんなに遠くに離れていても声も表情も伝わる日常がある。


 その一方、メール、SNSで文章を伝え合う、繋げ合う文化も、未だに残っている。

 最も心無い伝え方が出来るのも文章だ。SNSはその代表と言っても過言ではないと思う反面、相手に正直な気持ちを気軽に伝えられる手段だとも、僕は思っている。


 きっと人は生きてゆく限り、文章で伝え合う事を決して辞める事はない。ふるい僕はそう思いたいのだ。


 人は時に傷つけ合う。

 些細ささいな言い争いもあれば、命を奪い合う戦争も起こしてしまう事も。

 きっとほんの小さなすれ違いがきっかけなのに。こんなにも繋がる文化が発達したのに、すれ違いは、人の数だけ存在する。


 そのくせ人は、求め合う。

 声を伝えて、歌を唄って、顔を見せて、友になって、皆でたわむれ、触れ合って、抱き締め合って……。

 そして愛し合う。


 愛から新しい命が生まれ、その命は広がってゆき、また繋がりの連鎖れんさが始まる。


 繋がりは無限に広がり、再びどこかで愛と、どこかで傷つける事を繰り返す。


 人の命は有限ゆうげんであるので、無常にも分かり合う事無く、終焉しゅうえんを迎える事もある。


 近くに居ればいる程、伝わらない。いや、伝えられない事がある。

 言葉には裏腹がある。相手を前にして、正直になれるとは限らないのだ。


 だから僕は信じたい。

 声では言えない心の本音。心を落ち着かせて、じっくりと相手の事をかえりみて書く手紙の力を。


 声を超えて、姿を超えて、触れ合いを超えて、ときすら超えて届く文章がこの世にはまだある事を。


 僕はそんな手紙を書きたい相手がいる生涯をこれからも送れたらどんなに幸せだろうと思う。

 だから僕はこれからも書き続けたい。手紙が飛んで相手に伝わる事を信じて。


 2022年5月8日 狼駄ろうだ




 



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