真夜中の美術館
やっぱ。
カナは、トイレにずっと篭り、その時を待っていた。
深夜の美術館、そーっとトイレから出たカナは、家から持ち出した懐中電灯を片手に絵画を鑑賞する。
はじめて夜の美術館を歩く。
脳内には「展覧会の絵」プロムナードが流れる。
胸が高鳴る。
この絵画たちを独り占めしている。
カナは罪悪感より喜びの方が勝っていた。
心臓の鼓動が高まる。
もうすぐ、一番好きな絵がそこにある。
ナロウ・デ・メロウ作「異世界への道」
どこまでも続く一本道の先に宮殿が見える。
そこでは舞踏会が開かれ、煌びやかなスーツやドレスに身を包んだ貴人たちが、実に楽し気に踊っている。
とても細かい描写でリアルに描かれている。
ナロウ世界に込められた憧れと焦燥がそこにある。
カナはまじまじとお気に入りの絵を見つめる。
そして、いけないと思いつつ絵画に触れてしまった。
すっ。
絵をすり抜け、虚構のナロウ世界へと訪れた。
ふらふら。
彼女は一本道を歩き、宮殿へと向かう。
ガチャリ。
扉の向こうは、レッドカーペット。
豪奢なシャンデリアに広々としたダンスフロア。
イケメン王子が歯を光らせ、微笑する。
「いらっしゃい。マドモアゼルカナ。私と一緒に踊ってくれますか」
そっと手を差し伸べる。
カナはその手をとると、王子と踊りだす。
はじめてのダンスなのに上手に踊れる。
まわりからは羨望の眼差し。
時を忘れ踊る躍る。
ふと、気づく。
帰らなきゃ。
王子に礼を言い、宮殿を飛び出し、道を戻る。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
ループ。
焦燥が薄れ記憶が消える。
宮殿がある。
カナは胸が高鳴る。
ふらふら。
彼女は一本道を歩き、宮殿へと向かう。
ガチャリ、扉を開く。
王子の口角が歪む。
「いらっしゃい。マドモアゼルカナ。私と一緒に踊ってくれますか」
メトロポリタン系のお話、気になっちゃうんですよね~。