あのアツい日
こいつは・・・。
「ドラゴンクエストⅢ」が発売された日、玩具屋や家電量販店には多くの人が、殺到し話題のゲームを買い求めた。
そうして社会現象まで引き起こした、ドラクエⅢ悲喜こもごもをA氏の証言で振り返ってみたいと思う。
◇◇◇
あの日、小学5年生の私は玩具へと向かいました。
そう昔から馴染みにしている個人経営の玩具さんです。
正直、焦っていましたね、予約をしていなかったんですよ。
今思えば・・・なんで・・・なんですが、当時は大量に生産販売されるだろうと思っていたんですよ。
だけど、販売日が近づくにつれ、あれ、なんか違うって・・・Ⅱのときもまあまあでしたが・・・、まさかそれよりはるか凄いことになるなんて・・・。
開店の30分前に着いたのですが、お店の前には50人強の長蛇の列・・・いまだかつて、こんなしなびた玩具に人が並ぶなんてことなかったのに・・・。
お店のじぃちゃんが、
「予約の人だけ、渡します」
と言った瞬間に、予約していないみんなからブーイングがあがりました。
すると、じぃちゃんは深く考えるそぶりをして、
「よし、分った。カセットは残り10本ある。先着順・・・」
周りから喜びの声があがります。
「・・・だけど残り一本カセットを買ってくれたら、売ってあげよう」
・・・そうです、あの悪名高い抱き合わせ販売をけしかけてきたのです。
私は悩みました、手持ちに1万しか持っていないのです。
歯を食いしばり、家へと駆け戻ります。
そして、母を必死に説得して、もう5千円を握りしめ玩具へ。
ギリギリ間に合いました。
しかし、抱き合わせカセットは選ばさせてもらえず、「バンゲリングベイ」か「四人打ち麻雀」・・・まさに最悪の2択となりました。
仕方ないので、不本意でしたが、父がたまに麻雀のカセットを楽しんでいましたので、せめてものという思いもあって「四人打ち麻雀」にしました。
「へ~通だね」
じじぃのそんな言葉に苛立ちを感じつつも、ついにドラクエをゲットしたのでした。
懐に大事にカセットを入れ、喜び勇んで帰る途中でした。
「おい」
背後から見知らぬ中学生(学ランを着ていた)が声をかけます。
嫌な予感しかしません。
「いいもん持ってるやろ」
どうやら、ずっとつけられたようです、人通りのない細い道で捕まったのですから。
逃げたくても逃げ道はありません。
「・・・・・・」
ぎゅっと拳を結びます。
「ドラクエⅢ貸してくれや」
ニヤニヤして言いました。
絶対に返す気などありません。
あの顔は忘れることはできませんね。
「いやです」
「殴るぞ」
中学生は拳を見せ脅します。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
足はガクガク震えて涙がでてきました。
なんで・・・なんでっ・・・どうして。
身体は硬直して動きません。
すっ。
「無理すんなや」
中学生は背後に近寄って、囁くと私の懐から大事なカセットを取り出しました。
袋を物色し確認します。
それから、四人打ち麻雀を投げ捨て、ドラクエを右手に掲げると、どこかに行ってしまいました。
私はその場に立ち尽くして、しばらく泣き続けました。
悲しくて・・・悔しくて・・・情けなくて。
・・・これが私のドラクエⅢの思い出です。
結局、友人から二か月後に借りてクリアしたのですが、まぁ苦い思い出ですね。
◇◇◇
ポチッ。
私はレコーダの録音を止めた。
恐怖体験だ。