一人で帰れるもん
神隠し。
ある日の夕方のことでした。
「一人でかえれるもん」
小1のたかし君は、お母さんにそう言うとスーパーから駆けだします。
「たかし、寄り道は駄目よ」
「わかってる」
たかし君は、お母さんに大きく手を振ってバイバイします。
お母さんはなんだか胸騒ぎがして、心配でたかし君の姿が小さくなるまで見ていました。
それから・・・。
たかし君は帰ってきませんでした。
誘拐や神隠し、さらわれたと町中が大騒ぎとなりました。
警察や近所の方々、お父さんやお母さんも一生懸命たかし君を探しました。
けれど、3日経っても5日経っても見つかりません。
皆が諦めかけ、きっと帰り道になにかあったんだと口を揃えて噂をするようになりました。
お母さんはずっと泣き続け、それでも、お父さんは、毎日必死にたかし君を探しました。
◇◇◇
「バイバイ」
お母さんと手を振って別れたたかし君は、真っすぐ家に帰ろうと駆けだしました。
だって、お母さんに買ってもらったアイスを今すぐに食べたかったからです。
右手にしっかりとアイスを握りしめ走ります。
もう家はすぐそこです。
ふと、たかし君の目の中に、いつもと違う景色が見えました。
それは不思議で、ゆらゆらと周りの景色が揺れています。
たかし君はそれがトランポリンのように楽しそうに見えました。
思わず、一歩足を踏み出します。
すごく、すごく不思議なところ。
「わー」
たかし君は、目を輝かせます。
あっという間の出来事でした。
ちょっとだけの寄り道。
◇◇◇
一週間後の夕方、たかし君は家の玄関に立っていました。
何事もなかったように、元気にです。
「ただいま」
って、笑顔を見せます。
お父さんお母さんは、それはもう泣きながら大喜びで、たかし君を強く抱きしめます。
「?どうしたの、おとうさん、おかあさん」
ぽかんとした顔のたかし君の手には、アイスが握られていました。
不思議な事ってあるもんですね。
不思議ゾーン。